烏帽子山、菱ヶ岳

烏帽子山
菱ヶ岳


【日時】 2009年10月31日(金)〜11月1日(日) 前夜発2泊2日 各日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 31日:晴 1日:晴

【山域】 守門山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
 烏帽子山・えぼしやま・1350.0m・三等三角点・新潟県
【地形図 20万/5万/2.5万】 新潟/守門岳/栃堀、光明山、守門岳
【コース】 吉ヶ平より
【ガイド】 なし
【温泉】 いい湯らてい 650円(夜の割引 通常850円 タオル、バスタオル付き)

【山域】 関田山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
 菱ヶ岳・ひしがたけ・1129.1m・一等三角点補点・新潟県
【コース】 不動滝駐車場より
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/高田東部/柳島
【ガイド】 信越トレイルマップ3 牧峠〜天水山
【温泉】 ゆきだるま温泉 500円

【時間記録】
10月30日(金) 17:00 新潟=(北陸自動車道、三条燕IC、R.289、八木 経由)=19:00 吉ヶ平  (車中泊)
10月31日(土) 5:12 吉ヶ平―6:12 椿尾根―6:53 山の神―7:15 番屋乗越―7:53 1006mピーク―8:22 1010mピーク―8:57 鞍部―10:20 烏帽子山〜10:30 発―11:45 鞍部〜12:00 発―12:36 1010mピーク―13:13 1006mピーク―13:45 番屋乗越―14:04 山の神―14:18 椿尾根―15:56 吉ヶ平=(八木、R.289、三条燕IC、北陸自動車道、柿崎IC、吉川、浦河原、R.403 経由)=20:30 不動滝駐車場  (車中泊)
11月1日(日) 7:17 不動滝駐車場―8:05 菱ヶ岳―8:19 ゴンドラ山頂駅分岐―8:41 信越トレイル合流点―8:52 須川峠〜9:03 発―9:37 伏野峠〜9:58 発―10:16 不動滝入口―10:37 不動滝―10:51 不動滝駐車場=(R.403、浦河原、吉川、柿崎IC、北陸自動車道 経由)=14:00 新潟
 烏帽子山は、守門岳の北東に位置するピラミッド型のピークである。越後と会津を結ぶ八十里越街道を見下ろす登山道の無い孤高の山である。

 菱ヶ岳は、関田山塊にある一等三角点ピークで、かつては女人禁制の信仰の山で、山頂には薬師三尊が祭られている。麓にはキューピットバレースキー場が広がっており、ゴンドラを利用すると、短い時間で山頂に到達できる。最近整備された長野・新潟の県境沿いに続く信越トレイルからは僅かに新潟県側に外れている。

