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塩見岳

1996年8月24日 前日発日帰り 単独行 曇り時々雨

塩見岳 しおみだけ 西峰(3047m) 二等三角点 東峰(3052m) 
本谷山 ほんたにやま(2658m) 三等三角点
  南アルプス北部(長野・静岡) 5万 大河原 2.5万 鹿塩、信濃大河原、塩見岳

ガイド:アルペンガイド「南アルプス」(山と渓谷社)、山と高原地図「塩見・赤石・聖岳」(昭文社)、ヤマケイ登山地図帳「北岳・甲斐駒・仙丈」(山と渓谷社)

8月23日(金) 12:20 越後湯沢発=(石打、R.353、津南、R.117、信州中野IC、上信越自動車道、長野自動車道、中央自動車道、松川IC、県道59、大鹿、R.152、大河原、鳥倉林道 経由)=18:40 鎖止め駐車場  (車中泊)
8月24日(土) 3:25 鎖止め駐車場発―4:00 林道終点登山口―4:44 尾根取り付き―5:15 水場―5:35 塩川分岐―5:53 三伏峠―6:04 三伏山―6:29 三伏小屋分岐―6:48 本谷山―7:52 塩見新道分岐―8:04 塩見小屋―8:55 塩見西峰―8:58 塩見東峰〜9:33 発―9:35 塩見西峰―10:31 塩見小屋―10:42 塩見新道分岐―11:53 本谷山〜12:08 発―12:28 三伏小屋分岐―12:55 三伏山〜13:00 発―13:09 三伏峠―13:23 塩川分岐―13:43 水場―14:14 尾根取り付き〜14:20 発―14:55 林道終点登山口―15:30 鎖止め駐車場=(往路を戻る、R.117、越後川口、関越道)=23:30 新潟着

