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田代岳、藤里駒ヶ岳

真昼岳

1998年6月5日〜6月7日 前夜発1泊2日 単独行 晴

田代岳 たしろだけ(1177.8m) 一等三角点本点 白神山地(秋田県) 5万 田代岳 2.5万 田代岳、越山
ガイド:アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、分県登山ガイド「秋田県の山」、秋田の山歩き(無明社)、東北百名山(山と渓谷社)、一等三角点の山々(新ハイキング社)

藤里駒ヶ岳 ふじさとこまがたけ(1157.9m) 二等三角点 白神山地(秋田県) 5万 田代岳、中浜 2.5万 尾太岳、真名子、冷水岳、羽後焼山
ガイド:アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、分県登山ガイド「秋田県の山」、秋田の山歩き(無明社)、東北百名山(山と渓谷社)

真昼岳 まひるだけ(1059.9m) 二等三角点 真昼山地(秋田県・岩手県) 5万 六郷 2.5万 六郷、真昼岳
ガイド:アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、分県登山ガイド「秋田県の山」、分県登山ガイド「岩手県の山」、秋田の山歩き(無明社)、東北百名山(山と渓谷社)

6月5日(金) 15:50 盛岡発=(東北自動車道、十和田IC、R.103、大滝温泉、湯夢湯夢の湯(160円)、大館、R.7、下岩瀬、山瀬ダム 経由)=20:10 糸滝 (テント泊)
6月6日(土) 4:18 糸滝発=4:41 荒沢登山口〜5:00 発―5:29 三合目(弘前一の渡分岐)―5:38 四合目(大広手分岐)―5:46 五合目(上荒沢分岐)―6:17 九合目(湿原入口)―6:32 田代岳山頂〜6:42 発―7:05 九合目(湿原入口)―7:33 五合目(上荒沢分岐)―7:39 四合目(大広手分岐)―7:48 三合目(弘前一の渡分岐)―8:19 荒沢登山口=(糸滝、山瀬ダム、下岩瀬、R.7、二ツ井、藤里、湯ノ沢温泉、太良峡、立候林道 経由)=11:09 黒石沢登山口〜11:14 発―11:21 田苗代湿原入口―11:40 冷水分岐―12:14 No.5標識・稜線―12:24 藤里駒ヶ岳山頂〜12:42 発―12:50 No.5標識・稜線―13:17 冷水分岐―13:36 田苗代湿原入口―13:45 黒石沢登山口=(立候林道、太良峡、湯ノ沢温泉・藤里町農村環境改善センター)200円)、藤里、二ツ井、R.7、鷹巣、R.105、角館、岩瀬橋、太田、千畑 経由)=19:20 赤倉ノ鳥居 (車中泊)
6月7日(日) 4:22 赤倉ノ鳥居発=4:29 林道終点広場〜4:50 発―(登山道の確認のためロス)―5:25 発―5:57 最後の水場の標識―6:35 ブナ林の広場(山頂まで2.0km、赤倉登山口まで3.5kmの標識)―6:50 ヤセズル―7:09 峰越コース分岐―7:24 真昼岳〜7:36 発―7:52 峰越コース分岐―8:03 ヤセズル―8:15 ブナ林の広場〜8:23 発―8:51 最後の水場の標識―9:15 林道終点広場=(千畑、六郷、横手、R.107、東由利、道の駅東由利・湯楽里入浴(350円)、本庄、R.7、神林、R.345、荒井浜、R.113、蓮野IC、R.7 経由)=17:20 新潟着

