荒雄岳、秋田駒ヶ岳、月山

荒雄岳
秋田駒ヶ岳
月山


【日時】 2007年6月21日(金)〜6月24日(日) 前夜発3泊3日
【メンバー】 単独行
【天候】 22日:曇り 23日:曇り後雨 24日:晴

【山域】 虎毛山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
荒雄岳・あらおだけ・984.2m・二等三角点・宮城県
【コース】 登り:八ツ森コース 下り:片山コース
【地形図 20万/5万/2.5万】 新庄/鳴子/鬼首
【ガイド】 新・分県登山ガイド「宮城県の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「栗駒・早池峰」(昭文社)
【温泉】 すぱ鬼首の湯 550円

【山域】 秋田駒ヶ岳
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
秋田駒ヶ岳・あきたこまがたけ
 男岳・おだけ・1623m・なし・秋田県
 男女岳・おなめだけ・1637.4m・一等三角点補点・秋田県
 横岳・よこだけ・1582.7m・三等三角点・秋田県、岩手県
【コース】 国見温泉より
【地形図 20万/5万/2.5万】 秋田/雫石/国見温泉、秋田駒ヶ岳
【ガイド】 アルペンガイド「八甲田・白神・早池峰」(山と渓谷社)、新・分県登山ガイド「岩手県の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「岩手山・八幡平・秋田駒」(昭文社)
【温泉】 国見温泉石塚旅館 500円

【山域】 出羽山地
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
 月山・がっさん・1984m・なし(1979.5m・一等三角点補点)・山形県
【コース】 月山八合目コース
【地形図 20万/5万/2.5万】 仙台/月山/月山
【ガイド】 アルペンガイド「鳥海・飯豊・朝日」(山と渓谷社)、分県登山ガイド「山形県の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「朝日、出羽三山」(昭文社)
【温泉】 休暇村羽黒 420円(沸かし湯)

【時間記録】
6月20日(木) 21:30 新潟=(R.7 経由)=23:30 道の駅あつみ  (車中泊)
6月21日(金) 6:00 道の駅あつみ=(R.7、鶴岡、藤島、R.345、R.47、鳴子、R.108 経由)=11:02 八ツ森コース登山口―11:14 林道終点―11:58 656mピーク―12:22 稜線上分岐―12:29 荒雄岳〜12:36 発―13:12 林道終点―13:15 片山コース登山口―13:45 八ツ森コース登山口=(R.108、鳴子、R.47、池月、R.457、栗駒、R.4、一関、東北自動車道、盛岡IC、R.46 経由)=19:30 国見温泉
6月22日(土) 5:48 国見温泉―6:40 横長根分岐―7:18 大焼砂分岐―8:03 五百羅漢分岐―8:38 稜線上分岐―8:52 男岳―9:04 稜線上分岐―9:12 阿弥陀池分岐―9:28 男女岳―9:40 阿弥陀池分岐―10:02 横岳〜10:16 発―10:39 大焼砂分岐―11:15 横長根分岐―11:50 国見温泉=(R.46、角館、R.105、大曲、R.13、横手、湯沢、新庄、R.47、清河、休暇村羽黒、月山公園線 経由)=19:20 月山八合目  (車中泊)
6月23日(日) 5:06 月山八合目―6:37 仏生池小屋―7:30 月山〜9:00 発―10:36 仏生池小屋―12:08 月山八合目=(月山公園線、休暇村羽黒、鶴岡、R.7 経由)=17:20 新潟

 荒雄岳は、鳴子温泉の西に位置し、鬼首環状盆地の中心火口丘である。外輪山の禿岳や須金岳、大柴山に比べて、訪れる登山者は少ないようである。

 秋田駒ヶ岳は、男女岳(女目岳)、男岳、女岳の総称で、十和田八幡平国立公園の南端に位置する。山麓にはひなびた温泉郷を有し、花の名山として有名である。最近では、スキー場を始めとするリゾート開発が進んでおり、車で八合目まで登ることができるが、国見温泉から登れば、花を眺めながらの変化に富んだ歩きになる。この山の名前も、全国の駒ヶ岳と同様に、雪形に由来している。

 月山は、羽黒山、湯殿山と合わせて、出羽三山と呼ばれ、古くからの信仰の山である。なだらかな山頂を持ち、日本海近くの豪雪地にあることから、夏遅くまで残雪を抱き、高山植物が豊富なことから人気の高い山になっている。

