朝日岳、雪倉岳、白馬岳

朝日岳、雪倉岳、白馬岳


【日時】 2007年7月28日(土)〜7月31日(火) 前夜発3泊4日テント泊
【メンバー】 単独行
【天候】 7月28日:曇り後雨 8月1日:曇り時々雨 2日:雨後曇り 3日:晴

【山域】 後立山連峰北部
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
朝日岳・あさひだけ・2418.3m・二等三角点・新潟県、富山県
長栂山・ながつがやま・2267m・なし・新潟県、富山県
雪倉岳・ゆきくらだけ・2610.9m・三等三角点・新潟県、富山県
白馬岳・しろうまだけ・2932.2m・一等三角点本点・長野県、富山県
小蓮華山・これんげさん・2769m・なし・新潟県、富山県
【コース】 蓮華温泉より周遊
【地形図 20万/5万/2.5万】 富山/白馬岳、小滝、泊、黒部/白馬岳、越後平岩、小川温泉、黒薙温泉
【ガイド】 アルペンガイド「立山・剣・白馬岳」(山と渓谷社)、白馬岳を歩く(山と渓谷社)、花の山旅白馬岳(山と渓谷社)、山と高原地図「白馬岳」(昭文社)
【温泉】 蓮華温泉ロッヂ 800円

【時間記録】
27日(金) 20:30 新潟=(北陸自動車道、糸魚川IC、R.148、平岩 経由)
28日(土) 0:30 蓮華温泉  (車中泊)
4:37 蓮華温泉―4:50 キャンプ場―5:20 兵馬ノ平―5:57 瀬戸川鉄橋―6:57 ヒョウタン池―7:20 白高地沢橋―8:54 花園三角点―9:08 テラス〜9:26 発―10:05 青ザク―10:25 五輪ノ森―11:12 水場―12:53 吹上のコル―13:53 朝日岳〜13:58 発―14:57 朝日平  (テント泊)
29日(日) 6:00 朝日平―7:00 朝日岳―8:12 吹上のコル―8:45 長栂山下―9:14 吹上のコル―10:00 八兵衛平―10:49 吹上のコル―12:00 朝日岳―13:06 朝日平  (テント泊)
30日(月) 5:10 朝日平―6:44 朝日岳分岐―7:37 ツバメ平水場―10:17 雪倉岳〜10:25 発―11:15 雪倉岳避難小屋―12:18 鉢ノ鞍部―12:28 鉱山道分岐〜12:33 発―13:40 三国境〜13:48 発―14:50 白馬岳〜14:58 発―15:31 村営頂上宿舎テント場  (テント泊)
31日(火) 5:30 村営頂上宿舎テント場―6:00 白馬岳〜6:40 発―7:55 三国境―8:28 小蓮華岳―10:04 白馬大池〜10:44 発―11:58 天狗ノ庭―13:11 蓮華温泉=(往路を戻る)=17:30 新潟

 雪倉岳と朝日岳とは、白馬岳の北側の三国境から始まる新潟・富山県境稜線上にある山である。三国境から雪倉岳を経て朝日岳に至る稜線はお花畑が連続し、喧噪の白馬岳から離れて静かな山を楽しむことができる。朝日岳は、日本海まで続く栂海新道の起点ではあるが、一般的には、蓮華温泉を起点とする山中二泊の環状縦走で両ピークを踏むことになる。
 梅雨明けを待って、8月初めに夏山のメインの山行を行っている。今年の山行を考えていくうちに、花を楽しめる山として、朝日岳から白馬岳への周回を行うことにした。本来は、まだつながっていない栂海新道を歩かなければならないのだが、慣れた山で、ゆっくりと花を楽しみたい気分になってしまった。このコースは、これが三度目になる。
 平岩から蓮華温泉へ通じる道は細く長いが、最終集落の木地屋付近は、道路が整備されて通りやすくなっていた。対向車の接近が判るので、夜間の車の走行はむしろ気が楽である。
 新潟からでは、中・南アルプスは遠いが、北アルプスの白馬岳や後立山連峰は、さほど遠くはない。蓮華温泉にも前夜のうちに余裕を持って入ることができる。到着した蓮華温泉の駐車場は、金曜日の夜中にものかかわらず、八分ほどがうまっていた。土曜日の朝に到着する登山者が車を停めることができるのか、心配になる。
