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燕岳

1995年8月26日 前夜発日帰り 単独行 晴

燕岳 つばくろだけ(2763m) 二等三角点
 北燕岳 きたつばくろだけ(2740m)
 合戦ノ頭 かっせんのあたま(2489m) 三等三角点
  北アルプス南部(長野)  5万 槍ヶ岳  2.5万 槍ヶ岳、烏帽子岳

ガイド:アルペンガイド「上高地・槍・穂高」(山と渓谷社)、アルペンガイド「北アルプス」(山と渓谷社)、槍・燕岳を歩く(山と渓谷社)、日本300名山ガイド 西日本篇(山と渓谷社)、山と高原地図「上高地・槍・穂高」(昭文社)、ヤマケイ登山地図帳「上高地・槍・穂高」(山と渓谷社)

8月25日(金) 18:30 新潟発=(北陸道、上越IC、R.18、須坂長野東IC、長野自動車道、豊科IC、R147、有明 経由)
8月26日(土) =0:07 中房温泉駐車場 (テント泊)
5:03 中房温泉駐車場発―5:18 中房温泉登山口―5:39 第一ベンチ―5:56 第二ベンチ〜6:00 発―6:22 第三ベンチ―6:45 富士見ベンチ〜6:48 発―7:06 合戦小屋〜7:13 発―7:24 合戦ノ頭(三角点)―7:53 燕山荘〜8:08 発―8:29 燕岳山頂〜8:46 発―9:02 北燕岳―9:30 稜線からの下り口―10:12 東沢乗越―10:39 西大ホラ沢出合〜10:50 発―11:16 高巻き入口―11:44 高巻き出口―12:23 中房温泉登山口―12:32 中房温泉駐車場=(往路を戻る)=20:10 新潟着

