尾瀬ヶ原、黒男山、甲子山、旭岳

尾瀬ヶ原
黒男山
甲子山、旭岳


【日時】 2008年10月11日(土)〜13日(月) 前夜発日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 11日:雨 12:晴 13日:晴

【山域】 尾瀬
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 尾瀬ヶ原・おぜがはら・1400m・無し・群馬県、福島県、新潟県
【地形図 20万/5万/2.5万】 日光/燧ヶ岳、藤原/会津駒ヶ岳、燧ヶ岳、尾瀬ヶ原
【コース】 小沢平より
【ガイド】 山と高原地図「尾瀬」(昭文社)
【温泉】 駒の湯 500円

【山域】 会越国境
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
 黒男山・くろおとこやま・980.4m・二等三角点・群馬県
【コース】 南東尾根より
【地形図 20万/5万/2.5万】 新潟/野沢/安座
【ガイド】 会津百名山ガイダンス(歴史春秋社)
【温泉】 桐の里倶楽部 420円(石鹸のみ)

【山域】 那須連峰
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
 甲子山・かしやま・1549m・なし・栃木県、福島県
 旭岳(赤崩山)・あさひやま(あかくずれやま)・1835.2m・二等三角点・栃木県、福島県
【コース】 甲子温泉より
【地形図 20万/5万/2.5万】 日光/田島/甲子山
【ガイド】 会津百名山ガイダンス(歴史春秋社)、ハイキングガイドふくしまの高い山50(歴史春秋社

【時間記録】
10月10日(金) 6:00 六日町=(R.252、小出、奥只見シルバーライン、R.352 経由)=20:30 小沢平  (車中泊)
10月11日(土) 6:15 小沢平―7:38 渋沢温泉小屋―8:45 うさぎ田代分岐―9:13 三条の滝〜9:20 発―9:56 平滑ノ滝見晴―10:12 温泉小屋―10:43 下田代十字路―11:08 竜宮小屋―11:47 三叉路〜12:03 発―13:02 東電小屋―13:52 温泉小屋―14:34 御池分岐―14:38 うさぎ田代分岐―15:21 渋沢温泉小屋―16:40 小沢平=(R.352、内川、R.401、山口、R.289、会津田島、R.121、会津下郷、R.289 経由)=20:30 甲子温泉  (車中泊)
10月12日(日)6:00 甲子温泉=(R.289、会津下郷、R.121、湯上温泉、R.118、芦ノ牧温泉、会津坂下、R.49、R.252、会津宮下 経由)=8:15 656点下―9:45 909点―10:27 黒男山〜10:48 発―11:26 909点―12:40 656点下=(会津宮下、R.252、R.49、会津坂下、芦ノ牧温泉、R.118、湯上温泉、R.121、会津下郷、R.289)=19:00 甲子温泉  (車中泊)
10月13日(月) 6:00 甲子温泉―7:06 猿ヶ鼻―7:33 甲子峠分岐―7:51 甲子山―8:03 旧道入口―8:15 水呑場―8:29 旭岳入口―9:07 旭岳〜9:17 発―9:49 旭岳入口―10:00 水呑場―10:09 旧道入口―(10:18〜10:46 昼食)―10:52 甲子山―11:02 甲子峠分岐―11:21 猿ヶ鼻―11:51 甲子トンネル入口―12:03 甲子温泉=(R.289、会津下郷、R.121、湯上温泉、R.118、芦ノ牧温泉、新鶴PA、磐越自動車道 経由)=15:40 新潟
 尾瀬ヶ原は、群馬県、福島県、新潟県の三県にまたがり、約1400mの標高に、東西約6km、南北約1kmにわたって広がる本州最大の湿原である。尾瀬ヶ原は、季節を変えて、ミズバショウやニッコウキスゲを代表とする高山植物や紅葉に彩られ、訪れる登山者が絶えない。

 黒男山は、会越国境近くの、柳津の只見川左岸にある山である。会津百名山に選ばれているが、道は無いため、一般的には、美坂高原から残雪期に登られている。