 翌朝の未明、出発の準備をする登山者の物音で目が覚めた。今日の行程はロングコースではあるが、未明から歩き出さなければならない程ではない。周囲が明るくなってから歩き出した。4日分の食料を詰め込んだザックは重く肩に食い込んだ。カメラに加え、交換レンズも重くなっているが、今回はこれが目的のために、耐えるしかない。
 薄曇りの朝になって、朝日岳方面の稜線も見えていた。天気予報はかんばしくはなかったが、あわい期待が浮かんだ。
 キャンプ場を過ぎると、登山初日にもかかわらず、本格的な下りが始まる。、最初に朝日岳をめざす反時計回りは、下山で始まるが、最後にここの登りをするよりは良いと思う。そのため、今回で三回目になるが、いつもこにお順番で歩いている。
 静かな歩き出しであったが、兵馬ノ平に近づくと、団体が前方を歩いているのに追いついた。兵馬ノ平は、今回は、シモツケソウの群落が広がっていた。初回は、コバギボウシの群落が広がっており、同じ時期でも彩る花は違っている。
 兵馬ノ平の先の下りで団体を追い抜き、再び静かな歩きを続けた。300mの標高差を下ると、瀬戸川にかかる鉄橋に出る。この先は、尾根沿いの緩やかな登りになる。左手にヒョウタン池を見ると、やがて白高地沢の徒渉点に到着する。
 現在、白高地沢の徒渉には、少し上流部の大岩の間にパイプ製の仮橋がかかっており、増水で流される心配は少なくなっている。もっとも、この仮橋まで、河原歩きになるので、増水時にはやはり通行は難しくなりそうである。河原には、赤紫のシナノナデシコが咲いており、目を楽しませてくれた。
 橋を渡ると、川岸を下流部に向かうことになる。迂回を終えたところで、川岸でひと休みした。この先は、カモシカ坂と呼ばれる樹林帯の急登が始まる。花園三角点までは標高差400mの登りになる。大汗が吹き出てくるが、坂の途中で、沢水を汲んで渇きを癒せるのがありがたい。
 傾斜が緩むと、草原に飛び出して、木道歩きに変わる。登りはまだしばらく続くが、周囲の草原に咲く花を見ながらの歩きになる。キンコウカやニッコウキスゲ、シモツケソウ、ワレモコウ等の花が咲いていた。背後には、蓮華温泉が、ほとんど同じような高さに見えている。
 花園三角点を過ぎて、ひと休みに良いところを探しながら歩いていくと、以前にはなかった木製のテラスが設けられていた。脇には、雪渓が消えかかって、ハクサンコザクラのお花畑が広がっていた。朝食を兼ねての休憩になった。テラスの反対側にも木道が枝分かれしていたので、入ってみると、斜面にパイプが差し込まれて水場になっていた。夏山では、水場の存在は貴重なものであるが、蓮華温泉から朝日岳に至るコースでは、水場には困らない。
 トラバース気味の登りを続けていくと、尾根の上に出て、ここには青ザクという標識が置かれている。シロウマアサツキの花が風に揺れていたが、急に雨が降り出した。潅木帯に入り込んで、雨具の上下を着込んだ。この後は、風も強まり、辛い歩きになった。稜線部は、黒雲で覆われて風が吹き抜けているようであった。
 吹上のコルから先の稜線歩きが心配になり、場合によっては、登山道上でのビバークもありかと思って、スペースを探しながらの歩きになった。テントを持っているので、なにがなんでも朝日岳を越して朝日小屋まで頑張らる必要があるというわけではないのはありがたい。
 五輪ノ森を過ぎ、トラバース道を進んでいくうちに、雨も小降りになった。その先の白高地では、吹きさらしになるので、天気の回復はありがたかった。先回、このあたりでオオサクラソウを見たはずと思いながら歩いていくと、果たしてこの花に再開することができた。花の写真を撮っていると、団体が追いついてきて、ザックを置いた周りで休憩してしまった。けっして、休むに適した場所とはいえないのだが。そのあげく、これはオオサクラソウなどと解説をはじめて、うっとおしいことになった。
 ザックを背負って歩き出すと、団体もすぐに出発して、後ろについた。ハクサンコザクラをはじめ、お花畑が広がっているので、花の写真を撮るために足を止めると、集団に囲まれ、再び歩き出すと、お先にどうぞと言われた。足を止めて、やりすごすことになった。
