薬師岳

薬師岳


【日時】 2009年9月5日(土)〜6日(日) 前夜発1泊2日テント泊
【メンバー】 単独行
【天候】 5日:晴 6日:晴

【山域】 北アルプス中部
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
 太郎山・たろうさん・2372.9m・三等三角点・富山県
 薬師岳・やくしだけ・2926.0m・二等三角点・富山県
【地形図 20万/5万/2.5万】 高山/有峰湖、槍ヶ岳/有峰湖、薬師岳
【コース】 折立より往復
【ガイド】 分県登山ガイド「富山県の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「剱・立山 北アルプス」(昭文社)
【温泉】 亀谷温泉白樺ハイツ 600円

【時間記録】 9月4日(金) 17:00 新潟=(北陸自動車道 経由)=22:00 有磯海SA  (車中泊)
9月5日(土) 4:30 有磯海SA=(北陸自動車道、立山IC、亀谷温泉 経由)=5:20 林道ゲート〜6:00 発=(有峰林道小口川線 経由)=6:40 折立〜7:06 発―8:04 アラレちゃん広場―8:33 三角点―9:50 五光岩ベンチ―9:55 発―10:42 太郎平小屋〜11:03 発―11:24 薬師峠  (テント泊)
9月6日(日) 4:58 薬師峠―5:22 薬師平―5:55 薬師岳山荘―6:23 避難小屋―6:38 薬師岳―7:00 避難小屋―7:28 薬師岳山荘―7:57 薬師平―8:19 薬師峠〜9:03 発―9:26 太郎平小屋―10:02 五光岩ベンチ―11:02 三角点―11:26 アラレちゃん広場―11:59 折立=(往路を戻る)=17:00 新潟
 薬師岳は、黒部源流に位置し、東面には3つのカールを持つ重量感のあるボリュームの大きな山である。今はダムの底になってしまった有峰の里の人々の信仰の山で、その名前もそこから付けられている。1963年1月の愛知大学山岳部の13人の遭難事件は有名であるが、現在では立山、雲ノ平、あるいは黒部五郎方面を結ぶ要の山として、あるいは日本百名山の山として人気が高い。