旭岳は、那須連峰北部にある鋭鋒である。中央部の三本槍岳の南にも字が違うものの同じ読み方の朝日岳があるため、区別して赤崩山と呼ばれることも多い。縦走路はこの山の東山麓を通過しているが、最近は登山者も多くなって、一般道に近いまでの道が付けられている。

 三連休は、会津の山を歩くことにしたが、初日は、雨模様の天気予報が出た。小雨でも歩けるだろうということで、尾瀬を選んだ。尾瀬への各コースのうち、最近歩いていないのは、小沢平から渋沢温泉小屋を経由して三条の滝に出るコースである。
 このコースを歩いたのは、35年ほど前になる。大学二年の秋の運動会の日、大学生になって運動会でもあるまい。ということで、仲間一同、さぼって山歩きをすることにした。計画したのは、新潟から上越線で小出へ。バスで奥只見ダムへ行き、銀山湖を遊覧船で渡り、尾瀬口からは歩きで渋沢温泉小屋泊。二日目は、渋沢大滝を見た後に尾瀬ヶ原に入り、下田代十字路で二泊目。三日目は、尾瀬沼から大清水へ下山。バスで沼田に出て、上越線で新潟に戻るというものであった。
 予期せぬことに、予定していた銀山湖の船に乗りそこね、2時間ほどの遅れが出てしまった。今は、車で一気に通り過ぎる鷹ノ巣から砂子平、小沢平の道を歩いていくうちに、秋のつるべ落としで、夕暮れが迫ってきた。当時のこの一帯は、開拓部落が離散し、廃屋や廃校が並んで、物の怪が出ても不思議はないような、もの寂しいところであった。ようやく山道に入っても、小屋までは遠く、暗闇が迫るころ、ようやく渋沢温泉小屋に到着した。その後の、山道周辺や尾瀬ヶ原の紅葉は素晴らしく、赤や黄の色が身に染み込むようなものであったと記憶している。
 このコースを最近歩いていないのは、理由も判らないが、もっぱら、御池から入山し、尾瀬沼から尾瀬ヶ原へと周回するコースの方が、見どころが多いせいもある。紅葉の盛りの三連休とあっては、大混雑は必至であるが、このコースに関しては、その心配は無い。
 出張先の十日町から出発するため、小出に出てから、国道352号線を通って、小沢平に入ることになった。このルートは、奥只見湖の湖畔を伝う、カーブの連続で高低差もある難路である。新潟発の場合は、桧枝岐入りの際には、このルートを避けることにしているが、今回は、最短距離ということで、使うことになる。
 小出からはシルバーラインを経て、銀山平から国道352号線のドライブの開始になる。平ヶ岳登山を始め、何度かこのルートを通ってはいるが、以前よりは、道の状態は良くなっていた。このようなカーブ連続の道の夜間の運転は、ヘッドライトが遠くから目に入ってきて、対向車と出合い頭の衝突がないだけ気が楽である。恋ノ岐乗越で細越山に続く尾根を越すと、ようやく定期船の尾瀬口に到着し、その後は、樹海ラインと呼ばれるらしい、直線道路になり、ほっと安堵の息を付くことになる。実際のドライブ時間以上に長く感じられた。
 小沢平の登山口の駐車場は、尾瀬口山荘の専用駐車場で、無断駐車禁止と書かれていた。少し手前の路肩広場で夜を過ごした。
 翌朝は、夜の間の小雨が上がった状態で、歩くのには支障のない状態であった。尾瀬口山荘は、営業は中止しているようで、無人のように見えたが、準備をしていると、中からおばあさんが出てきたので、尾瀬登山のために車を止めることを話して了解をとった。
 広場の奥から登山道が始まっているが、他の登山口にも置かれている入山者カウンターがここにも設けられていた。おそらくこの登山口が、一番入山者は少ないであろう。
 すぐに只見川の河岸に広がるブナ林の歩きになる。登山地図には、歩いて10分のところに、幻ノ大池分岐という地点が書かれている。先回といっても、35年前のことだが、ここには籠渡しがあって、興味を持って眺めたことを覚えている。現在は、そのようなものはなく、幻ノ大池分岐がどこなのかは判らなかった。
 地図には、川岸をそのまま辿るように書かれているが、尾根の中腹に向かって緩やかに登っていって、また下っていくように変わっていた。
 緩やかに下っていくと、白く濁った沢が左から落ちてくるのに出会った。これが渋沢で、上流部に渋沢温泉小屋の建物も見えていた。注意書きで、上流の橋は傾いているため、下の橋を渡るようにとあった。渋沢を渡ってひと登りすると、T字路に出た。尾瀬ヶ原へは右に進むのだが、渋沢温泉小屋をのぞいていくことにした。最近建て替えられたようで、こぎれいな小屋であった。途中のブナ林の雰囲気も良いので、あまり歩けなくなったら、この温泉小屋を目的地にしたハイキングでもしようかという気持ちも起こった。この小屋は、釣り人が多く利用しているように思えた。