 白高地では、ハクサンコザクラやチングルマの群落が広がっていたが、雨雲が垂れ込めて、お花畑を充分楽しめる状態ではなかった。心残りのままに通過することになった。
 団体は小休止をとっていたので、再び先行することになっていた。雪渓の横断があり、ガスで見通しも利かないため、コース判断は難しくなっていた。幸い、以前の記憶もあり、GPSでコースを確認することもでき、迷うこともなく通過できた。うっかりまごつきでもしようものなら、単独行がと団体に馬鹿にされるところである。
 ゆるやかに登っていくと、吹上のコルに到着した。コルの周辺にはミヤマムラサキが少し時期を過ぎたとはいえ、一面の群落になって広がっていた。風は強く、しかも湿気を含んでいたので、カメラを取り出したものの、すぐにしまうことになった。眼鏡も雨粒で曇って、視界が閉ざされた。雨具のフードを下ろして、雨と風の対策をした。コルでぐずぐずしている間に団体が追い抜いき、ガスの中に消えていった。
 朝日岳への登りは、足をふらつかせる強風に耐えながらの登りになった。周囲にはお花畑が広がっているようであったが、この天気では歩き続けるしかなかった。
 ようやく到着した朝日岳の山頂、誰もおらず、風が吹き抜けていた。そのまま朝日平への下りに進んだ。下りにかかると、風当たりも弱くなったが、疲れも足にきていた。途中でペースダウンしたとはいっても、ほとんど休まずに歩き続けている。  水平道との分岐に出て、その先のちょっとした登りが足に堪えた。朝日平のキャンプ場は、テントも少なく、そのため、良い場所をと思って、なかなか場所が定まらなかった。大型テントが張ってあったが、これは小屋に収容しきれない登山者も泊めるためのもののようであった。
 テントを張り終えて、ようやく休むことができた。ラジオで天気予報を確認すると、翌日の天気もぱっとしないようであった。今回は、白馬岳のテン場で二泊して、清水岳あたりを散策しようかと思っていた。あさってに天気が回復しないと、展望を楽しまないまま、下山にうつってしまう可能性がある。それならば、朝日平に連泊して、初日に楽しめなかった朝日岳周辺の花を楽しんだ方が良いように思えた。白馬岳と朝日平のテン場を比べたら、朝日平の方が静かで好ましい。予定変更が可能なのも、単独行の利点である。
 その晩の小屋は、かなり混み合ったようである。翌朝は、小屋の女主人が、温泉旅館よろしく登山者を送り出していた。山小屋の経営も、サービス業になって、大変そうである。
 テントも撤収され、登山者もあらかたいなくなったところで、ゆっくりと出発した。最小限の装備のサブザックは、歩く上での負担はまったくなかった。朝日岳から朝日平の区間は、疲労も限界に達したあとのラストスパートになって、花をゆっくりと楽しみ余裕は、普通はない。
 花を見ながら歩き出すと、キヌガサソウの群落が広がっていた。トリアシシオガマの群落があり、その近くに白いシオガマがあるのが目に入った。良く見ると、花の形はトリアシシオガマであった。白花のトリアシシオガマを見るのは初めてであった。登山道脇に咲いていたのだが、大勢の登山者が通り過ぎただろうが、気が付いたのはどれほどいたのだろうか。ミヤマアズマギクやムシトリスミレが群落状態になって咲いていた。花の写真を撮りながらのゆっくりペースであったが、それでも泊まり装備の登山者を追い抜くことになった。
 朝日岳から吹上のコルの間の植生は、二つに分かれている。山頂近くの上部は、残雪跡の湿性の草原。コル付近の下部は、ザレ場。二種類のお花畑を楽しむことができる。
 山頂を下っていくと、チングルマ、ハクサンコザクラ、ハクサンイチゲのお花畑が広がっていた。花を求めての山旅が続いているため、さんざん見てきた花であるが、群落となると見飽きることはない。コバイケイソウも、盛りの花を一面に付けていた。コバイケイソウは、はずれと当たり年があるというが、ここ数年続いた不作から盛りに転じたようである。
 下っていくと、吹上のコルで休む大勢の登山者が目に入った。蓮華温泉へと急ぐ集団とは違って、のんびり花を見ながら歩いた。日帰りは困難な朝日岳で、のんびりと花を見ながらそぞろ歩きをすることが、贅沢に思える。タカネバラ、タカネシオガマ、ミヤマウスユキソウ、ミヤマムラサキなでの花を楽しむことができた。
