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白神岳

高館山、温海岳

1995年6月3日〜6月4日 前夜発1泊2日 単独行 晴/曇り

白神岳 しらかみだけ(1235m)標高点 1231.9m 一等三角点本点
 蟶山 まてやま(841m) 三等三角点 白神山地(青森) 5万 河原平、深浦 2.5万 白神岳、十二湖
ガイド:アルペンガイド「東北の山」(山と渓谷社)、青森県の山(山と渓谷社)、諸国名山案内 東北(山と渓谷社)、日本300名山ガイド東日本篇(新ハイキング社)、一等三角点百名山(山と渓谷社)

高館山 たかだてやま(274m) 一等三角点本点 庄内(山形)5万 三瀬、鶴岡 2.5万 湯野浜、羽前加茂、鶴岡
温海岳 あつみだけ(736m) 二等三角点 摩耶山塊(山形)5万 温海   2.5万 温海、山五十川
ガイド:分県登山ガイド「山形県の山」(山と渓谷社)、山形百山(無明舎)

6月2日(金) 16:30 仙台発=(仙台宮城IC、東北自動車道、十和田IC、R.103、大館、R.7、能代、R.101 経由)=23:30 八森 道の駅「お殿水」着  (車中泊)
6月3日(土) 4:00 道の駅「お殿水」発=(R.101、陸奥黒崎、日野林道経由)=4:14 林道終点白神岳登山口〜5:00 発―5:24 二股分岐―5:51 上木戸沢(最後の水場)―6:15 蟶山分岐―6:19 蟶山―6:21 蟶山分岐―7:22 十二湖分岐―7:38 白神岳〜7:56 発―8:19 十二湖分岐―9:09 蟶山分岐―9:30 上木戸沢(最後の水場)―9:53 二股分岐―10:15 林道終点白神岳登山口=(R.101、深浦、黄金崎不老不死温泉、R.101、十二湖、R.101、能代、R.7、秋田、仁別、仁別国民の森 経由)=17:50 旭又着  (テント泊)
6月4日(日) 4:15 旭又発=(仁別、秋田、R.7、鶴岡、R.112、大山 経由)=9:39 高館山=(R.112、加茂、由良、R.7 経由)=11:05 温海温泉―11:16 温海神社下―11:41 遊歩道入口―11:46 二ノ滝―12:02 三ノ滝―12:12 林道出合い―12:46 温海岳―13:19 林道出合い―13:27 三ノ滝―13:43 二ノ滝―13:48 遊歩道入口―14:19 温海神社下―14:23 温海温泉=(R.7、神林、R.345、R.113、R.7 経由)=16:40 新潟着

