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一切経山、家形山、東大巓、東吾妻山

1998年8月22日 前夜発日帰り 単独行 雨

一切経山 いっさいきょうざん(1848.8m) 一等三角点本点 吾妻連峰(福島県)
家形山 いえがたやま(1877m) (福島県)
にせ烏帽子山 にせえぼしやま(1836m) (福島県、山形県)
烏帽子山 えぼしやま(1836m) (福島県、山形県)
昭元山 しょうげんざん(1892.6m) 三等三角点 (福島県、山形県)
東大巓 ひがしだいいてん(1927.9) 三等三角点 (福島県、山形県)
東吾妻山 ひがしあづまやま 三等三角点 (福島県)
5万 福島、吾妻山 2.5万 土湯温泉、吾妻山、天元台、白布温泉、檜原湖
ガイド:アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「磐梯・吾妻・安達太良」(昭文社)

8月21日(金) 19:40 新潟発=(磐越自動車道、R.115、土湯峠、磐梯吾妻スカイライン)=10:30 兎平駐車場  (車中泊)
8月22日(土) 4:53 兎平駐車場発―4:58 浄土平遊歩道入口―5:32 前ピーク肩―6:00 一切経山〜6:15 発―6:37 高湯温泉分岐―6:47 家形山物見岩―6:54 五色温泉分岐―7:03 霧ノ平分岐―7:20 掘田林道口分岐―7:23 兵子分岐―7:37 にせ烏帽子山―8:02 烏帽子山―8:39 昭元山―9:13 東大巓分岐―9:28 東大巓〜9:32 発―9:43 東大巓分岐―11:15 大倉深沢渡渉点―11:23 谷地平木道〜11:35 発―11:48 駕篭山稲荷分岐―11:54 谷地平避難小屋―13:05 姥神石像〜13:10 発―13:16 東吾妻山分岐―13:51 東吾妻山―14:26 東吾妻山分岐〜14:33 発―15:13 浄土平遊歩道入口―15:19 兎平駐車場発=(鷲倉温泉入浴(500円)後、往路を戻る)=19:40 新潟着