 吹上のコルからは、照葉ノ池まで足を延ばすことにした。黒岩平まで足を延ばしたいところだが、そうなると、朝日平のテン場は早立ちして早足で歩く必要があり、今回の目的からは外れる。
 樹林帯の中を進んでいくと、電動ノコの音が聞こえてきた。湿原の縁に下り立つと、その先は、以前の木道を掘り起こしての改修工事まっさかりであった。プレハブ小屋も設けられて、何人もの作業員が作業中であった。登山道は、泥沼状態で、それは良いとしても、照葉ノ池付近に漂う静寂感は損なわれていた。登山道の整備には感謝しなければならないが、当てが外れた感もして、長栂山最高点下まで進んだところで引き返した。
 吹上のコルに戻ったところで、白高地へ進んだ。下りになるが、軽装ならば、登り返しは気にならない。  残雪はまだ豊富に残り、その消え跡はハクサンコザクラやチングルマの群落が広がっていた。雪渓から流れ出る水の流れに沿っては、リュウキンカが黄色い帯を作っていた。振り返ると、お花畑の向こうに、朝日岳は丸みを帯びた山頂を見せていた。仙境とはこういった所をいうのであろうか。
 お花畑の脇に腰を下ろして、ビールを開けた。山と花に乾杯。山の楽しみは、こういったところで飲む一杯といえる。日本百名山のピークハンターから、少しは進歩できたかな。
 花の写真を撮りながら来た道を戻った。朝日岳の山頂に戻った時には、再びガスが出てきていた。テン場に戻って、後は昼寝。それでも、この日の歩行時間は6時間を越えており、それなりに歩いたことにはなる。
 三日目は、雪倉岳と越えて白馬岳へ。この区間は、花も多いが、アップダウンも大きく、体力的に辛い区間である。
 雪倉岳へは、朝日岳越えと水平道の二つのコースがある。水平道は、時期が早いと、残雪によって通行不能の場合もある。今回は通行可能になっていたので、水平道に進んだ。歩き出す時、曇り空に白馬岳の山頂が高く遠くに浮かんでいた。
 水平道といっても、ちょっとした岩場の乗り越しもあり、沢の源頭部の横断には、大きく下って、大きく登り返す必要がある。このコースの見所は、キヌガサソウの群落である。ハクサンコザクラやミズバショウの花も見ることができる。先を急ぐ必要があるが、花のために足がとまった。
 朝日岳からのコースを合わせ、小桜ヶ原を過ぎると、赤男山の山腹のトラバース道になる。ツバメ平の水場で水を飲んで元気を取り戻し、雪倉岳への登りに備えた。雪倉岳の山頂までの標高差は、580m程であるが、その値よりも辛く感じられる登りである。前回は、休み休みの登りになったが、今回は、ペース配分もうまくいったのか、ゆっくりうペースながらも登りを続けることができた。途中で、雪渓の脇を通るが、水音が、喉の渇きを強くした。先回は、晴天のもと、登るにつれて変わりゆく朝日岳の姿を振り返りみながらの歩きになったが、今回は、ガスで展望も閉ざされて黙々と上り続ける必要があった。登山道周辺の花も、昨日朝日岳周辺で見た花と同じであったので、カメラもしまったままになった。山頂が近づいたところで、登山道脇にコマクサが見られるようになった。
 ようやく雪倉岳に到着したが、だれもいない山頂であった。山頂は、冷たい風が吹き抜けていたので、そのまま先に進んだ。少し下るとガレ場が広がっており、そこにはコマクサが沢山咲いていた。しばらく花の撮影タイムになった。その先は、草付きの下りになる。チングルマやシナノキンバイのお花畑が広がっていたが、花の終わったウルップソウが、枯れた茎を沢山立てていた。今回も花の時期を逃したかと思いながら歩いていくと、盛りの花に出会うことができた。今年は小雪の冬であったが、春から気温の低い日が続いており、花の時期が少し遅れているのが幸いしたようである。
 雪倉避難小屋を過ぎると、鉢ヶ岳下のトラバース道になる。雪渓の横断も数箇所あるが、はっきりとしたステップが付けられており、問題なく通過できた。雪渓からの雪解け水が良い水場になっており、元気をもらうことができた。チングルマやシナノキンバイ、ハクサンコザクラの見事なお花畑が広がっており、少し歩いては花の撮影のために足を止めることになった。