 白神岳は、世界最大規模のブナ林が残されていることから、93年に屋久島と共に世界自然遺産に登録され、最近特に注目されるようになっている。白神山地のブナ林は、青森県側は良く保存されているが、秋田県側は伐採がかなり進んでおり、さらに中央部を横断する青秋林道の計画によって、危機にさらされたが、自然保護運動によって、工事は中断になっている。また最近では、保護のための立ち入り地区が指定されて、これは自然愛好家の間からも疑問の声が出されて、自然保護のモデルケースとなっている。白神岳は、この山地の盟主とされているが、標高は向白神岳の方がわずかに高い。
 高館山は、山形県庄内平野の海岸部にある低山である。山頂まで車道がのび、山頂にはアンテナが立ち並んでいるが、山中にはブナ林が良く保たれており、麓の池と結んだハイキングコースが開かれて、森林浴の場になっている。
 温海岳は、温海温泉の背後にそびえ、新潟県境に近いことから、新潟人にも知られた山である。頂上には無線基地がおかれ、林道が上がっているものの、途中から分れる沢沿いの遊歩道からは、渓谷美を堪能できる。
 この週末は、学会の関係で、仙台からの出発になった。仙台は、東北自動車道に乗りやすいので、青森県まで北上して白神岳に登り、新潟への途中に秋田の大平山に寄る計画を立てた。
 夕方、仙台を出発したが、日本海側の能代に到着したのは、夜中になっていた。国道沿いにある道の駅「お殿水」に到着し、白神岳の登山口まであと僅かであったが、夜間の林道の走りを敬遠してここで野宿ということにした。最近整備されてきた道の駅は、一般道の長距離ドライヴの際には助かるものである。手にいれておいた東北地区の道の駅のパンフレットが役に立った。翌朝、車を走らせると、直に、大きな木の標柱が立つ白神岳登山口に出て、畑も広がる段丘を登っていくと、林道終点の登山口に到着した。10台以上は駐車できる広場になっていたが、世界遺産の山といったイメージとは違って、観光施設は何も無く、普通の感じの東北の山の登山口であった。簡易便所が設けてあったが、汚れていた。登山届のノートを読むと、平日でも、数人の登山客がおり、関東からやってきた者もいた。白神岳への登山道のはじまりは、古い林道跡のようであった。林道脇には、所々杉が植えられており、これは興醒めであった。二股分岐からようやく登山道らしくなったが、標高をかせぐよりは、山の奥にわけ入る道であった。水場になった小さな沢を越していくと、最後の水場という看板が現われた。つづら折りの急坂を登っていくと、尾根上のマテ山分岐に出た。マテ山の山頂は、すぐ近くであったが、木で囲まれて展望はまったく無い中に、三角点が置かれていた。蟶とはなんだろうと思って、帰宅後辞書を引いてみたら、海の二枚貝の一種の「まて貝」のことをいうと書いてあった。海辺から見た山の形が、貝殻に似ていたために付けられたのであろうか。マテ山分岐から、ブナ林に囲まれた登りが、さらに続き、白神岳の山頂がしだいに近付いてきた。急坂の登りに変ると、草原になって、背後に日本海の眺めが大きく広がった。谷を覗くと、残雪の中に、緑がまぶしいブナの木が並んでいた。十二湖分岐に登り着いて、山の東斜面を眺めると、雪田が広がっていた。シラネアオイの花が咲く緩やかな稜線を登っていくと、ピークに出て、一旦下ったその先に避難小屋と三角点の山頂があった。避難小屋は、三階建てのログハウス風であり、かなりの人員が収容できそうであった。白神岳の標高点と三角点は、それぞれ高さが異なっている。標高点の位置についてはガイドブックに記載は無いが、避難小屋手前のピークのほうが僅かに高いようであった。ガイドブックの記述はどれも同じで、紀行文は当日の個人的な体験が主体で、山頂の位置についての疑問を抱いた者は、誰もいなかったのであろうか。山頂からは、360度の展望が広がっていた。向白神岳は、尾根伝いにすぐそこに見え、その向こうには岩木山がとがった山頂を覗かせていた。個々の名前は判らなかったが、幾重にも白神山地の山々が重なっていた。日本海の海岸線が南北に連なり、岩木山の右手には、青森湾を望むことができた。青空の下に、残雪がまぶしかった。風景を楽しみながら下山にうつることにした。避難小屋付近には、排泄禁止の立て札が幾つも立っていた。宿泊施設を建てたならば、トイレもしかるべき所につくる必要があるのにと思った。海を遥か下に望みながらの下りは、爽快であった。途中で、7組程のグループと出合い、一組は、10人程の団体であった。地元の人が水飲み場や登山道を整備しており、タケノコは採れたかと声を掛けられた。登山道に40センチ程の蛇が横たわっており、動こうとしないので石をぶつけると、怒ってかま首を持ち上げたが、くさむらの中に退散してくれた。ミドリ色をしていたが、何ヘビだったのだろうか。登山口の広場に戻ると、車でうまっていた。登山客の他に、山菜採りが入山しているようであった。白神岳への登山のみでは、白神山地の本当の良さは味わえないのかもしれない。立ち入り禁止地区にこそ、見事な自然が残されているようである。白神岳への登山道沿いのブナ林だけをみれば、飯豊や朝日連峰のほうが見事に思えた。