 福島・山形県境に広がる吾妻連峰は、東北では飯豊・朝日に次ぐ大きな山塊である。主稜線は、一切経山から烏帽子山、東大巓、西吾妻山へと、2000m級の峰々を連ねて続いている。東大巓を境に、その東を東吾妻、西を西吾妻と呼ぶ場合がある。東吾妻を代表するピークは、一切経山であり、磐梯吾妻スカイラインの開通によって浄土平から容易に登れることから、多くのハイカーで賑わっている。その南の東吾妻山は、鎌沼や姥ヶ原の散策と合わせて、登る者も多い。
 日本百名山巡りとして吾妻山の一切経山に登ったのは、93年6月6日であった。この時は、ガスと残雪のために東吾妻山は途中で断念してしまった。西吾妻山は、94年9月17日に登ったが、この時も雨の降った後で登山道が沢のようになり、西大巓は断念した。吾妻連峰は、天気の相性が悪くて心残りのピークが多く、いずれ訪れてみなくればならないと思っていた。
 本格的な夏の日差しが訪れないままに、秋が訪れようとしている。ひさしぶりに、この週末は晴を期待できそうであった。吾妻連峰のハイキング地図を広げ、一切経山から烏帽子山を経て東大巓に至り、谷地平を経て姥ヶ平に戻り、時間に余裕があれば東吾妻山にも登るという周遊コースを考えた。歩行時間も10時間程で、日の長い夏ならば、無理なく歩けるはずであった。
 前夜発で、夜遅く磐梯吾妻スカイラインに突入した。ゲートは開放されており、通行料金の1570円を節約できた。有料の浄土平の駐車場を避けて、手前の兎平駐車場に車をとめた。以前は、この駐車場には表示も無いただの空き地であったが、立派に整備されていた。夜は星が出ていたが、朝は薄雲がかかっていた。車道を少し歩いて、浄土平の遊歩道に入った。ここも以前と違って、木道が整備されていた。正面には、あらあらしい崩壊地を見せて一切経山がそそり立っていた。確かに、観光客をも魅了する眺めであった。標識に従って、一切経山への登山道に入ると、崩壊地の左脇の急なガレ場の登りになった。踏み跡に従って登っていくと、背後に吾妻小富士の火口を見下ろすようになった。火口の縁が一切経山に傾いているので、この登りからみる吾妻小富士は、絵になっていた。肩に登り着くと、鎌沼の眺めも広がったが、雲のせいか、周囲は薄暗いままであった。肩からピークめざしてガレ場を登ったが、登り着いた所は前ピークで、メインの登山道は、左手から登ってきていた。前回も、この直登コースを歩いたような気がするのだが、現在のハイキング地図では、このコースは破線になっていた。ガレ場の先に盛り上がった一切経山の山頂には、ケルンも見分けることができた。緩やかに登っていくと、一切経山の山頂に到着した。一切経山は日帰りハイキングの山で、時間も早いためか、誰もいない山頂であった。ここから、今回の目標の縦走路に踏み出すことになった。下り始めると、ルリ色の水をたたえた五色沼と家形山が姿を現した。登山道が、沼の西の岸から家形山に続くのを目でおうことができた。浮き石の多いガレ場を注意しながら下った。沼の湖畔まで下りきった所で雨が降り始め、雨具を着込むことになった。天気予報で、晴を期待してきたのに。縦走を諦めるか迷ったが、視界もあるので歩き続けることにした。沼の北の岸に回り込んだところで、高湯温泉からの道が合わさった。ここから急な坂をひと頑張りすると家形山の物見岩に到着した。振り返ると、五色沼と一切経山の素晴らしい眺めが広がっていた。
 ここからは、オオシラビソやコメツガの針葉樹帯の中の道となった。登山道は、各所で泥沼になっており、笹ヤブに迂回路を求めたりする必要があった。登山道脇の泥地にはミズバショウも生えていた。ミズバショウの花は好きだが、登山道上には生えていてもらいたくないものだ。縦走路の道標が付けられていて迷う心配はなかったが、高低が少なく展望の無い道は、現在位置を知ることが難しかった。山形県側に分かれる登山道を確認しながら歩いていくと、緩やかな登りになり、再び下りになる所で、木に文字の消えた金属製の三角板が取り付けてあった。ここがニセ烏帽子山であろうと想像したが、結局、正しかったようである。一旦下ってから再び登り返し、山頂標識はどこにあるのかと樹林帯の中を捜しながら進んでいくと、北の端の露岩帯に立派な烏帽子岳の山頂標識が立っていた。展望の良さそうな山頂であったが、ガスが流れて展望は閉ざされていた。烏帽子岳の下りのガレ場は、濡れた岩に滑らないように注意しながら下る必要があった。再び樹林帯の中を登っていくと、単独行に追いついた。話を聞くと、西吾妻山までの縦走とのことであった。昭元山は、樹林で覆われた、山頂標識や三角点が無ければそのまま通過してしまいそうなピークであった。緩やかな登りになって、周囲にハイマツや草原が広がる高山帯に入ると、東大巓分岐に出た。東大巓をめざして緩やかな登りを続けると、池塘も点在する草原が広がった。草の先端は黄色く色づき始め、秋も近いようであった。緩やかに続く縦走露から左脇の最高点めざして10m程登ると、木立の中に東大巓の山頂があった。高さ6m程のパイブが立てられ、その先端に三角板が取り付けられていた。見上げて読むと、スキーツアーのための東大巓山頂の標識であった。文字面は西を向いており、西吾妻山方面からのツアーのためのようであった。
