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経塚山

小安岳、高松岳、山伏岳


【日時】 8月21日(土)〜22日(日) 前夜発1泊2日 各日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 8月21日:曇り 22日:曇り

【山域】 焼石連峰
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 経塚山・きょうづかやま・1372.6m・三等三角点・岩手県
【地形図 20万/5万/2.5万】 新庄/川尻/三界山
【ガイド】 分県登山ガイド「岩手県の山」(山と渓谷社)、アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「栗駒・早池峰」(昭文社)
【温泉】 夏油温泉・元湯夏油 400円 常備品(無し)

【山域】 栗駒・神室山塊周辺
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
小安岳・おやすだけ・1292.0m・三等三角点・秋田県
高松岳・たかまつだけ・1348m・なし・秋田県
山伏岳・やまぶしだけ・1315.0m・二等三角点・秋田県
【地形図 20万/5万/2.5万】 新庄/秋ノ宮/秋ノ宮、桂沢
【ガイド】 分県登山ガイド「秋田県の山」(山と渓谷社)、アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、秋田の山歩き(無明舎)、東北百名山(山と渓谷社)、山と高原地図「栗駒・早池峰」(昭文社)
【温泉】 泥湯温泉・奥山旅館 500円 常備品(シャンプー、ボディーシャンプー)

【時間記録】
8月20日(金) 20:00 新潟発=(R.7、蓮野IC、R.113、荒井浜、R.345、神林、R.7、本庄、R.107 経由)
8月21日(土) =0:50 東由利道の駅  (車中泊)
4:50 発=(R.107、横手IC、秋田自動車道、北上西IC、入畑ダム 経由)=6:20 夏湯温泉〜6:58 発―7:03 下の林道分岐―7:14 上の林道分岐(牛形山分岐)―7:42 経塚山登山道入口(経塚山4.0km、夏油温泉3.0km標識)―8:09 経塚山3.6km標識〜8:15 発―8:31 経塚山3.0km標識―8:49 経塚山2.1km標識―9:04 水場(経塚山1.6km)〜9:12 発―9:22 お坪の庭(経塚山1.4km)〜9:27 発―9:39 沢―10:20 経塚山〜10:47 発―11:28 沢―11:39 お坪の庭―11:49 水場―12:02 経塚山2.1km標識―12:20 経塚山3.0km標識―12:32 経塚山3.6km標識―12:53 経塚山登山道入口〜13:02 発―13:29 上の林道分岐(牛形山分岐)―13:37 下の林道分岐―13:42 夏湯温泉=(入畑ダム、鹿合、R.397、増田、稲川、R.398、皆瀬、木地山高原 経由)=19:20 泥湯  (車中泊)
8月21日(日) 5:15 泥湯発―5:37 新湯―6:36 水場〜6:41 発―6:44 小安岳分岐―6:51 小安岳〜7:00 発―7:05 小安岳分岐――7:17 石神山分岐―7:52 高松岳避難小屋―7:59 高松岳最高点〜8:10 発―8:17 高松岳避難小屋―9:04 山伏岳〜9:14 発―10:06 登山口―10:08 川原毛地獄〜10:21 発―10:43 泥湯=(秋の宮温泉郷、R.108、雄勝、R.13、新庄、R.47、立川、三川、R.7、神林、R.345、荒井浜、R.113、蓮野IC、R.7、)=18:10 新潟着
全走向距離 752km