 入梅の頼りが聞こえる頃、東北の山では花の盛りを迎える。昨年も休暇をとって、3日間の日程で東北の山に出かけて、焼石岳、早池峰山、栗駒岳を訪れ、花を堪能した。今年も同様に楽しもうと、金曜日に休暇をとって三連休とした。しかしながら、木曜の夜には激しい雨となり、金曜日の雨があがるのは昼頃ということになった。出発の直前に計画の変更が必要になった。
 結局、昼近くからでも登れる荒雄岳を金曜日に入れて、あとは花の名山としても名高い秋田駒ヶ岳、月山と続けることにした。秋田駒ヶ岳は、八合目からの登山でピークハントは済ましているものの、花を楽しんだとはいえない。国見温泉から歩き出せば、歩行時間もそこそこで、充実した歩きを楽しめそうで、また登山口の温泉も楽しみである。月山はこれまで5回登り、毎回花を楽しんでいるが、月山を代表する花のクロユリを見ていないのが心残りであった。7月1日の開山祭の時期を中心として咲くというので、この週末なら花を見られるはずであった。また、ヒナウスユキソウも期待できそうである。
 今年は、花の写真撮影に熱中しているが、これもタムロンの90mmマクロレンズのおかげである。標準ズームや50mmマクロレンズよりは、撮影は難しいかわりに、撮影に没頭できるレンズである。
 仕事が終わった時間が遅く、また夕方から雨が激しくなったため、木曜日の野宿地点は、ようやく山形県に入ったところの、あつみ温泉手前の道の駅までになった。ここから宮城県の鬼首までは、まだかなりの時間がかかるが、雨が上がるのは昼近くなので、これで充分ということになる。
 夜中は豪雨。朝になっても雨は降り続いていた。鶴岡かた新庄を通り過ぎる頃には、雨も止んできた。鳴子からすぱ鬼首ロッジに向かうと、その入口から荒雄岳の登山口に通じる林道が始まっている。しばらくは未舗装の道路であるが、道の状態は良い。舗装道路に変わると、直に荒雄岳の登山口に到着した。ガイドブックでは、林道に乗り入れて車を止めるようなことが書いてあったが、草がかぶり気味の林道であった。車の通行もなさそうなので、少し進んだところの路肩に車を止めた。
 八ツ森コースは、荒れた植林のための作業道で始まる。無理して車を乗り入れても、100m程先の作業道が右に曲がるところまでである。山に向かって緩やかに登っていくと、作業道の終点になって、ここには荒雄岳登山道の案内板が置かれている。杉林の中を緩やかに登っていくと、やがてつづら折りの道に変わる。登るに連れて、ブナ林が広がるようになった。登山道脇にギンリョウソウの花がひそりと咲いていた。雨上がりとあって、気温が高くは高くなかったが、湿度が高く、じっとりと汗が吹き出てきた。
 標高差200mほどのつづら折りの道を登り終えると、855mピークに出た。木立の間から、目指す荒雄岳の山頂も望むことができた。緩やかに下った鞍部からは、再び急な登りが始まったが、この登りは、標高差100mほどなので、それほどのことはない。稜線が近づいたところで、一段下をトラバースするようになった。
 稜線に上がったところは三叉路になっており、ツクシ森からの道が合わさった。右に曲がってひと登りすると荒雄岳の山頂に到着した。山頂は、二つの高まりに分かれて、左の三角点周囲が小広場になっていた。木立が切り開かれており、栗駒山の眺めが広がっているようであったが、ガスに隠されていた。
 ひと休みの後に、片山コースに進んだ。一気の下りになった。以前のガイドでは荒れているので入らないようにと書かれていたが、良く整備されていた。つづら折りの道が続いた。後でGPSの軌跡を見ると、地形図の破線とはかなりずれていた。地形図の破線は尾根通しに続いているのに対し、登山道は尾根から外れて、長いトラバースをおこなったりしている。造林のための作業道が使われているためのようである。
 最後には登山標識の置かれた広場に出た。その先僅かで、車道に飛び出し、あとは車道歩きを頑張ることになった。幸い30分の歩きで車に戻ることができた。時間もそうかからない山なので、周回するべきであろう。