 東大巓分岐に戻って、谷地平への大倉新道を下った。雨のせいで登山道は、沢のように水が流れていた。下るにつれ、沢沿いの道になった。樹林帯の中は、あいかわらず泥沼状態の道が続いた。泥の浅い所を選んだつもりだったが、いきなり膝まで潜ってしまった。あわくって足を抜こうとしたが、泥にはまっており、力を入れてようやく脱出することができた。靴の中はすでにずぶぬれ状態になっており、時折通過する枝沢で靴の泥を洗い流した。沢は次第に本格的な流れに変わり、ナメが続くのか、沢音も高く響くようになった。見通しの利かない樹林帯の道は長く感じた。ようやく草原の縁に出ると、大倉深沢の渡渉になった。川幅は、5メートル程あり、増水時は注意が必要そうであったが、水面下の石も使って、飛び石伝いに渡ることができた。草原を一段登ると、木道の続く谷地平湿原に出た。樹林帯の道が長く続いたこともあり、この湿原の開放感は格別なものがあった。人の姿は誰も見かけず、これだけ大きな湿原を独り占めすることができた。木道に腰を下ろしてひと休みした。雨はようやくあがり、山の姿が現れ始めていた。谷地平は、今歩いてきた縦走路の峰々や中大巓で周囲を囲まれ、箱庭のように静かなたたずまいを見せていた。湿原にはウメバチソウの白い花が点々と咲いていた。木道を進んでいき、駕篭山神社への道を右に分けて、姥沢沿いに左折した。この周辺の草原にはトリカブトの花が咲き乱れていた。沢の右岸をたどっていくと、三角屋根の避難小屋が近づいてきた。避難小屋を目の前にして、姥沢の渡渉になった。ここも靴を濡らすくらいの飛び石伝いで渡ることができた。避難小屋は新しく建てられたばかりのものか、ローマ字も併記されたネームプレートが光っていた。中は一階建ての板張りになっており、壁際には荷物を納めるボックスも設けられていた。沢沿いに上流に向かって歩いていくと、道が無くなってしまった。草原の中を捜しても、それらしいものは無かった。地図を出して登山道を確認すると、右岸に渡り返すようであった。注意してみると、少し上流の対岸に赤布が付けられていた。再び飛び石伝いに対岸に渡ると、登山道が見つかった。再び見通しの利かない樹林帯の登りが続いた。この登りでは、ひさしぶりに登山者を三組見かけるようになった。時間からすると、谷地平避難小屋泊まりだろうか。傾斜が緩くなってきても、稜線を左上に見上げながらのトラバース状態の登りが続いた。
 樹林帯から草原に飛び出すと、前回も訪れた姥像の前であった。再び、姥ヶ原で開放感を味わった。予定通りの時間で歩くことができ、浄土平へ戻るのは心配のいらない道なので、東吾妻山に寄っていくことにした。木道の分岐から東吾妻山への登山道に入った。登山道は、雨のせいで沢状に水が流れていた。深くえぐられた個所では、脇の沢ヤブをへつる必要があった。樹林帯を抜けてハイマツ帯に入ると、ひと登りで東吾妻山の山頂に到着した。山頂は砂礫帯になっており、展望も良さそうであったが、ガスが残って眺めは得られなかった。歩きづらい登山道を下って、姥ヶ原に戻り、木道の上でひと休みにした。草原の向こうに前大巓から一切経山の連なりが広がっていた。一日の終わりにようやく青空が広がった。木道の上には、ハイカーがちらほら見えるものの、人出は少なかった。時間も遅く、引き上げた後なのだろうか。吾妻連峰の魅力は、深い樹林帯の歩きと、そこに点在する湿原の開放感ではないのだろうか。今回のコースでは、充分にその魅力を味わうことができた。浄土平に向かって丸太階段で整備された歩きづらい道を下っていくと、車の騒音が近づいてきた。浄土平も良い所なのだが、観光地化しているところが残念である。
 家に戻る途中、土湯峠から福島側に少し下った所にある鷲倉温泉で入浴した。日本秘湯を守る会の温泉で、イオウ質の乳白色の温泉は、いかにも温泉に入ったという気分になった。

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