 塩見岳は、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳、北岳、間ノ岳、農鳥岳を代表とする南アルプス北部と、荒川岳、赤石岳、聖岳などの南アルプス南部との中間に位置する山である。ドーム型をした山頂を持ち、周辺の山から際だって、良く目立つ山である。
 塩見岳へのアプローチは長い。北岳から間ノ岳、熊ノ平の縦走を経て登る縦走コースが代表的であるが、以前に北岳に登った時には、間ノ岳から農鳥岳に回って奈良田に下山してしまった。塩見岳に短時間で登ることのできる塩見新道コースというのもあるが、昨年このコースで登ろうとして林道を真夜中に走っていたら、道の真ん中を落石がふさいでおり、崖っぷちの道をかなりの距離バックで戻るという恐い目にあった。そこで今回は、将来南アルプス南部の山に登るための三伏峠付近の様子見も兼ねて、最も一般的な塩川土場から登ろうと計画を進めた。ところが、雑誌や登山地図を見ていると、最近の版から鳥倉林道コースというものが取り上げられるようになっていた。このコースは、スタートが1800m地点で、三伏峠までは比較的短時間で登ることができ、塩見岳往復のコースタイム合計も13時間で、これならば、少し頑張れば日帰りが可能な様子であった。一応、小屋泊まりの用意をして、鳥倉林道コースを登ってみることにした。  金曜日の午前中まで研修会があり、越後湯沢からの出発になった。以前は、飯山線沿線のR.117は、川沿いの狭い曲がりくねった道が続いていたのだが、冬季オリンピックのために、幅の広い直線的な道に変わっていた。でも、谷間の狭い土地に、畑地をつぶしてその真ん中に道路をつくってしまうのは、その地元のためになるとは思えず、オリンピック至上主義の横暴ではないのかな。オリンピック会場になる志賀高原の入口になる信州中野付近も、高速道や有料道路ですっかり様子が変わっていた。それとは対照的に、中央自動車道の松川ICを下りてから、大鹿へ向かう県道のダムサイトの道は細く曲がりくねって、運転に神経を使う必要があった。この道は、生活道路として大切だろうに、同じ長野県内でも、ずいぶんと格差があるものである。鳥倉林道の入口は、指導標によって、問題なくみつけることができた。林道は、一気に高度を上げていったが、かなり上まで、人家が点在するのに驚いた。工事でとぎれる所はあるものの、舗装された道が続いた。谷をはるか下に見下ろすようになった所に、パノラマ公園ということで、トイレと駐車場が設けてあった。その先で未舗装に変わったが、路面は良く整備されていた。路肩に10台程の車が並んだ広場にでると、林道には鎖が渡され、ナンバー錠が掛けられて、この先工事中につき一般車進入禁止になっていた。どうやら、ここが昭文社の地図における造林小屋跡駐車場のようであった。林道は、谷を巻きながら、さらに先に続いていた。林道の終点までは2ー3km程度のようで、少し早起きすればいいやということで、途中の松川の町で買ってきたほかほか弁当を食べ、ビールを飲んで、早々に眠ることにした。
 目覚ましを掛けて、3時に目を覚ました。出発の準備をしていると、小雨が降ってきた。昨日の山の天気予報では、ガス、時々雨というシブイものであった。通り雨であったのか、雨具を着ないで出発できた。懐中電灯を頼りの歩きであったが、林道のため、コースや足元に気をつかう必要はなかった。林道の終点に、登山道入口の標識があり、登山届けボックスが置かれていた。登山届けを書いていると、駐車場を出る時に出発の準備をしていた年輩の単独行が追いついてきた。登山道に入ると、急な登りが始まった。幸い、懐中電灯の明かりで歩いてもそれほど支障は無い位に、コースは良く整備されていた。他の登山者が後ろに迫っていると、つい歩くペースを上げてしまうので、先に行ってもらって、長丁場の一日を控えての、マイペースでの登りに専念した。懐中電灯を頼りの歩きもそれほど長くはなく、周囲は明るくなってきた。ひと汗流して高度を上げると、尾根に出て、登ってきた山の斜面とは反対側の塩川の谷を眺めるようになった。尾根を少し登ると、登山道は、山腹を巻きながら緩やかに登っていく道に変わった。途中で水音がすると思ったら、樋に水をひいた、水場が現れた。ひと汗流した後の水は、とてもおいしく感じた。崩壊地やガレ場の横断する場所も現れたが、丸太が渡されて、登山道は充分整備されていた。意外に早く、塩川からも登山道との分岐に到着した。その先の登山道は、樹林帯の中のつづら折りの急な登りになった。鳥倉林道コースのほうが、塩川からのコースよりは、かなり楽な登りのようであった。ガスの中を登っていくと、発電機の音が聞こえてきて、三伏峠に到着したことを知った。小屋の前には、自炊客が数人いるだけで、テント場もすでにからになっていた。三伏峠の看板の後ろに、荒川岳方面への縦走路が続いていることを確認して、塩見岳への道に進んだ。