 鉢ノ鞍部からは、三国境に向かっての登りが始まる。いつもながら、体力の限界を感じる登りになる。標高差320mの登りは、日帰り装備なら、ひと汗かけば登り切る距離であるが、朝日平から雪倉岳を越してきた身には辛く感じられる。
 稜線を歩く登山者も見えるようになると、三国境も近い。ザレ場にはコマクサの大群落が広がっていた。谷に落ち込むザレ場は、一面、コマクサに覆われていた。コマクサの花も盛りで、痛んだ花がないのもうれしかった。
 三国境に到着してひと安心になるが、ここから白馬岳の山頂までは、最後の力を振り絞る必要がある。登山者も多くなるが、山頂まであと僅かなところで、すっかり足が止まった登山者に混じって、ノロノロ歩きを続けた。疲れたていても、登山道脇のお花畑に目を奪われた。ウルップソウにミヤマクワガタ、イワベンケイなど、ここまでとは違った花をみることができた。  白馬岳の山頂は、山頂小屋に荷物を置いて軽装で登ってきて、記念写真に興ずる登山者で賑わっていた。これが7回目の登頂になる。8回の飯豊本山に次いで多いことになるが、花が目当てのために、登る回数も多くなっている。
 時間も少し遅くなっていたので、白馬岳のテン場の混み具合が気になっていた。入口付近は、高校生の団体で、騒々しくなっていた。奥に進んで、静かな一画に陣取ることができた。受付の時に、翌朝、荷揚げのヘリが飛んでくるので、テントを片付けるようにといわれた。日程としては、予備のもう一日があったのだが、疲れも出ていたので、翌日山を下ることにした。結局、時間も遅くなっており、食堂での生ビールの時間には間に合わなかった。
 翌朝、夜明けの頃に雨がぱらついた。雨の中でのテント撤収かとうんざりしたが、雨はやんでくれた。他の登山者に比べると、ゆっくりめの出発になった。
 青空が広がりはじめ、花と同時に展望写真の期待が高まった。白馬岳の山頂に登り返し、展望を楽しむためにしばらく腰をすえた。杓子岳の向こうには、五龍岳と鹿島槍ヶ岳がつらなり、その奥には槍・穂高岳が見えていた。剣岳は、険しい岩山の姿をみせ、その右手には、毛勝三山が、標高は少し引くながら、間近に大きく見えていた。お花畑を前景にした旭岳も、魅力的であった。崖下をのぞくと、大雪渓が白い帯をえがいていた。
 風景に続いて、花の写真を撮りながら、下りを開始した。昨日歩いてきた朝日岳から雪倉岳に至る稜線もようやく姿を現していた。三国境を過ぎて緩やかに下っていくと、小蓮華岳への登りが始まる。背後には、白馬三山の眺めが広がり、歩くに連れてその姿が変わるので、振り返りながらの登りになった。
 小蓮華岳の山頂は、最近崩れて、標高が低くなったと、新聞にものっていた。到着してみると、山頂下を巻くように登山道が付け替えられており、山頂一帯は、ロープで立ち入り禁止になっていた。見たところ、切り落ちているような危険性はないようであったが、亀裂が入っているとのことであった。
 白馬三山と白馬大池の眺めを楽しみながら、下りが続いた。大池が近づくと、登る人、下る人で賑わうようになった。
 白馬大池のお花畑は、チングルマとハクサンコザクラが主役であった。同時期にヒオウギアヤメのお花畑が広がっていたこともあるが、まだ蕾であった。
 大休止の後に、蓮華温泉への下りを開始した。歩き始めは、岩がごろごろして歩きにくいが、下るにつれて歩きやすくなってくる。すれ違う登りの者は、一様に疲れた顔をしていた。時間も昼近くなって、気温も高くなっていた。
 蓮華温泉に戻り、荷物を車に放り込むと、続いて温泉へ向かった。4日間の山旅のしめくくりの温泉は、まさに極楽気分であった。
 悪天候によって、予定は大きく変わったが、花を楽しむことのできた山行であった。このコースはお気に入りで、体力が続く限り、また歩きたいと思っている。

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