 ここからいよいよ本格的な登りが始まった。つづら折り状に道は付けられており、昔からの山道といった感じであった。歩く者は少ないはずであるが、良く整備されていた。標高差150mほどを頑張ると、緩やかな台地の歩きになる。紅葉も次第に深まってきて、期待が膨らんできた。
 トラバース状の道から、標高差50mの急登を終えると、うさぎ田代脇の分岐に出た。ここで、ようやく登山者に出会うことになった。この付近は、紅葉の盛りになって、周辺の木々は赤や黄色に染まっていた。三条ノ滝への道に進むと、こじんまりしたうさぎ田代が現れる。この先は、三条ノ滝見物のためのメインルートになるのだが、岩が飛び出していたりして、意外に歩きにくい。一気に130mほどの高度を下げると、平滑ノ滝からの道に合流する。三条ノ滝へは右に進む。滝の轟音が近づいてくると、観瀑台に出る。時間の関係か、登山者も数名であった。記念写真が終わるのを待って、滝の写真撮影を行った。滝の周囲の岩壁に生えた灌木は、紅葉の盛りになっていた。以前にも、秋の盛りに三条ノ滝を訪れたことがあったが、三脚を立てて動かないカメラマンに迷惑した覚えがあるが、この日は、入れ替わり状態で撮影スポットに立つことができた。
 三条ノ滝から尾瀬ヶ原への登りは、結構体力を使う。周辺の紅葉はますます鮮やかになってきた。途中で、三条ノ滝はまだかという問いかけをしてくる登山者にも出会うようになった。平滑ノ滝展望台付近の足場の悪い岩場を木の階段で乗り越すと、段吉新道が合わさり、その先で温泉小屋に出る。
 ここからは、尾瀬ヶ原の眺めを楽しみながらの歩きになった。東電尾瀬橋は、初夏に来た時は不通になっていたが、改修されて通れるようになっていた。時間が許すなら、竜宮小屋から東電小屋を経て周回してこようかという気になった。
 尾瀬ヶ原の草は、すっかり茶色に染まっていた。曇り空のもと、雨に濡れているためか、沈んだ濃い色を見せていた。湿原脇の木立ちも、美しい紅葉模様を見せていた。
 風景を楽しみながら歩いていくと、下田代十字路に到着した。鳩待峠や沼山峠方面からの宿泊客はまだ到着しておらず、静かな雰囲気が漂っていた。
 当初の考えでは、ここが折り返し地点であったが、ここまでではやはりもったいない。尾瀬ヶ原をもう少し楽しむため、竜宮十字路を目指すことにした。至仏山や燧ヶ岳は隠されているため、この日の被写体は、湿原と池塘の組み合わせになる。竜宮十字路のベンチ脇の池塘では、ヒツジグサの葉が茶色に染まっていた。
 時折雨がぱらついて傘をさすことにもなったが、風も無く、湿原見物には問題のない状態であった。ビールをもう少し我慢して、中田代三叉路まで進むことにした。池塘は、その先の方がむしろ多い。登山シーズンの盛りを過ぎたためか、木道の工事も行われていた。
 中田代三叉路まで来ると、鳩待峠方面からの登山者で賑わうようになった。ここのベンチで、お待ちかねのビールを飲むことになった。広々とした湿原の中で飲むビールは開放感に溢れており、尾瀬ならではの楽しみである。
 ひと休みの後、東電小屋に向って歩き出した。中田代三叉路からヨッピ橋までの区間は、中央コースよりも木道脇の池塘は多い。このルートも歩かないと、尾瀬ヶ原を楽しんだとはいえない。左手には、只見川が流れているが、その縁に沿う白樺は美しく黄色に染まっていた。
 ヨッピ橋を渡ると、東電小屋に向かっての歩きになる。山裾にある東電小屋の付近は、鮮やかな紅葉の色に包まれていた。一般登山者はここから引き返す者が多いためか、その先の木道は落ち葉に覆われており、周囲の鮮やかな紅葉の林の風景に溶け込んでいた。
 東電尾瀬橋は、少し前から、増水時には渡れないという警告が掲示されていたが、今回は、橋も高く作り直されていた。橋の上に立つと、尾瀬ヶ原から流れ出て、ようやく川の姿を整えた只見川が、紅葉に彩られて美しい姿を見せていた。