 薬師岳は、日本百名山巡りを目的に1994年10月8日に登ったが、それからかなり時間が経っている。しかし、薬師岳が縁遠い山かというとそうでもない。2002年と2006年の夏に、雲ノ平を折立から入っているが、この時も薬師岳を登ろうと考えていたものの、黒部五郎岳から縦走して太郎平小屋に到着してみると、夏山の盛りとあって、広場は大混雑の状態であった。薬師峠のテント場も混み合っているようなので、そのまま折立へ下山してしまい、薬師岳は登らずになってしまった。週末の二日を使えば、薬師岳はいつでも登れるという気持ちを持ったのが、まずかったようである。
 今年の夏山の予定に入れていたものの、富山方面に週末二日間の晴れ間が回ってこなかったため、機会を逸して8月も終わってしまったが、9月に入ってようやく晴れ間が巡ってきた。
 有峰林道は、20:00から6:00まで夜間通行止めになる。雲ノ平まで1日で入るには、前夜のうちに林道を通過して折立で夜を明かす必要があるが、薬師岳をめざすなら、朝になってから林道を進めば良い。高速道の上限1000円を利かせるためにも、その方が良い。といことで、有磯海SAで夜を明かし、朝になってから高速を下り、コンビニで食料を買い込んでゲートに向かった。時間を見計らってゲートに到着すると、すでに車の列が延びていた。
 有峰林道も、昔と違って、完全舗装化され、新しいトンネルによって、すれ違い困難の所は少なくなっている。折立の駐車場は、ゲートの解放と同時に走り込んできた車で、七分ほどの混み具合になった。夏の盛りには、広い駐車場も一杯になって路上駐車の列が延びることからすれば、夏山シーズンは過ぎた感がある。
 薬師岳遭難の慰霊碑の前を過ぎると、太郎坂と呼ばれるつづら折りの登りが続く。今年は、ぐずついた天候のためにテント泊を行わないまま夏が過ぎてしまった。大型ザックを背負えるか不安があったため、比較的歩き慣れている太郎平へのコースを選んだという背景がある。ザックを背負っても、なんとか足は前に出た。最初はきつかったが、体が受け入れてくれる足取りに落ち着いた。
 最初の目的地は、つづら折りの登りがひと段落し、尾根の傾斜が緩む地点で、ここの小広場には、ドクタースランプのアラレちゃんの絵看板が置かれている。少し古びてきたが、看板は健在であった。
 他のグループも追い抜きながら登っていくと、三角点に到着した。行く先の方向に丸みを帯びた稜線が見えているが、太郎平はその先で、五光岩ベンチあたりの高まりが見えているのかもしれない。小ピークを越えてから登りを続けると、樹林帯を越えて、草原の中に登山道が続くようになる。木道や石畳状態に整備されているところもあって歩きやすいが、ここの問題点は日影がないため熱いことである。9月に入って暑さも和らいだといっても、汗が噴き出てきた。このコースは未明からヘッドランプで歩き出すのが、熱さ対策としては良い。
 五光岩ベンチまで上がると、太郎平小屋も視野に入ってきて気が緩むが、ここからが結構辛い。幸い、左手には薬師岳を眺めることができて、登りの辛さは報いられる。山腹を覆う草原は黄色に色づいてきていた。
 太郎平小屋の広場は、夏山の盛りと違って人も少なく、静かな雰囲気が漂っていた。薬師岳や雲ノ平、水晶岳、黒部五郎岳の眺めが広がっており、汗を拭きながらしばらく眺めに見入った。山の上に広がる青空は、秋のものであった。
 薬師峠のテン場の受付を行うために小屋に入ると、生ビールの値段表が目にとまった。時間は11時であったので、生ビールを飲みながら昼食にすることにした。時間的には薬師岳の往復も可能であるが、明日の天気も良さそうなので、山よりは生ビールを選ぶことになった。
 まずはジョッキ入りのビールを薬師岳を背景に写真を撮った。中ジョッキ1000円は、大展望のショ場代を考えれば、妥当なところであろう。なお、缶ビールは、500mlが500円で、700mlが700円であった。乾いた喉に、ビールはあっという間に無くなってしまったことは、残念であった。
 ザックを再び背負って、テン場を目指した。木道の敷かれた台地を、薬師岳を眺めながら歩いていくと、下りに入り、下方に薬師峠のテン場が見えてきた。テン場はまだ空いており、良い場所を選ぶことができた。
 テントを張り終えるとすることもないので、またビールを飲み、音楽を聴きながら昼寝をした。
 夕方近く、寝ているのも疲れてきたため、散歩にでることになった。太郎山まで足を延ばすことにした。光線の具合も変わってきており、雲ノ平や黒部源流の山も良く見えるようになってきていた。
 薬師峠側と太郎平小屋側では、見える山が違うのが面白かった。薬師峠側では、水晶岳は薬師岳の山裾に隠されてしまうが、祖父岳と重なっていた鷲羽岳がはっきり見分けられるようになり、槍ヶ岳の穂先が現れてきた。
 太郎平小屋の前を通り過ぎて、太郎山の山頂まで登った。縦走路から太郎山の三角点まで細道がつけられている。北ノ俣岳に向かって緩やかな稜線が延び、草原は茶色に色づき始めていた。
 日が落ちると、とたんに気温が下がってきた。今回はスリーシーズン用シェラフを持ってきていたが、それで丁度良かった。今年は、夏山専用のコンパクトシェラフは出番無しに終わった。
 夜中にトイレのために起きると、満月に近い月が昇り、周辺は月明かりに照らされていた。星の輝きはかき消されていた。
 夜明け前にテン場の物音で目が覚めた。湯を沸かしてパンを食べているうちに、薄らあかるくなった。ヘッドランプを付けて歩きだした。
 薬師峠からは、ガレ場の登りが続く。ガレ場の中に所々付けられたペンキマークを見落とさないようにするには、ヘッドランプを消して、明るさに目を慣らす必要があった。 ガレ場を登り詰めると、木道の敷かれた太郎平に出た。槍ヶ岳が、黒いシルエットを見せていた。尾根の末端を北側に回り込むと、枝尾根沿いの登りが始まった。沢を挟んで東南尾根が延びていた。急登を終えて台地に出ると、その先で薬師岳山荘が現れた。
 その先は、ガレ場の急登が続いた。ようやくピークの上に出ると、コンクリート製のブロックが現れる。これが避難小屋なるもののようである。ここには大きなケルンが置かれている。ここからは東南尾根が分かれて、登ってきた薬師岳山荘方面よりも、尾根の続きははっきりしている。1963年の愛知大学山岳部13名の遭難は、この尾根に引き込まれて発生したものである。パーティの中に地図とコンパスを持っているものがいなかったという信じられない装備の欠陥があったにしても、夏道を事前に歩いておれば、ここは要注意であることは明らかである。
 周囲の展望も広がっていたが、薬師岳の山頂も、山頂の祠や人影も見えている目の前なので、先へと急いだ。
 小岩峰を巻きながら緩やかに登っていくと、薬師岳の山頂に到着した。薬師岳はボリュームのある山であるが、その山頂は岩が重なり、祠でいっぱいの状態であった。祠の中をのぞくと、金色に塗られた薬師像と石のお地蔵様が置かれていた。石仏はともかく、薬師像は、冬の間は里に下ろされるのだろうか。
 北に向かっては細尾根が続き、カールが黒部川に向かって広がっていた。北薬師岳の向こうには、立山や剱岳見え、この縦走路も歩きたいと思っているのだが、車の回送の問題もあり、なかなか歩けないでいる。
 風が冷たく、山頂で休む者は数人で、登ってきたものも折り返し状態で引き返していた。展望を楽しみながら来た道を戻ることにした。
 太陽が昇ってきて、山も見分けやすくなってきた。真東の赤牛岳は黒いシルエットのままであったが、標高も上がったため、槍・穂高岳や笠ヶ岳、乗鞍岳も見えるようになってきた。薬師岳は、第一級の展望を楽しむことのできる山であるので、晴れの日を待って登ったかいがあった。
 歩くにつれて変わる展望を楽しみながら薬師峠に戻り、テントの回収を行った。折立までの下りは、時間的にはそれほどかからなかったが、下るにつれて気温も上がってきて辛い歩きになってきた。
 薬師岳は、テント泊1泊2日の行程で余裕もあり、のんびり登るには良いので、また行きたい山のリストに加えるよう。

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