 烏帽子山は、登山道の無い山である。守門岳や黒姫の山頂から眺めて、憧れの目で見つめていたが、登る方法が見いだせない山であった。残雪期に黒姫から下降し、破間川を横断して登ったという報告があるものの、これは私の実力では無理である。
 最近、烏帽子山への藪を刈ったため、登れるようになったという山行報告をネットから知ることができた。登山道というよりは、藪を払った程度で、来年にはどうなるかは判らないため、年内に登らなければと機会をうかがうことになった。
 コースは、吉ヶ平から八十里越を進み、四分の一ほどの行程の番屋乗越から尾根沿いに登るというものである。問題になるのは、晩秋になって、昼の行動時間が短くなっていることであった。往復10時間ほどかかるようなので、行動のための11時間を確保し、16時には下山しようとすると、5時に出発する必要があった。夏山ならあたりまえの出発時間であったが、現在ではまだ暗い時間になっている。ヘッドランプ歩きで時間を確保することにして、時間調整を行うことにした。
 早朝発ということで、吉ヶ平へは前夜入りした。吉ヶ平を訪れるのは、1906年9月以来である。この時は、登山口の吉ヶ平への道路は、土砂崩れによって不通になっており、遅場でゲートによって閉鎖されていた。吉ヶ平まで歩いてどれほどか確かめるために、番屋山を目標として訪れたものである。現在は、遅場から先は舗装道路になっているが、細いので対向車には注意が必要である。道路が付け替わって守門川の右岸に移ると未舗装に変わるが、ほどなく吉ヶ平に到着する。以前は、分校であった建物があり、その前の広場に車を止めて寝た。分校は、一時荒れて屋根がビニールシートで覆われて廃屋寸前になっていたこともあったが、現在は補修されている。
 分校前に、守門岳へという新しい標柱が立てられているのが目にとまった。現在、守門川に砂防ダムが建設中のため、以前からあった登山道の入り口が付け変わったのかと思ったら、帰宅後に読んだその日の新聞に、網張山経由の新しい登山道が開かれたという記事が載っていた。新しい登山道とあっては、近いうちに歩く必要がある。
 予定通りに、5時過ぎにヘッドランプを使って歩きだすことができた。守門川を渡った先も、しばらくは、車の走行が可能な道が続くが、坂を登った所から先は、山道に変わる。Y字路で馬場跡と書かれた石碑が現れ、ここが八十里越のスタート地点になる。左は雨生池と番屋山への道で、右の道に向かう。
 八十里越は、中越と南会津を結ぶ旧街道の峠道で、下田村吉ヶ平から只見町入叶津までの32kmの行程である。一里が十里に思うほど険しいことから八十里越と呼ばれたというが、明治・大正の頃は、人物の往来や物資の運搬で賑わったという。司馬遼太郎の「峠」の舞台であり、長岡藩家老の河井継之介が、長岡戦争で敗れて会津藩へ落ち延びる途中、負傷して戸板に乗せられて運ばれ、「八十里こしぬけ武士の越す峠」と自嘲して読んだうたは有名である。現在では、只見線や六十里越の国道の開通によって、全く使われなくなり草に埋もれており、その踏破は登山レベルでいっても、経験者向きの難コースになっている。
 八十里越は、刈り払いも充分行われており、暗い中でも問題なく歩ける状態であった。水平な道を行き、杉の植林地をひと登りすると、再び水平な道に変わった。浅い谷を登るようになると、番屋山から落ち込む尾根が頭上に迫ってきた。この尾根に上がったところが椿尾根と呼ばれる地点で、石碑が置かれている。この少し手前からヘッドランプは必要としなくなっていた。まずは順調な歩きであったし、この区間は日没後でも歩けることが判り、時間的な余裕が生まれた。
 ここまでは、吉ヶ平集落の生活圏内であったようで、杉の植林地や、耕作地跡のようなススキの原が見られたが、この先は、いよいよ八十里越の核心部になる。
 いかにも旧街道と思われる広々とした道の区間と、足元に注意が必要なへつり区間が交互に現れた。崩壊によって高巻きする所やロープが張られてそれを頼りに通過する所も現れた。ほぼ水平に続く道としては、体力が必要であった。
 山の神の祠が現れると、前方に番屋乗越も近付いて見えるようになる。この先は、短い急登を繰り返して、高度をかせいでいくことになる。
 切り通しになった番屋乗越に到着して、ひと息ついた。今回は、要所で時計を確認しながら歩く必要がある。吉ヶ平から椿尾根まで1時間。椿尾根から番屋乗越まで1時間。予定通りであった。
 ここからいよいよ、烏帽子山への道が始まる。尾根の脇から入ると、すぐに折り返すようにカーブして尾根上に出るように刈り払いが続いていた。横に延びる枝は払ってあり、登山道とまではいかないものの、楽な藪こぎといった状態であった。