 青森県と秋田県にまたがって広がる白神山地は、世界最大規模のブナ林が広がることで知られ、世界遺産に指定されたことから注目をあびている。田代岳は、白神山地の東端に位置し、山頂には大小120ほどの池塘が点在する湿原が広がることから名付けられたいる。山頂には田代山神社がまつられ、毎年、半夏生の7月2日に池塘に生えるミツガシワの生育状態でその年の稲作の豊凶を占うという神事が伝えられている。藤里駒ヶ岳は、白神山地の中央部に位置し、雪型がその名前の由来になっている。北側には湿原があり、ブナの原生林と並んで、この山の魅力となっている。
 真昼岳は、南北に連なる秋田県と岩手県の県境部に位置し、特に秋田県側の仙北平野からは良く眺めることのできる山である。標高は1000mをわずかに越えるのみであるが、冬に日本海からの季節風をまともに受けることから、山頂付近は亜高山性の植生を示している。
 白神山地の名前に引かれて、白神岳を訪れたのは、1995年6月3日のことであった。時間の制約もあり、黒崎登山口からの日帰り往復になったが、登山口付近は杉の植林地であり、頂上から核心部の谷間に広がるブナの原生林を見下ろしただけの、どこか満たされない気持ちが残った。盛岡の学会出張の後の週末に、東北の山を登ることになったが、白神山地の他のピークを訪れてみたくなり、湿原の写真で心を引かれる田代岳と、藤里駒ヶ岳を訪れることにした。新潟からの帰り道に登る山としては、以前、和賀岳や森吉山の帰りに、大曲付近の仙北平野の向こうに広がるのを見て、気になっていた真昼岳に登ることにした。一山登った後に、新潟へそう遅くならない時間に戻るには、ここらあたりが北の限界のようである。
 学会を終えて、東北道を北上した。途中で背広を山の服装に替え、途中の大滝温泉で温泉にも入って、気分を山旅モードに切り替えた。田代岳には、いくつかの登山コースがあり迷ったが、荒沢登山口から登ることにした。羽州街道から山瀬ダムに向かう頃には日も暮れて、夜間に林道は走りたくないため、野宿の場所を捜しながら車を走らせた。ダムの先で舗装は終わったが、林道の幅は充分あり、路面の状態も悪くは無かった。糸滝の見学者用駐車場に着いたところで、トイレもあり、あずまやの下でテントも張れることから、ここで夜を過ごすことにした。岩瀬川の対岸には、糸滝が、夜の闇の中でも白く浮かんでいた。
 集落からかなり離れた山中であるにもかかわらず、夜中や早朝に、車が何台も通過していった。弘前方面の近道としての利用者か、渓流釣りのものなのか。夜明けとともに、再び走りだしたが、その先も長く林道が続いた。大広手登山口がまず現れたが、荒沢登山口に進んだ。右手にロケット燃料燃焼実験場への道を分けると、道は少し悪くなった。帰りの林道では、液体水素のタンクローリーとすれ違い、実験場への大型車の通行のために林道が整備されていたことがわかった。ロケット燃料を積んで、渓谷沿いの曲がりくねった林道を運転するのは、「恐怖の報酬」を思い出してしまい、あまりやりたくない職業に思えた。その先で、右手にトイレの設けられた大きな駐車場が現れた。荒沢登山口は、その少し先の荒沢橋を渡ったところに、登山口の案内板があり、橋の手前の路肩のスペースに車を停めた。山菜採りの集団が、作業衣にリュックのいでたちで山に向かっていった。沢沿いの道は、ブナの原生林に囲まれていた。流れの細くなった沢を左右に渡りながら登っていくと、尾根の上に出て、三合目の弘前一の渡との分岐に出た。この道は、荒れているように見えた。ブナ林を眺めながら緩やかに登っていくと、合目標識が順々に現れ、四合目で大広手分岐、 五合目で上荒沢分岐になった。荒沢からの登山道もしっかりした道であったが、これらの道も良く整備されているように見えた。次第に傾斜もきつくなり、ブナの木もやせてくると、九合目の湿原に飛び出した。木道を進むと、小さな池塘が点在する湿原の中に出た。田代岳の山頂は、右手の奥に、丸い丘として盛り上がっていた。振り返ると、湿原の向こうに岩木山がとがったピークをのぞかせていた。湿原の鑑賞は後にして、まずは山頂をめざした。湿原の奥の薄市沢登山口との分岐を右にとり、ササ原の中をひと登りすると、神社の設けられた山頂に出た。山頂付近にも、湿原が広がっていた。神社の前には、一等三角点が埋められていた。周囲には、白神山地の山々が広がっていたが、馴染みの薄い山域で、山の名前を挙げることはできなかった。山頂からの下りで、この山の紹介で必ず出される湿原の眺めを楽しんだ。