 燕岳は、ツバメが羽を広げた姿に似ていることから名前が付けられている。風化した花崗岩が立ち並ぶ山頂、コマクサをはじめとするお花畑、槍ヶ岳を中心とする大展望、整備の整った山小屋、槍ヶ岳への表銀座の入口の山、こららの点から、北アルプスの入門コースとして人気が高い山である。この山が日本百名山に選ばれなかったことの方を不思議に思うものが多いようである。毎年恒例の山と渓谷1月号の読者アンケートでも、日本の山バスト100において、多くの百名山をさしおいて第20位(1992年)、深田百名山以外の新・百名山で第1位(1993年)にランクされていることからも、この山の人気の高さを確かめることができる。
 北アルプスの百名山は、昨年の薬師岳で終了したが、登っていないピークはまだまだ多い。燕岳も、北アルプス入門の山とガイドブックには書かれているにもかかわらず、まだ登っていなかった。以前の常念岳の際には、登山道への取り付きが判らず、穂高町付近で迷子になったが、今回は中房温泉の道標に従い、無事に山に入り込むことができた。舗装道路を登っていくと、中房温泉へあと何キロという表示が頻繁に出てきた。国民宿舎有明荘の先に駐車場があったが、中房温泉まで様子を見に行くことにした。橋を渡って、ヘアピンカーブを数回曲ると中房温泉に到着した。中房温泉専用駐車場や周辺の路肩にはロープが掛けられ、駐車禁止になっていた。登山口を確認後、先の駐車場に戻ったが、駐車場には数張りのテントが並んでいた。翌朝、明るくなってみると、いつの間にか、駐車場は車でほぼうまっていた。対岸の河原も駐車場になっており、ガイドブックの「中房周辺には公共の駐車スペースはなく」という記述とは違っていた。それとも、わざと駐車場のことは書かないようにしているのか。
 中房温泉へは、足慣らしを兼ねての、十分程の登りになった。タクシーが何台も、登山客を乗せて登ってきて、バス停付近は到着した出発準備中の登山者で賑わっていた。合戦尾根は、北アルプスの三大急登りに数えられている。ヤマケイ登山地図帳「上高地・槍・穂高」によると、合戦尾根は標高差1040m、平均傾斜21.3度である。あとの二つ、前穂高岳の重太郎新道は、標高差920m、平均傾斜28.3度、烏帽子岳へのブナ立尾根は、標高差1230m、平均傾斜24.8度となっている。さらに笠ヶ岳への笠新道は、標高差1100m、平均傾斜19.3度、剣岳への早月尾根は標高差2240m、平均傾斜17.6度 、鹿島槍ヶ岳の赤岩尾根は、標高差1070m、平均傾斜22.2度となっている。データーでみるかぎり、かなりの急登である。中房温泉から歩き出すと、すぐに急な登りが始まった。しかし、斜面は急ではあるが、登山道はジグザグを切り、それ程急には感じない。良く踏まれた、登山道の歴史を感じさせる道であった。シーズンも終わりに近いせいか、登山者もそれ程多くはなく、追い付いては追い越しながら、快調なペースで登り続けた。第一ベンチ、第二ベンチと、一定の間隔で休憩地が儲けられているのも、歩き易かった。富士見ベンチからは、その名前のように富士山の三角形がかろうじて見分けることができたが、雲が出始めていた。合戦小屋に到着すると、売店の飲み物に目がいってしまい、300円のファンタを飲んで贅沢をした。下りの登山者にも擦れ違うようになり、三角点のある合戦ノ頭に到着すると、前方の山の頂きに燕山荘、その右手の連なりには燕岳、さらに餓鬼岳方面の眺めが広がった。風景を楽しみながらの最後の登りになった。結局、合戦尾根は、コースタイムを大幅に短縮して、それ程辛いとも思わず登ってしまった。初心者にとっては、この三大急登のひとつを登りきったことによって、自信がついて、さらに山に登り続けるきっかけになるのかもしれない。燕山荘前のテラスからは、いままで見えなかった、西方面の展望が広がった。槍の穂先が雲で隠れているのが残念ではあったが、浦銀座方面の稜線が大きく広がっていた。いつか、この大展望を楽しむために、燕岳には再び登る必要があるようである。燕岳への稜線は、白砂で敷き詰められ、はい松が緑のアクセントを付ける中に、岩が林立していた。自然の作り出した庭園といった風情であった。表銀座方面の縦走路を眺めに行ってみると、団体が列を作っていたが、行く先の大天井岳の山頂には雲がかかっていた。山荘前に残っていた登山客達も下山を始め、山荘付近は静かになってしまった。海岸を思わせるような稜線を、燕岳に向かった。岩の間を回り込むと、数人が立つのがやっとの狭い山頂に到着した。人気の山にもかかわらず、誰もいない山頂であった。山の頂上では夏も終わりなのか、冷たい風が吹きつけてきた。白砂の稜線は、さらに北燕岳に続いていた。休憩後、北燕岳に向かうと、西斜面の砂地には、コマクサの大群生地が広がっていた。花の盛りは過ぎて、色はあせはじめていたが、花を楽しむことができた。燕岳までは、コマクサは見かけなかったことから、燕岳から引き返して、このお花畑を見過ごしてしまった者も多いようである。燕岳を過ぎると、あまり人通りの多くない道になった。縦走路から、ひと登りで北燕岳の山頂に登ることができたが、山頂から岩稜通しの道は、冬季ルートで立ち入り禁止と掲示してあったので、再び下の道に戻った。縦走路は、稜線から一旦離れて、草地の中のトラバースになったが、そこは一面のお花畑になっていた。トリカブトやナデシコ、ハクサンフウロ等が一面に咲き乱れていた。稜線に登りかえして、その先もしばらく白砂の稜線歩きが続いた。人通りの少ないこの付近では、登山道脇にまでコマクサの集落が広がっていた。稜線から分れると、滑りやすい急な下りが始まった。道はあれ気味で、縦走路なのにこんなに下ってしまってもよいかと思うような急降下になった。東沢岳が高く、中房川の谷の方が近くに見える鞍部まで下って、ようやく東沢乗越に到着した。先行のグループが休んでいたが、餓鬼岳に向かって出発して行き、中房温泉に下る者は少ないようであった。東沢乗越からの下りは、草つきの急斜面で、草が被り気味の上に、日差しが当たって熱気がこもっていた。水音が近付くのを楽しみに下っていくと、西大ホラ沢出合に到着し、水を補給して休憩した。山を下りてしまった気分にはなったが、この先からがかなりあった。沢は荒れ気味で、ペンキマークを辿りながら河原を歩く道は、ペースが上がらなかった。丸木橋が流されてしまったような所もあって、ガイドブックとは様子が異なっているようであった。東沢乗越から中房温泉へのコースは、縦走中のエスケープコースと書かれているが、飛び石伝いに流れを渡る所もあって、増水時には避けたほうが良いコースのように思った。高巻き入口に取りついて驚いたことは、かなりの登りがあることであった。沢を遥かに見下ろす所まで登って、ようやくトラバース道になった。高巻きを終えて、中房川の右岸に渡ると、いつしかしっかりとした道に変って、中房温泉の露天風呂の前を通り、朝出発した登山口に戻ることができた。中房温泉には、タクシーが客待ちをしており、さらに何台も登山客を乗せて上がってきていた。山の最後は温泉ということで、駐車場から近い有明荘で入浴した。500円で、新しい木の浴槽と広い露天風呂も備えたお勧めの温泉であった。燕岳は、人気があることがうなづける確かに素晴らしい山であった。また、北燕岳から東沢乗越を回るコースは、緊張感が必要で手ごたえ充分な、静かな山を楽しむことができた。

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