 その先で、行きのルートと合わさって、尾瀬ヶ原を周回したことになる。これくらい歩けば、尾瀬ヶ原を充分見たということになる。
 尾瀬ヶ原で時間を掛けたため、そろそろ下山の時間が気になるようになってきた。しかし、午後の日差しで、登山道周囲の木立ちの紅葉も輝くようになってきた。やはり、写真撮影をしながらの歩きが続いた。
 段吉新道は、夏の季節は木立に囲まれて、御池へのアプローチコースという感が強い。しかし、この日は、登山道周囲には美しい紅葉が広がっていおり、見どころのひとつになっていた。
 燧裏林道分岐からウサギ田代に戻ると、その先の次第に緑が濃くなっていき、カメラをしまって足を速めることになった。渋沢温泉小屋を過ぎると、登り坂が現れて、足も重くなってきた。
 小沢平の駐車場に戻ったのは、薄暗くなるまであと少しという時であった。尾瀬を一日遊んだことになる。
 翌日の目的地の山は、旭岳であるが、桧枝岐から会津田島を経て会津下郷への道は、通い慣れたルートである。旭岳の登山口である甲子峠への道は、車の通行は可能なようだが、かなり草がかぶっているようである、新しく開通した国道289号線を使って、甲子温泉から登ることにした。国道289号線は、快適なドライブコースに変わっており、甲子トンネルを抜けて一気に白河側に出ることができた。甲子温泉の登山口の様子が判らず、温泉旅館の前庭で車中泊もまずいと思い、トンネル出口の駐車場で夜を過ごした。
 夜中から、強風が吹くようになった。朝になってから、車を動かした。次の安心坂トンネル入り口から谷に向かって下りる道があり。これを下ると甲子温泉の前に出る。到着して驚いたことは、改築のために建物が撤去されており、休業になっていた。安心坂トンネルのところで、甲子温泉への案内が無いのでおかしいと思っていたのだが、休業のためだったようである。下山後の入浴を楽しみにしていたのだが、あてが外れた。
 温泉から少し下がったところに駐車場があったので、車を停めた。朝食をとりながら様子見をすると、谷間にもかかわらず、強風が吹き抜けていた。那須連峰の強風は良く知られている。一般登山道ならともかく、道があるのかどうかといった状態の旭岳は、難しそうである。甲子山まで登ったところで、敗退となりそうであった。日程に余裕がないのならともかく、明日に延期して、他の山を登ることにした。
 予備の山は幾つか考えてあった。そのうち、標高も低くて、風の影響の無い山ということで、柳津の黒男山を登ることにした。
 再び車を走らせ、会津下郷に戻り、会津坂下から柳津に向かった。会津宮下で只見川を渡り、美坂高原をめざす。美坂高原のすぐ手前のT字路を右に進み、その先の二又は左の道に進む。よく整備された道だが、途中に通行止めのパイプ柵がお義理のように道の半分を塞いでいる。この付近からは、黒男山の909m前衛ピークを良く眺めることができる。そのまま山裾を辿って、道が下りになるところに駐車スペースがあり、そのすぐ上に尾根が下がってきている。ここは、656m小ピークのすぐ北側にあたる。
 ここまでのアプローチについては、8月31日の三坂山登山の際に確認しておいた。黒男山へは、残雪期に美坂高原から林道を進み、その終点から909mピークへ直登するというコースが一般的にとられている。今年の五月連休に、このルートで登ろうとしたところ、園地の受付の人から、新しい林道から入るコースを教えてもらって、登ってきたという話を小耳にはさんだ。残雪期なら、尾根への取り付き部が少しは違ってくるかもしれないが、藪こぎ山行なら、ここからの歩き出ししかない。
 車道からはすぐに尾根上に出ることができる。656m小ピークへは急な登りであるが、木の枝をつかんだりして、簡単に登ることができた。僅かに下った後の登りは、細い灌木の枝がややうるさい状態になった。藪こぎモードで、先を急ぐのではなく、前に進むことだけを考える登りになった。ひと頑張りで、北に向かう尾根との合流点に出た。藪に囲まれており、下山の時には注意が必要であった。分岐の目印に赤布を付けた。最近は、GPSだけに頼って赤布は付けないのが普通だが、こういった藪ともなると、引き返しの苦労からまぬがれるために赤布が必要になる。その先で、下生えも少ないブナ林が現れて、一時の休息気分になった。登るにつれて、笹も現れて、ややうるさい状態になった。870m標高付近で尾根が広がるようになると、木の枝が横に広がって通過が難しいところがあり、左に迂回して登ることになった。尾根が痩せてきて909m点が近づくと、踏み跡が現れて、歩くのも楽になった。