大小の丸い池塘が並んだ姿は、規模はそれ程大きくはないものの、一度見たら忘れられない風景であった。同じ秋田県の、乳頭山の千沼ヶ原の高層湿原と似てはいるものの、それぞれ同時の美しさを持っている。湿原に下りて、カメラ片手に花を楽しむことにした。半夏生の祭りに神の田圃として使われるように、池塘の中にはミズガシワが良く生えており、丁度、花も満開であった。今年は、雪融けの早い異常気象であるが、ミズガシワの生育は順調なようで、米も豊作になると良いのだが。ワタスゲも白い綿帽子を付けて、先月、会津の駒止湿原で、黄色の花を見たのが、遥か前のような気がしてきた。湿原に別れを告げ、来た道を戻った。この登山道の楽しみは、やはりブナの原生林で、目線は上を向いていたので、登山道沿いに花があったのかどうか、気がつかなかった。途中では、登山者よりも、タケノコ採りに多く出合った。
 車に戻って、次は藤里駒ヶ岳に向かった。一旦羽州街道に戻り、藤里から藤琴川沿いの林道に入った。田代岳以上に長い、ほぼ一車線の幅の運転に気を使う未舗装の林道が続いた。田代岳と藤里駒ヶ岳のどちらを先に登るか迷ったが、この林道を夜間に走ることは無理で、選択は当たっていたようであった。もっとも、藤里駒ヶ岳を後に回した理由というのは、アプローチの状態を考えたからではなく、下山口近くに、湯の沢温泉があったことなのだが。太良峡を過ぎると、やがて看板の立つ分岐に出た。釣落峠への林道から分かれて、左手の黒石沢沿いの立候林道に進んだ。しばらく走ると左手にクルミ台国設野営場、続いて岳岱風景林が現れた。ここまでキャンプや観光にくるのは、よほどの物好きといっても良いか。いや、オフロード車を乗り回している者には、格好の林道なのか。車が泥で汚れるのをいやがらなければだが。さらにもうひと走りして、ようやく林道終点の駐車場に到着した。かなり広い駐車場は、車でほぼうまっていた。昼近くになって、下山してくる登山者や山菜採りも多かった。再び、登山の開始。わずかな歩きで、田苗代(藤里湿原)に出た。湿原の中央に来道が敷かれていた。上下二段になった湿原は、奥の方が草原化が進んでいるようであった。驚いたことにニッコウキスゲの花が二つほど咲き始めていた。小さな沢を渡ると、ブナ林の中の登りになった。登山道の脇には、エンレイソウを所々に見ることができた。鞍部に登ると、冷水沢コースからの登山道が上がってきていた。左に向きをかえ、ブナ林に囲まれた稜線を進んでいくと、次第に傾斜が増してきた。足元も滑りやすく、一日の二山目ということで疲れもでてきて、頑張りが必要になった。コース上には、所々標識が立っており、その番号が次第に減ってくるのを頼りに登り続けた。No.5の標識で、山頂から続く稜線に出て、展望が開けた。シラネアオイに出迎えられ、山頂への最後の登りを、風景を楽しみながら進んだ。山頂は、お昼ということもあって、団体に占領され、南のピークに進んで休みをとった。北には白神山地が幾重にも重なり、その向こうには岩木山が頭を覗かせていた。ひと休みして、下山に移ったが、急坂は滑りやすく、注意したものの尻餅をつき、ズボンの裾も泥だらけになって、下山後にズボンをはき換えなければならない状態になった。
 再び長い林道の走向が待っていた。舗装道路に出て、ようやくひと息ついた。白神山地のブナ林と、長いアプローチを味わった一日であった。湯ノ沢温泉には、今はやりの設備の整った日帰り温泉施設もできていたが、200円の安さにひかれて、藤里町農村環境改善センターでひと風呂あびた。設備は味気ないが、一人占めの浴槽は、山の後の入浴には充分であった。食料とビールを仕入れ、真昼岳の登山口をめざした。途中で、森吉山の登山口の阿仁町を通過し、道路の記憶も戻ってきた。森吉山に登ったのは、昨年の5月30日で、ガスのかかった残雪の山に、登山コースを辿るのに苦労したものだが。それと比べると、今年の雪融けの早さが、改めて実感できた。仙北平野に入ると、町並みが続き、町中に戻ってきたという気分になった。道路地図と首っぴきで、千畑町一丈木の峰越林道の入口を捜した。ようやく林道に走り込み、牧草地の中にでると、十字路に出た。峰越林道は、崖崩れのため、当分通行止めとの案内が出ていた。横着して、峰越林道から登ろうかとも思っていたが、これで麓からまじめに登ることになった。十字路を右折すると、赤倉ノ鳥居前に出た。林道は、さらに先に続いていたが、夜間の通行はいやなため、ここの駐車場で夜をあかすことにした。