 奥羽山脈のほぼ中央に位置する焼石連峰は、焼石岳を主峰とし、花の名山として知られている。焼石岳から東に延びる縦走コースは、経塚山を経て、夏油温泉に下っている。登山口の夏油温泉は、いまも湯治場の雰囲気を残す秘湯であり、この温泉を経塚山、牛形山、駒ヶ岳がとりまいており、これらの山は夏油三山と呼ばれている。
 高松岳は、栗駒山と神室山地の間に位置し、小安岳や山伏岳と共に一つの山塊を形作っている。高松岳への登山コースとしては、虎毛山への縦走路をはじめ、幾つかのコースがあるが、ひなびた湯治場の雰囲気の残る泥油から三山を周遊するコースが開かれている。
 今年の夏は、猛暑の割には、良い天候に恵まれなかった。この週末にと考えていた富山県の山も、悪天候の予報が出たために、方向を180度変えて、東北の山に向かった。天気が悪かったならば、軽く山に登って、温泉に入れば良いという作戦であった。
 東北の山の魅力のひとつは、湯治場のひなびた雰囲気を残す温泉である。ガイドブックを見ていくと、夏油温泉がよさそうであった。温泉の周りには夏油三山があり、登る山にもことかかない。岩手県にあって遠いものの、一般道を北上しても、なんとか翌朝から歩き出せそうであった。そのためには、前夜のうちに、なんとか東由利道の駅まで走り込んでおく必要があった。鳥海山の山麓を走る頃には、稲光が空に光ったが、幸い雨は小降りですんだ。0時を回ったが、少し頑張って東由利道の駅まで走りこんで野宿態勢に入った。和賀岳以来の、この道の駅での野宿であった。
 翌朝には、幸い晴れ間が広がっていた。横手からは秋田自動車道を使い、時間の節約を計った。夏油高原スキー場入口を過ぎると、谷沿いの細い曲がりくねった道が続いた。夏油温泉の入口には、広い駐車場が設けられていた。浴衣姿の温泉客がぶらぶら歩いているのを横目で眺めながら山の支度をした。登る山は、夏油三山とまでとしか決めていなかった。名前からだと駒ヶ岳に心引かれたが、三山のうちでは一番低い山であった。二日で三山は無理そうで、いずれまた来る必要がありそうであった。天気も良さそうなので、一番高い経塚山をめざすことにした。
 歩き出して元湯の温泉街に入ってしまったが、これは失敗。入口手前の休憩所脇から、登山道が始まっており、ここには天狗の岩という標識が立てられていた。温泉街の裏山を登っていくとじきに林道に出た。この林道をわずかに進んだところで、右手に登山道が分かれた。林の中を緩やかに登っていくと天狗の岩の分岐に出て、ここを直進すると、すぐ先で再び林道に飛び出した。経塚山へは左に曲がって林道を進むことになったが、この分岐からは牛形山への登山道が始まっていた。林道歩きで日にさらされると、汗が吹き出てきた。気温もかなり高くなっているようであった。セミの声が、暑さを一層増していた。カーブを描いて林道が下降していき、林道上を流れる沢を横断すると林道の終点となり、登山道が始まった。林道は、沢の手前までは、普通車でも入り込める路面状態であった。
 入口の標柱には、経塚山4.0km、夏油温泉3.0kmとあった。山頂までは、日帰りだと、そこそこのアルバイトが必要そうな距離であった。痩せた尾根を伝っていくと、朱色に塗られた吊り橋が現れた。橋の上から夏油川を見下ろすと、河原の石は赤く染まっていた。橋を渡ると、いきなり急な岩場が現れた。ロープの助けをかりて登ると、尾根の上に出た。どうやら、川沿いのトラバース道が崩壊したための迂回路であったようである。ジグザグを描きながらの、ブナ林の急斜面の登りが続いた。タオルを絞るほどに汗が吹き出てきた。水は2リットル持ってきたが、この様子では、思いっきり飲み干すわけにはいきそうもなかった。高度を上げていくと、牛形山の山頂も目に入ってくるようになった。牛形山は、スラブを抱いた険しそうな山で、次の機会には是非と思った。尾根の上にのって傾斜もゆるくなったものの、細かいアップダウンが続いた。尾根を乗り越して山腹のトラバース道に入ると、水場が現れた。水は細い水流であったが、コップに冷たい水を汲むことができた。水の心配をせずに、思いきり水を飲むことができた。もっとも、その後の登りでは、汗が一層出るような感じになった。背の低いコメツガやシャクナゲの潅木帯を登っていくと、目の前に白い壁が現れた。一瞬、何か判らなかったが、冷気の吹き出しが霧の幕となって光りを反射しているものであった。お坪ノ庭と呼ばれる風穴地帯であった。冷気の吹き出し口に腰を下ろすと、冷房並みに冷えて、寒い程であった。涸れた沢を渡ってひと登りすると木道の敷かれた小湿原に出た。すでに夏草が繁って、湿原という雰囲気は無かった。周囲に笹原が現れるようになると、東に延びる稜線上に出た。山頂に向かって草原が広がっていたが、ガスが流れて遠くの展望は閉ざされていた。そこが山頂かと思った偽ピークまで急坂を登ると、その先は、なだらかな草原の道が続いた。ただ、踏み跡は明瞭なものの、草がかぶり気味で、足元を注意しながら歩く必要があった。登山道は、稜線の一段下に続いているので、残雪期には、登山道を見失わないように注意が必要かもしれない。