 林道を下れば、すぱ鬼首で温泉に入れることはありがたい。さっぱりして、今回のメインの秋田駒ヶ岳へ向かった。一番近い高速のインターは、若柳金成であるが、盛岡へは100kmを少し超過している。次の一関なら100km圏内に収まる。夕方のETC割引を利かせるため、一般道で一関まで走り、そこから高速にのった。ETC割引のおかげで、山行計画も変わってきている。
 盛岡からR.46を田沢湖方面に向かい、県境近くで、国見温泉への県道に進む。未舗装の道を考えていたのだが、立派な車道が整備されていた。山奥へとわけいっていくと、ようやく国見温泉に到着した。登山者用ということで、大きな駐車場とトイレが設けられていた。一旦戻ったところの路肩広場に車を止めて寝た。翌朝駐車場に入って車を止め、背後の湿地帯を見ると、水溜りに泡が時折浮いてきていた。駐車場のすぐ上は温泉の源泉地で、駐車場もこれに接している。東京の汲み上げ温泉でのメタンガスの爆発や、泥湯温泉の駐車場脇の雪原での死亡事故などを考えると、この駐車場では、野宿はしたくない方が無難と考える。
 時間は早かったが、皆が歩き出していくのをみて、つられて歩き出した。駐車場のすぐ上が老舗の塚田旅館で、その奥の森山荘の手前から登山道が始まっている。いきなり階段登りがはじまり、ひと汗流すと、木道の敷かれた道に変わった。ブナ林の中の緩やかな登りが続いた。
 周囲の木立が潅木帯に変わると、横長根と呼ばれる尾根の上に出た。前の晩の夜中は星空になっていたのだが、朝になってガスが垂れ込めるようになり、展望は閉ざされていた。この横長根も緩やかな登りが続いた。時折木立が切り開かれて展望地が設けられていたが、なにも見えなかった。
 尾根が痩せて、周囲の展望が広がり、目の前に秋田駒ヶ岳の各ピークが並んでいるのだろうなと想像するようになると、砂礫地の中の歩きになって、大焼砂を経由して横岳に至る登山道と、男岳を目指す登山道との分岐に出た。砂礫地にはタカネスミレの群落が広がっていた。コマクサも所々で咲いていたが、ロープ近くにはなかった。
 まずは男岳を目指して、左のトラバース道に進んだ。僅かに登り返して小岳、女岳、横岳に挟まれた谷間に入ると、残雪が現れて、その縁にチングルマとヒナザクラの群落が広がっていた。ガスは切れそうになく、展望の点ではがっかりしていたが、このお花畑を見て訪れた甲斐があったとうれしくなった。しばらくは、花の撮影で足を止めることになった。
 谷間は残雪が多く残されており、先の木道を見つけてコースを確かめながら歩くことが続いた。ガスの中から小さな池の水面が現れたり、チングルマの大群落に行き当たったりして、見所の多い谷間であった。
 女岳の北に出たところで、雪原の中に標識が立っているのに出合った。左は五百羅漢経由の道であったが、右に曲がって稜線上を目指すことにした。雪解けも最近のようであったが、一面のお花畑になっており、シラネアオイが数多く咲いていた。ミヤマキンバイやミヤマダイコンソウの花も目だった。
 稜線の上に出ると、十字路になっており、直進は阿弥陀池への道であり、まずは左に曲がって男岳を目指した。男岳の山頂には鳥居と祠が置かれ、片隅には健康登山と書かれたりする記念の札がまとめて立てられていた。
 引き返して分岐から阿弥陀池に向かった。僅かな下りで池の畔に出た。ガスのために池の対岸も見えなかった。増水しているのか、木道の一方は、水の上を通過していた。
 池の東端から男女岳への登りに取り掛かった。登山道は石畳状態になっており、周囲は土砂流出防止のための柵が幾重にも設けられていた。秋田駒ヶ岳はこれが二回目であるが、先回も雨の中の登山となって、一番記憶に残っているのは、この防止柵である。八合目からはあっさりと登れてしまったこともあり、あまり良い印象を持ってはいなかった。
 男女岳の山頂は、広場になって三角点が置かれている他は、ガスで展望が閉ざされている状態では見るべきものもない。すぐに引き返すことになった。