 三伏小屋への分岐の少し先が三伏山であった。谷を巻いていった先には、頭を雲に隠した大きな山が見えた。おそらく塩見岳は、その山だろうと思ったが、そこまでは、まだかなりの距離がありそうであった。三伏山を下り、三伏小屋からの道を合わせると、本谷山への結構急な登りが始まった。周囲の草地には、トリカブトやマツムシソウの花が咲き乱れていたが、紫の花は、秋の訪れを告げていた。写真は帰りにということで、登りに専念した。小広場になった本谷山の頂上には、塩見岳から来たのか、これから向かうのか、何人もが休んでいた。緩やかに下っていくと、多くの登山者にすれ違うようになってきた。帰りの道が少々心配になるような長い下りを行くと、権右衛門山のトラバース道になり、涸沢を越すと、再び急な登りが始まった。塩見新道との分岐を越して、ひと頑張りすると、塩見小屋の立つ窪地の脇にでた。ガスが晴れはじめたので、その先のハイ松の広がる小ピークに急いだ。舞台の幕が上がるように、塩見岳の山頂が姿を現した。天狗岩の鋭鋒が前衛として立ちはだかるその後ろに、塩見岳の山頂が3000m峰に相応しい高さでそびえていた。これまで行き会った登山者は皆雨具を着込んでいたが、天候は好転してきたようである。最後の辛い登りが始まった。足元の不安定なガレ場の登りで、三点支持と自分に言い聞かせて慎重に登らなければならない岩場も現れた。ここまでの歩きで疲れも足にきているのが、不安であった。ひたすら岩に印されたマークを追いながら登り続けていくと、三角点の置かれた塩見岳の西峰に到着した。最高点の東峰は、緩やかな道を進んだ僅か先であった。
 塩見岳東峰は、岩の積み上がった狭い山頂であった。丸太状の山頂標識は岩の間に差し込んであるだけで、触れるとグラついた。まずは、すぐ後から登ってきた単独行と記念写真を取り合った。曇り空であったが、満足のいく展望が広がっていた。目の前に蝙蝠岳が翼を広げ、その向こうに富士山が雲の上に浮かんでいた。稜線をたどれば、農鳥岳から間ノ岳が大きく、北岳は頭を僅かにのぞかせていた。その左に見えるはずの仙丈岳は、雲の中であった。南アルプス南部方面を振り返れば、谷をはさんで、荒川岳が大きく、その肩から赤石岳が顔をのぞかせていた。歩いた来た道を振り返れば、帰りは本谷山までは長い登りで、三伏山を越した三伏峠まではかなりの距離があった。塩見岳の頂上からは、これまでに登ったことのある山に再会し、新しい山を知ることができた。荒川岳、いつかはあの頂きにと、三伏峠から先の稜線を目で追った。風は冷たく、すでに夏は過ぎてしまったようであった。
 休みながら、帰りの登山計画を再検討した。さらに蝙蝠岳を往復して塩見小屋泊まり、下山していき三伏峠小屋泊まり、そのまま一気に下山、の三通りが考えられた。ここまでの登りで、足の疲れの他に、膝が痛みだしていた。北海道の山での無理がたたっているのかもしれない。山頂までに5時間半歩いているので、疲れているのもあたりまえかもしれないが。山頂からの展望に満足し、最初の予定通りに、一気に下山してしまうことにした。重い腰をあげて、ガレ場を注意深く下っていくと、雨が降りだした。本降りになりそうな気配を見せたため、足元の落ちついた岩陰で雨具を着込んだ。下っていく途中で振り返った山頂はガスでおおわれていた。登っていく登山者も多いのに、僅かな時間の差が幸運の別れ道になったようである。塩見小屋手前のピークまで戻ると、雨は止んで雨具を脱ぐことができた。ガスの切れ間から塩見岳が一瞬姿を現し、別れを告げることができた。覚悟していたとはいえ、本谷山への登りは、長かった。天候はめまぐるしく変わり、本谷山山頂手前の枯れ木の目立つ樹林帯からは、左右に肩をいからせた塩見岳が再び姿を現した。ガスで展望の効かない本谷山を下っていくと、登山者の集団に出合うようになった。塩川土場から登ってきた集団で、塩見小屋泊まりの予定の人達のようであった。行きにはそのまま通り過ぎてしまったお花畑で、花の写真を撮るため足をとめた。その先は歩き続けて、迷うことなく三伏峠を通過して、下山を急いだ。塩川との分岐を越すと傾斜は緩くなったが、樹林帯の中の道はガスでおおわれてますます暗く、すっかり日没寸前の心もとない気分になってしまった。登りにメモしたチェックポイントの水場、尾根取り付きを通過して、最後の斜面を下っていくと、登ってくるひと集団に出合った。三伏峠小屋泊まりのようであったが、足どりの怪しいものいて、夕暮れ迫る中での登りはさぞ不安で辛いものになるだろうと思った。林道に飛び出すと、林道終点付近では、確かに大型のシャベルカーが工事中であった。登山口前には、マイクロバスのタクシーが人待ちをしていた。林道を下っていくと、5、6人のグループを乗せたこのタクシーが追い抜いていった所をみると、三伏峠小屋あたりで、このタクシーを予約できるようであった。無事に日帰り登山を終えた後には、家までのドライブをもうひと頑張りする必要があったが、その夜は、山小屋ではなく、家の布団で寝ることができた。

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