 最後に、僅かに登ると、経塚山の山頂に到着した。砂礫地が広がり、かたすみには石の祠も置かれていた。ガイドブックには、焼石連峰や栗駒、早池峰、岩手山の展望が得られると書かれているが、残念ながらガスが流れるのみ。縦走路は岩の稜線を下っていき、ガスの中に消えていた。花の時期は過ぎていたが、山頂周辺には盛りにはさぞ見事と思わせるようなお花畑が広がっていた。ハクサンフウロとハクサンシャジンはまだ見頃。ミネウスユキソウは中心部の頭花が茶色に変わっていたが、星型に広がった苞葉は健全で、お花畑を楽しむことができた。夏の名残を惜しむかのように、アサギマダラやクジャクチョウといった蝶々が乱舞していた。子供の頃だったら、補虫網を持って夢中で追いかけ回していただろうに。蝶々が飛び回るだけの静かな山頂であった。
 ある高さまで下ると、ガスの下に出て、再び暑さがこたえるようになった。途中の水場と林道に出た所の沢水を飲むことができたのが有り難かった。他には、3組の登山者にすれ違ったが、東北の山としては多い方であろう。林道を歩いていると、黒い雲が湧いてきて、遠くで雷鳴が聞こえてきた。足を早めたが、結局雨は降らないでくれた。
 登山でさんざん流した汗を温泉に入ってさっぱりすることにした。夏油温泉には数軒の宿があるが、五つの露天風呂を備えている元湯に入ることにした。道の両脇には、湯治場らしく、あまり見たことのない自炊部門の部屋が並んでいた。自動販売機にビールがあるのを見て、誘惑にかられて、後を考えずに買ってしまった。一番奥の大湯から入浴の開始。新しい男女別の脱衣場が設けられていたが、中は混浴であった。湯は極めて熱く、体を沈めて数をいくつも数えられなかった。子供の頃、日本橋あたりの銭湯では、熱い湯を水で薄めようとしようものなら、恐いおじさんに叱られたのを思い出した。こちとら江戸っ子だいと、我慢の湯であった。数回入れば体は赤くゆで上がり、河原を渡る涼しい風をあびながら、ビールの栓を抜いた。裸で飲むビールは格別であった。子供を胸に抱いた母親が入ってきたものの、足先を突っ込んだだけで撤退。幸い、他の湯船に入ってみると、それぞれ温度が違っており、ゆっくりと中に入っていることができた。五つの温泉を周り終えた時には、ビールの酔いは醒め、湯当たりで足元がおぼつかなくなりそうであった。温泉に入りながら、翌日の山を考えた。夏油三山の残りは、またの機会にすることにした。まだ入っていない他の旅館の露天風呂もある。
 日曜日は、高松岳へ泥湯から登ることにした。この泥湯も、湯治場の雰囲気の残された温泉のようである。高松岳は、昨年の10月に高松岳から虎毛山へ山中一泊で縦走して登っているが、一般に歩かれることの多い小安岳・高松岳・山伏岳の三山を回る環状縦走コースが気になっていた。温泉でのんびりと過ごし、道路が大回りになって時間がかかり、泥湯に到着した時には、すっかり暗くなっていた。泥湯には大きな駐車場が設けられていた。周辺から吹き上がる硫黄のにおいが不気味で、駐車場が傾斜地であったこともあり、この駐車場で寝ることはあきらめた。近くの川原毛地獄にも駐車場があるようなので、下山口の確認がてら、そちらをのぞいてみることにした。車道を進んで、坂を上った所にトイレも設けられた駐車場があった。坂をを僅かに下ると川原毛地獄があり、その先が山伏岳の登山口であった。川原毛地獄の駐車場は、高台にあってガスの心配も無さそうなので、ここで野宿をすることにした。