 ネットなど調べると、残雪期の報告であるが、909m点から黒男山の山頂には、踏み跡があって楽に登れたようなことが書かれている。今回の藪こぎ山行も、この踏み跡を期待してのことであった。
 909m点から先は、僅かな下りになり、黒男山の山頂が木立の間から見えてきた。完全な藪こぎ状態であったなら、まだまだ遠いという眺めであったろうが、山道といっても良さそうな踏み跡に代わってきており、登頂もほぼ間違い無しという気持ちになっていた。
 それなりの傾斜の登りが続いたが、踏み跡に助けられて、順調に登り続けることができた。村界尾根との合流点には、目印のように杉が一本立っていた。この山は、かつては信仰の山として登られていたようで、この杉もその目印の一環として植えられたものかもしれない。
 山頂へは、左に緩やかになった尾根を辿ることになる。踏み跡は、再びかすかなものに変わっていた。GPSで山頂到着を知らされて、足元を見ると、三角点も見つけることができた。その先は、ブナ林になっていたが、山頂付近は薄い藪であった。木立の間からは、沼沢湖を眺めることができたが、他の展望は隠されていた。
 腰を下ろして、大休止にした。純粋な力技で登るのよりは、情報の断片をつなぎ合わせて登るこのような山行が私には向いているような気がする。
 下山は、登る時には気がつかなかったような尾根の分岐での判断が難しいところもあり、藪こぎ山行の良い勉強になった。
 今の状態でも、少し手を加えれば登山道が完成しそうであるが、今後このコースが黒男山への藪こぎルートとしてメインになれば、自然に道が出来上がりそうである。
 黒男山の下山時刻は早かったが、麓の温泉に入り、会津坂下で早めの夕食をとったため、夕方近くになって、甲子温泉への移動を開始した。芦ノ牧温泉手前で、県道から会津若松からやってきた国道118号線に入ると、渋滞に巻き込まれた。この渋滞は、新しく開通した国道289号線が分岐する会津下郷まで続いた。以前は、このような渋滞は経験したことは無かったので、国道289号線の開通によって、観光客が増えたためと思われる。特に、大内宿入口の交差点は、信号機も無いため、渋滞の原因になっていた。大内宿からは、国道に出るに出られない状態が続いていたようで、近くのコンビニのトイレは、列ができる状態になっていた。コンビニで翌日の食料を買い込むはずが、商品は店内に運び込まれているものの、混雑に追われて店員が棚に並べる作業ができないため、買い物ができるのを待つことになった。
 その夜は、甲子温泉脇の駐車場に車を停めて寝た。翌朝は、期待通りの晴天が広がっていた。
 解体作業中の大丸温泉の敷地内を抜けて、奥の谷間へと下ると、ダム施設の脇から登山道が始まっていた。温泉神社を過ぎると、急斜面の登りが始まった。ただ、登山道は、つづら折り状に付けられているので、歩くのはそうきつくはなかった。地図を見ると、この区間は、大きなジグザグが切られているが、実際には、もっと細かくカーブが切られていて、距離は短くなっている。
 今回開通した甲子トンネルは、登山道をかすめているので、新しい登山道ができているのかと予想していたのだが、果たしてというべきか、一昨晩に寝た駐車場へ通じる踏み跡が見つかった。下山の時には、この道を確かめることにして、先に進んだ。
 この最初の斜面では、紅葉はまだであったが、傾斜が緩んで尾根に乗った猿ヶ鼻に出ると、紅葉の風景が広がった。緩やかな歩きをしばらく続けると、甲子峠からの道が右手から合わさった。この先は、傾斜が再び増した。ちょっとした急斜面にはロープが取り付けられており、入山者が多いことがうかがわれた。
 最初の目標地である甲子山には、順調なペースで到着することができた。小広場になった山頂からは、ピラミッド型の山頂を突き上げた旭岳の眺めが目に飛び込んできた。名前の通りに、朝日に輝いていた。また赤崩山という別名の崩壊による崖も良く眺めることができた。良く見ると、Z状に折れ曲がりながら山頂へ通じる尾根沿いには、登山道らしき跡を見分けることできた。登らずにはいられない、闘志をかき立たせる眺めであった。