 夜が明けてから、赤倉沢沿いの林道に突入した。明るい状態なら、車の走行には問題の無い路面状態であったが、それでも大きな枝が横たわって、車の幅だけ切り取られている個所があった。南沢との出合に到着すると、二つの沢に挟まれた稜線の末端部に鳥居が立ち、真昼岳登山道を示す小さな標識が置かれていた。登山口の前後に広い駐車スペースがあり、林道はその先に続いているものの、一般の車の走行は無理な状態になっていた。山の装備を調えて、右手に沢を渡った。登山道は、鳥居から入るものと思ったが、草むらをかき分けて登ってみると、祠には岩谷山神社と記されていたが、そこで行き止まりであった。踏み跡は、右手の沢沿いに続いていた。踏み跡は明瞭なものの、フキなどの草が生い茂って、足元を隠す状態であった。沢沿いに登っていく道から植林地に入り込む踏み跡も現れて、コースに自信がもてなくなった。入口に鳥居の立てられた登拝道として想像していたにしては、道の状態が、少し悪すぎる。ガイドブックの地図では、林道終点から登山道に入るように書かれているのも気にかかった。疑心暗疑で歩くよりも、駐車場に戻って、林道の先を確かめることにした。林道の先は、伐採のための作業道で、人の歩いた形跡もなく、林道はひと登りした所で、山頂とは反対方向の西に向きを変えて伐採地に続くことを確認した。そうなると、やはり沢沿いの道しか無いことになる。覚悟を決めて、草むらをかき分けながら、沢沿いに踏み跡をたどった。途中で、真昼岳登山道の標識を見つけてひと安心。沢をつめていき、水流もなくなった所で、最後の水場の標識が現れた。まだ春の終わりでこのような草むら状態では、夏の盛りには、フキの葉が頭上をおおうくらいになって、難儀しそうなコースであった。ここから、山の斜面をジグザグを切りながらの本格的な登りが始まった。ひと登りすると、周囲には美しいブナ林が広がり、ここまでの道がうそのような、明瞭な登山道が始まった。ブナ林の下生えは、人の手で刈られているのか、落ち葉が敷き詰められた状態で、気分も明るくなった。右手から延びてきた尾根の上に出ると、登山道は、左手に方向を変えた。右手の斜面の下には、ブナ林が広がり、目を楽しませてくれた。木立を通して、右手前方に真昼岳の山頂が見えたが、そこまでは距離がかなりありそうであった。概ね緩やかな登りを続けていくと、ヤセズルの崩壊地の縁に出た。風の強い時には、足元に注意とガイドには書かれていたものの、道の幅も広く、縁に近づいて覗き込まなければ問題はなかった。前方には、山頂からの主稜線が横に広がり、その左肩めざして、潅木帯の尾根道を進んだ。風が冷たく、フリースのセーターを着込む必要があった。フキの葉がしげる沢状の道を登ると、ササ原の中の、峰越林道からのコースの分岐に飛び出した。右手に方向を変え、最後の急な登りをもうひと頑張り。北ピークに出ると、山頂神社をのせた真昼岳の山頂が、目の前にせまった。少し下って、僅かに登り返すと、ようやく真昼岳の山頂に到着した。神社の中をのぞくと、避難小屋もかねているのか、中で泊まることもできそうであった。周囲には、少し曇りがちであったが、良い展望が広がっていた。北には、兄貴分の和賀岳、日本海に飛び出した男鹿半島、南には焼石・栗駒岳、遠く鳥海山を、展望盤をたよりに目で追うことができた。ゆっくりしたい静かな山頂であったが、風が冷たく、長居はできなかった。下りにかかると、正面には、峰越林道に向かって連なる笹原の広がる稜線が美しく、その先には、和賀岳が大きく広がっていた。峰越コースも眺めの良さそうなコースであったが、赤倉コースは、ブナ林の美しさが特徴として挙げることができようか。ブナ林を楽しみながら歩き、途中のブナ林の中の広場で、ようやく空腹を覚えてきた腹に、遅い朝食を詰め込んだ。沢まで下ったところで、他の登山者にすれ違うようになった。山頂の避難小屋泊まりかと聞いてくる者が多く、早立ちでと答えておいた。20〜30人の団体もおり、すれ違いに足を止めて待つのに疲れたが、駐車場に戻ってみると、千畑町役場の車も止まっており、山開きか、町民登山大会のようなものであったようである。駐車場には、かなりの数の車が止まっていたが、車を走らせて山を下りていくと、赤倉ノ鳥居の前の広場には、一台も車は止まっていなかった。朝のうちに登山を終えたものの、新潟までのまる一日のドライブが待ちかまえていた。

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