 翌朝、まずは泥湯の駐車場に戻った。周遊コースであるので、どちらから歩き出すか迷ったが、車道を登りには使いたくないということで、泥湯から歩き出すことにした。駐車場を川原毛地獄よりに出たところに小安岳への登山道が始まっていた。登山道に沿って源泉からのものらしいパイプが埋設されており、歩きやすい道が続いた。周囲には、杉林からブナ林が広がるようになった。谷間に源泉が湧き出している新湯に出ると、沢を渡った先の尾根の登りになった。本格的な登りになるかという予想に反して、谷の奥に向かってのトラバース気味の道が始まった。普通なら、どこかで折り返すものだが、ひたすらにゆるやかな登りが続いた。左手から小安岳の山頂付近の稜線が近づいてきた所で崩壊地に出て、道はようやくつづら折りに変わった。ガレ場の上で展望も開けて、谷向こうに高松岳の山頂が姿を現した。その先で、水場が現れた。窪地の中から、水がしたたり落ちていた。コップを置いて、しばらく待つ必要があったが、飲んでみると冷たい水であった。水場からは、ひと登りで稜線上に出た。分岐から、小安岳をめざした。
 ゆるやかに起伏する稜線をたどると、小高くなった小安岳の山頂に到着した。一帯は濃い笹薮であったが、山頂付近は刈り払われた小広場になっていた。これからたどる縦走路を一望でき、高松岳山頂の避難小屋も目に入ってきた。その右手には山伏岳が並んでいたが、そこまではかなりの距離がありそうであった。気持ちの良い青空が広がっていた。
 分岐に戻り、高松岳をめざした。周囲の展望が開けて、気持ちの良い稜線歩きであった。次の目標地点の石神山分岐には、コース表示はあったものの、登山道は完全に笹薮の中に消えていた。ここから縦走路は右に方向を変えた。小さな前衛ピークを越していくと、高松岳の避難小屋が次第に近づいてきた。昨年の秋には、悪天候の中、昼の休憩でお世話になった小屋である。あの悪天候の中、この縦走路を歩いてきた登山者も多かったが、稜線歩きが長いだけに大変であったろうことに気が付いた。今回は小屋はそのまま通過して、最高点に進んだ。高原状の原を横断してひと登りすると、高松岳の最高点である。湯ノ又温泉からの登山道の通過点といった感じで、あまり山頂らしい雰囲気ではない。最高点の少し下から始まる虎毛山への縦走路を目で追った。あのあたりで幕営に入ったのであろうか。虎毛山への縦走路は、足を踏み入れるのを一瞬ためらわせるように、あいかわらずに草がかぶっていた。休んでいる間にもガスが流れてきて、虎毛山やこれからめざす山伏岳の姿を隠してしまった。
 避難小屋に戻って、山伏岳への縦走路に進んだ。高松岳からは、一旦大きな下りになった。少し高度を落とすとブナ林が現れ、また登り返すと潅木と笹原になるといった垂直分布がはっきりしていた。ひとつピークを越して、少し急な登りを頑張ると山伏岳の山頂に出て。三角点の置かれた山頂は、川原毛地獄への下山路から分かれて左手に少し登った所であった。小広場になって周囲の展望が開けていた。ガスの切れ間から神室山地の広がりを眺めることができた。山伏岳の山頂から高倉沢コースが下っていたが、踏み跡は草で覆われていた。少し下で尾根にのれば踏み跡はしっかりしてくるのかもしれないが、足を踏み出すには、少し勇気がいりそうであった。
 山伏岳の分岐で二人連れが休んでおり、川原毛地獄への下山途中でも数組の登山者に出合うことになった。山伏岳から下り始めると、川原毛地獄の裸地を眼下に見下ろすことができた。川原毛地獄への道は歩きやすく、足任せに順調に下ることができた。周囲に植林地が広がるようになると、登山口に飛び出した。
 泥湯に少し戻った所の川原毛地獄を、観光客にまじって見物した。硫黄の採取場所であったという川原毛地獄は、所々噴気を吹き出し、地獄を連想させるような荒涼とした風景が広がっていた。両登山口の間は、1.8kmの距離があったが、幸いほとんどが下りのために、そう辛い思いもせずに車道歩きを終えることができた。ガイドブックには最初に山伏岳に登るように書いてあるが、この場合には、車道を登りに使う必要があり、あまり得策とは思えない。
 山の後は、これも目的の温泉。泥湯を代表する奥山旅館の風呂に入った。切符は、道路脇のお土産屋で売っており、風呂は道路の向かいにある。男女別の内風呂と、外に混浴の露天風呂が設けられていた。湯は、熱く、少し白濁していた。山の緑を眺めながらの露天風呂は爽快であった。さっぱりしたところで、新潟までの長いドライブが待っていた。川原毛地獄を経由して秋の宮温泉郷へ通じる林道は、ガイドブックには荒れていると書かれていたが、舗装された立派な観光道路に変わっていた。現在では、泥湯への一般的なアクセス道路になっているようであった。

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