 灌木帯の展望の利かない歩きが続いたが、1006mピークの手前で、痩せ尾根となり、烏帽子山の眺めが広がった。その背後には守門岳の山頂が広がっていた。烏帽子山までの稜線は、大きく弧を描いており、距離がかなりあった。
 1006mピークへは、右手に沢を少し下ってから、左から合わさるヒドを登ることになった。1006mピークの上は、密生した藪であったが、その先は、ブナ林で、下生えも少なく歩きやす状態になった。刈り払いもさほど必要もない状態のため、かすかな踏み跡を辿るのも難しく、要所に付けられたピンクテープを目印に歩くことになった。
 1010mピークを越えて1007m点の東を通過すると、ようやく烏帽子山の山頂も迫ってきたが、山頂は東に位置しているため、逆光になって地形が見分け難くなっていた。
 鞍部から先は、痩せ尾根の登りが現れた。山頂が近付いてきたところで、急斜面になった。踏み跡は判り辛くなって、藪の中を進んでしまい、すぐに復帰する場面も出てきた。感覚的には、右の方に方向を変えて少し進んでは直登するというのを数回繰り返したが、GPSのログでは、尾根沿いの登りが続いているようにしか見えない。枝を掴みながらの急登が続いた。
 烏帽子山の山頂は、東西に広がっており、山頂台地に上がってから藪を掻き分けて少し進む必要があった。三角点は藪に囲まれた広場の中に頭を出しており、ここからは、藪越しにかろうじて守門岳の山頂部が見えるだけであった。
 ここまでの登りで体力を使っており、ビールを飲みたかったが、急坂の下りが気にかかり、鞍部まで戻ってから休むことにした。
 山頂台地に登りついた西の縁に戻ると、守門岳の展望を楽しむことができた。冬は大雪庇を落とし込む岩壁が目の前に広がっていた。なかなか見ることのできない角度からの守門岳の眺めであった。
 木の枝を掴みながら慎重に急坂を下り、鞍部で大休止にした。高清水沢の台地を眼下に見下ろすことができ、名残りの紅葉が谷間を彩っていた。ブナの大木が、葉を落として白く光る枝を広げていた。
 番屋乗越までは、小さな登り返しもあり、藪道で体力を消耗していった。八十里越に戻ってからは、沢水で喉をうるおし、紅葉の眺めを楽しみながらも、最後の力を振り絞ることになった。椿尾根付近では、番屋山の山腹の紅葉が輝いていたが、吉ヶ平に到着した時には日が陰り始めていた。予定通りの時間で歩いたとはいっても、ぎりぎりのタイミングであった。烏帽子山は遠い山であった。
 今回は、刈り払いのおかげで登ることができたが、気になるのは今後のことである。藪を刈ったとはいえ、人が歩かなければ、すぐに藪に戻ってしまう。皆に歩いてもらいたいと思うが、アプローチの八十里越も含めて、距離も長く、藪こぎの経験者向きのコースである。
 一番近くの温泉は、いい湯らていである。コーヒーを飲んでひと休みして、割引料金となる5時を過ぎたところで入館した。
 翌日の天気予報は、曇り後雨または雪というものであった。強力な寒気が入り込むようであった。問題は、天気の変化がいつになるのかということであった。半日行程で、悪天候の影響の少ないコースを考えていき、関田山塊の菱ヶ岳が思いついた。信越トレッキングコースが、天水山まで整備され、最近では歩く者も多くなっているようである。途中のピークは、これまでにほぼ登り終えたが、訪れたことのない峠は多い。菱ヶ岳は、信越国境沿いのトレッキングコースからは新潟県側に入り込んでいるが、麓のキューピットバレーが、信越トレッキングの泊場になっているようである。菱ヶ岳とその周辺の峠を結んで歩くという計画を立てた。
 高速に乗って、柿崎経由でキューピットバレーに向かった。菱ヶ岳は、家族で夏に登ったことがあったが、冬はスノーシューとフリートレックを利用して、二度登っている。ゲレンデスキーにも何度か訪れて、新潟市内からは少し遠いが、馴染みのある山である。
 キューピットバレーは、週末の宿泊客が入って、煌々と明かりがついていた。スキー場の駐車場では野宿もしにくいので、スキー場の脇を登っていく国道403号線に進んだ。林道だと思っていたのだが、国道ということで、夜間でも車の走行には問題のない舗装道路が進んだ。
 菱ヶ岳の西側の登山口になる不動滝入口を過ぎ、さらに進むと伏野峠に到着した。ここまで車で問題なく上がって来られるとは思っていなかったが、さらに長野県側にも通行可能なようであった。