 まだ昼前で、秋田まで南下すには、時間に余裕があった。以前温泉のガイドで読んだことのある黄金崎不老不死温泉を訪れてみることにした。秋田とは逆方向であったが、途中、海越えに白神岳を眺め、不老不死温泉はそれ程遠くはなかった。不老不死温泉の露天風呂は、日本海の磯の中に作られていた。残念ながら、清掃中で入浴はできなかったが、囲いはほとんど無く、回りでは磯釣りを行っており、男性でも入浴には度胸が必要な露天風呂であった。引き返す途中、ヴェスパ椿山という施設の案内があったので、この温泉に向かった。新しい日帰り温泉で、入浴料は500円であった。天文台のドームのような開閉式の窓を持った浴槽からは、眼下に日本海と岬を眺めることができ、思わず記念写真を撮りたくなった。これまで入ったことのある温泉の内で、高級な温泉旅館も含めて、この温泉は、ベストテンにノミネートできそうであった。温泉に入った後は、十二湖を見物し、秋田に向かった。途中の八森の国道沿いには、「はたはた館」という大きな温泉施設があり、白神岳の登山後に南下するなら、この温泉でさっぱりすることができる。
 秋田までは、結構長い道のりであった。途中で夕食の弁当、翌日のパン、ビールを買い込んだ。混雑した秋田市街を通り抜けて、仁別国民の森への林道に走り込んだ。舗装された道であったが、狭くてカーブが多く、キャンプ帰りの若葉マークの女性ドライバーに正面から突っ込まれそうになってからは、ライドの合図と警笛を繰り返しながら車を走らせた。仁別国民の森への市営バスは、平成7年度から廃止になったとの掲示があった。秋田市からこの林道をタクシーで入ろうとするならば料金もかなりになりそうであった。国民の森からの林道も一部が未舗装であったが、そう悪い道ではなかった。旭又には、広い駐車場があり、沢を橋で渡った向こうには、キャンプ場が設けてあった。空模様は怪しくなっていたが、大学生の20人位の団体が夕食の支度中で、6張り程のテントが並んでいた。一段高くなったキャンプサイトにテントを張った。ビールを飲んで気持ちよくなり、夕食後すぐに寝てしまったが、12時頃物音に目が醒めた。テントから出てみると、雨が降り出し、大学生グループはテントの撤収中で、車で下山していってしまった。期待も空しく、雨は朝方に激しくなった。フライシートを掛けておいたテントは、防水性は充分であったが、布地を叩く雨音が高く、おちおち寝てはいられなかった。明け方の3時過ぎに、大平山の登山を断念し、明るくなった所で、新潟に向かって出発した。
 途中、雨はやんだが、風が強く、鳥海山は雨雲に厚く覆われていた。休みながら、車を走らせていく内に、鶴岡付近で天気が回復してきた。寄り道をして、一等三角点のある高館山に寄っていくことにした。加茂に向かう道に入り、トンネルを通り抜けると、右手に林道が分れていた。山頂の展望タワーの前の広場に一等三角点があった。歩かずに訪れることのできる一等三角点ではあるが、鳥海山あるいは月山登山のついでの山として覚えておくとよい山である。
 歩かずに山に登ってしまったため、逆に登山の意欲がわいてきた。新潟までの途中に登ることのできる山としては、温海岳があった。温海温泉までは、何回か通ったことのある道であったが、ガイドブックと地図を持っておらず、記憶が頼りの為に、登山口が判らなかった。温海神社の下の観光案内板に、つつじ園を通り抜けて温海岳に通じる道が書いてあった。駐車場が温泉街には無いため、町外れの路肩に車をとめて、出発した。神社の裏手のつつじ園に出ると、林道が下から登ってきた。林道を登っていくと、滝のかかる沢の上を橋で渡った先に、遊歩道入口が現れた。この先の林道は、NTTの専用道で、一般車は進入禁止という看板があったが、鎖は掛けられていなかった。遊歩道に入ると、薄暗い沢沿いの道になった。沢にかけられた橋は、横板が腐って折れており、おそるおそる渡る必要があった。また、木製の橋の表面にはコケがついて、雨上がりで滑りやすくなっていた。斜になった所では、滑って橋から落ちそうになり、下山途中では注意していたものの見事に尻餅をついてしまった。沢沿いには美しい大小の滝が並んでいた。この遊歩道は、夏の厚い盛りに遊ぶのによさそうな所であった。急な斜面を登り詰めると、迂回してきた林道に再び飛び出した。この先も、山頂までかなりの距離があった。途中二ヶ所のアンテナ基地を通り過ぎ、三番目の日本テレコムのアンテナの先が山頂であった。コンクリート製の建物が、山頂の神社のようであったが、戸が閉ざされて何の建物かは不明であった。建物の前は、僅かな高みになっていたが、雑草に覆われ、山頂の印は無かった。展望も全く無く、少し下った所から温海温泉と日本海の眺めが得られたのみであった。この山頂近くまで、車で上がることができそうであった。それ程長くはない登山ではあったが、かなりの標高を登り下りし、すっかり汗まみれになった。温海温泉にも共同浴場があったが、駐車場が無いため、いつも利用している「まほろばの里」の温泉で入浴(400円)して帰宅した。

 山には、「会心の山」と「心残りの山」がある。大平山は、「心残りの山」になった。

 「山は心をあとに残すところがいい。山に出かけても、その頂きを極めることができずして帰って来たことが幾度もある。一ぺんで目的を果たしてしまった山よりも、登りそびれて、振り返り振り返り他日を約しながら帰る山の方が、遥かに印象が深い。」(深田久弥 山頂山麓より)(なお、深田久弥の心残りの山は、高妻山と雨飾山であった。)
 深田久弥について、もう少し。故郷大聖寺の江沼神社境内にある深田久弥文学碑に印されている詩である。
山の茜を顧みて
一つの山を終わりける
何の俘のわが心
早くも急がるる次の山
 さて、来週はどこの山に登ろうか。しかし、秋田はやはり遠い。

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