 甲子山の山頂から僅かに下ると、露岩のテラスがあり、旭岳方面の遮るもののない展望が広がっていた。絶好の展望地で、甲子山だけが目的でも、ここまで進んで展望を楽しむことを勧める。
 鞍部に向かって下っていくと、ブナ林が広がるようになり、新道と旧道の分岐に到着した。案内標識も置かれているが、旧道は廃道となっていると書かれている。テープが横に張られているが、かまわずに旧道に進む。緩やかに登っていくと、水場入口の標識が現れた。この標識にも、旭岳への登山道はありませんと書かれている。
 この先は、急な登りとなり、カメラもしまいこんで、登りに専念することになった。溝状にえぐられた泥の急斜面が現れた。ロープが何本も下げられており、助けになった。足を滑らさないように注意しながら登った。旭岳へは、滑りやすい急斜面があると事前に聞いていたので、スパイク長靴を履いてきていたのが、役に立った。
 ここを通過して、崩壊地の脇を通過するようにひと登りすると、旧道と旭岳との分岐になった。旧道のこの先は完全に藪に覆われていたが、旭岳方面へは、しっかりした道がついていた。この分岐には、灌木にペンキマークも施されており、迷う心配もない。
 旭岳方面に進むと、すぐ先で二又となる。ペンキマークで示されている方は、谷に向っていくので、尾根沿いに登っていく左の道へと進む。
 急な登りとなって、高度が一気に上がった。振り返ると、甲子山は低く目立たなくなり、その向こうの大白森山と小白森山の広がりが目立つようになっていた。見上げると、旭岳の山頂が覆いかぶさるように、頭上に見えていた。ちょっとした岩場を越して山頂かと思ったが、一旦緩やかになった先に、山頂がそびえていた。もうひと頑張りと、気合いを入れなおす必要があった。
 手掛かりの少ない草付きの急な登りが現れたが、ロープも取り付けられていた。踏み跡もしっかりしており、開設直後の登山道といった感じであった。
 那須連峰の主峰の三本槍岳が大きく見えており、旭岳から落ち込む斜面の先には、坊主沼が見えていた。脇の避難小屋は改築中とのことで、工事の音が聞こえてきていた。
 急斜面や岩場の通過もあったが、順調な登りで、旭岳岳の山頂に到着した。山頂は、灌木に囲まれた小広場になっており、端の欠けた三角点が頭を出していた。木立に隠れるように山頂標識も置かれていた。展望は、大白森山と小白森山、三本槍岳、流石山から三倉山にかけての裏那須が見えていたが、灌木越しとなっていた。登りの途中の眺めの方が良かった。
 途中に難所があるとなると、山頂で休むのにも落ち着かず、ひと休みしただけで、下山に移った。下りは、灌木の枝を掴みながら下ることができ、思ったよりも難しくはなかった。
 見事な紅葉風景が広がっているため、たびたび足を止めてザックを下ろし、カメラを取り出して撮影することを繰り返した。カメラを首から下げた状態では、不安定で危ない急斜面である。旧道との分岐を過ぎて、泥斜面をロープを使って一気に下ると、歩くのに問題の無い安全圏となる。カメラを首から下げての、撮影モードの歩きになった。
 甲子山へ登り返し、山頂手前の露岩のテラスで腰を下ろして大休止にした。先ほどまでその上にいた旭岳の山頂は、登る前とは違って親しみを帯びた感じに見えた。谷間の紅葉は、錦模様を見せていた。那須山塊は、紅葉がひと際見事なようである。  再び歩き出して甲子山に戻ると、山頂は登山者で満杯状態になっていた。そのまま通り過ぎると、再び、静かな歩きとなった。猿ヶ鼻までは紅葉を楽しみながら歩き、その先は下りの足を速めた。
 最後は、踏み跡をたどって甲子トンネル脇の駐車場に出た。観光客の車が停まって大賑わいになっていた。橋を渡り、安心坂トンネル入り口から分かれる車道に進むと、すぐに甲子温泉の駐車場に戻ることができた。トンネル入り口から歩き出すと、往復で30分以上は短縮できそうで、今後は、こちらがメインの登山口になるかもしれない。
 昨日の大渋滞を恐れて、早めに家に帰ることにした。

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