 当初の予定では、一般的なスタート地点となるキューピットバレーのグリーンパークから登るつもりだったのだが、この道路の状態によって、計画を変えることになった。不動滝入口から菱ヶ岳に登り、東の登山道を下った後に須川峠に登り返し、信越トレッキングコースを伏野峠まで歩き、後は車道歩きで戻ってくるという周回コースを考えた。これなら、スキー場のゲレンデ歩きを回避できる。
 不動滝入口には、駐車場が設けてあるので、そこで夜を明かした。風が強く、天候の悪化が懸念されたが、朝になってみると青空が広がっていた。
 菱ヶ岳への登山道に進むと、いきなり急な登りが始まった。ひと登りで、傾斜は緩やかになり、谷間に入った。周辺は見事なブナ林が広がっていた。沢を渡ると、須川峠への道との分岐になり、左の道に進んだ。再び急な登りが始まった。滑りやすい泥斜面のため、ロープが助けになった。尾根沿いの登りに変わると、それほどかからずに菱ヶ岳の山頂に到着した。山頂のお堂の壁には、菱ヶ岳山頂1等三角点標高1129.1mと大きく書かれていた。山頂からは一等三角点にふさわしい展望が広がっていた。眼下には、キューピットバレーの野外施設が点在し、その向こうには柿崎付近の日本海の海岸線が広がっていた。西には山頂部が白く染まった妙高連山を望むことができた。
 展望を楽しんだ後は、ゴンドラの山頂駅方面からの登りに使われる東側の登山道に進んだ。少し進むと、尾根沿いの急な下りに変わった。冬にはブナ林の中の登りを楽しめる所である。下山後にGPSのログを確かめると、登山道は、地形図の破線の西の尾根沿いに走っており、冬は破線通りに浅い谷間から登り始めていた。
 滑りやすい泥斜面には、ロープも固定されて歩きやすくなっていた。谷間に下りると、ゴンドラ山頂駅と須川峠方面への分岐に出た。須川峠に向かって尾根を越すと、トラバース道となった。古くからの峠道と納得のいく、良く踏まれた道が続いていた。この区間は、古道ブナ林コースと呼ばれるようだが、ひと際見事なブナ林を楽しむことができた。途中、二ヶ所で、不動滝駐車場方面に下る道が分かれた。
 前方の稜線に出たところで、信越トレッキングコースに合わさったが、旧道歩きは少し先の須川峠まで続くことになった。
 須川峠で、旧道は、長野県側に下りていったが、林道に飛び出してその後は国道に合わさるようである。旧道と今回新しく開かれたトレッキングコースを比べると、旧道は歩きやすく良く踏まれていることが判る。新しい道を開くことも良いが、昔の峠道を大切にしてもらいたいと思う。
 ひと休みの後に、伏野峠に向かって信越トレッキングコースを進んだ。新しい道とあって、刈り払いの枝が出ているようなところもあった。右下には、峠に通じる国道が並行して走っていた。振り返ると、ブナ林に覆われた菱ヶ岳の山頂を良く眺めることができた。
 1094.5mピークから急坂を下っていくと、ニ班に別れたツアーの団体が登ってくるのとすれ違った。歩いている途中、バスが伏野峠に向かうのが見えていたので、その一行のようである。
 車道に飛び出した所のトレッキングの案内図では、ここが伏野峠とされているが、地形図では少し先のように書かれている。トレッキングコースを先に進んでみたが、前方の小ピークにかかる前の鞍部が伏野峠のはずであったが、ここで横断する道は無かった。伏野峠越えの旧道は無くなっており、現在では国道がその代わりになっていた。
 国道の峠に戻り、車道歩きで不動滝の駐車場に向かった。周囲のブナ林も美しく、歩くのも苦にはならなかった。
 不動滝駐車場の400mほど手前で、古道ブナ林コースから分かれて下りてきた登山道の入り口があり、周辺の案内図が置かれていた。これを見ると、「ブナ林・滝道下コース」という不動滝への遊歩道が、ここから始まっていた。時間もまだ早かったので、寄り道していくことにした。
 下っていくとブナ林の広がる台地に出て、その先はロープもかかる痩せ尾根の下りになった。ファミリーハイクには向かない遊歩道であった。尾根を右にはずして下ると沢に出たので飛び石伝いに渡り、ひと登りすると不動滝に出た。ニ段に分かれた滝で、沢を飛び石伝いに遡ると、全景を眺めることができた。
 滝からは、ロープもかかる急坂になった。登山客はともかく、一般観光客には危険な道であった。坂を登りきると、火炎石の脇で、駐車場に戻ることができた。
 菱ヶ岳は、展望の良い山であるが、スキー場のゲレンデ歩きがいささか面白くなかったが、今回の不動滝駐車場からの周回ならブナ林を楽しみながら歩くことができる。紅葉の盛りに訪れてみたいコースであった。

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