 阿弥陀池の脇にある避難小屋の脇から横岳に進んだ。潅木に囲まれた登山道を進むと、ひと登りで横岳に到着した。これで後は下るだけになるので、まずは大休止にすることにした。風が強くなったので、ベンチも置かれていたが、薮の脇に腰を下ろして休んだ。
 休んでいるうちに、ガスががるどころではなく、雨粒を含んだ風が吹き寄せるようになった。下山を急ぐことにしたが、大焼砂と呼ばれる砂礫地帯に入ると、足がよろけるほどの強風になった。眼鏡が水滴で曇り、前が見えなくなった。砂礫地のために明瞭な登山道はついていなかったが、立ち入り禁止のロープが両側に張られており、迷う心配はないのはありがたかった。よろけながら下っていくと、団体が、雨具を着込むのに苦労していた。
 分岐を通り過ぎて潅木帯まで下ると、風の影響もなくなった。登ってくる登山者にも多くすれ違ったが、あの強風の中を登るだけの覚悟があるのか、足取りや装備の点で不安の残る人もいた。登山道は良く整備されているので、下りは楽であった。
 国見温泉に戻り、楽しみの温泉に向かった。奥の森山荘の入口には、日帰り入浴500円という看板も出されていたが、創業200年という看板の立てられた日本秘湯を守る会の石塚旅館に入ることにした。最初に薬師の湯という内風呂に入ったが、なぜか誰もおらず貸切状態であった。お湯はきれいなエメラルドグリーン色をしていた。バスクリーンのような入浴剤を入れたようにも見えるが、掛け流しの天然温泉であるのが不思議である。続いて露天風呂に向かった。サンダルを履いて裏庭に出ると、露天風呂が設けられていた。ここもエメラルドグリーンの湯がパイプから流れ落ちていた。混浴露天風呂とうたってはあったが、女湯にも小さな露天風呂があるようで、入っているのはおじさんばかりであった。東北の山の魅力は、麓のいで湯も大きい存在になっている。
 三日目は、新潟に戻るのに都合の良い花の名山ということで月山に向かうことにした。高速道を使って来た道を戻ることも考えられたが、少しでも節約するため、一般道を走ることにした。角館、大曲、横手、湯沢、新庄と内陸部を走る道は、何度も通っているコースであはあるが、運転していていささか長く感じられる。
 月山公園線に入ったのがすでに暗くなっていた。濃霧となって、車の運転にも神経を使うようになった。遅い時間にもかかわらず、数台の車とすれ違った。月山八合目からのコースは花も変化に富んで良いのだが、この月山公園線の車の走行が一番の難関になる。普通車なら、徐行すれば車のすれ違いはできるのだが、大型観光バスが入り込み、そうなるとすれ違えずに、こちらが退避所までバックするはめになる。夏場は、大型観光バスの乗り入れは禁止してシャトルバスを運行してもらった方が良い。
 後で知ったのだが、月山公園線が開通したのは、6月21日であったという。開通は当然と思って事前に調べていなかったのだが、開通してから始めての週末ということになる。そのおかげで車も、登山者も少なく、静かな山を楽しむことができた。
 カーブ連続の長いドラブに疲れて、ようやく八合目の駐車場に到着した。広い駐車場には、片隅に4台ほどの車が停められているだけであった。ガスの流れるなか、翌日の登山に不安を覚えながら寝た。夜中に目を覚ますと、星が輝き、鶴岡の街明かりが眼下に広がっていた。
 朝は、歩きだす準備をしているざわめきで目を覚ました。時間はまだ早かった。駐車場は、車でほぼ満杯状態になっていた。登山者は僅かで、山菜取りがほとんどであった。ヘルメット姿の重装備が多かった。ヒメタケノコ採りなのだろうが、どういったところまで入り込むのだろうか。
 朝焼けに鳥海山が染まっていた。朝食を取り終えたところで、歩き出すことにした。歩き始めの弥陀ヶ原は、木道が敷かれている。ハクサンチドリやコバイケイソウなどの花が早くも現れたが、登りは風景写真、花は下山時に撮影することにした。木道から離れて登りにかかると、早くも残雪の登りになった。幸い、雪もそう堅くはなく、傾斜もそうきつくはないので、滑落の心配はない。振り返ると、池塘を点在させる弥陀ヶ原の向こうに、鳥海山が空に浮かぶ風景が広がっていた。
 雪渓は、トラバース気味に登る所が多く、コースの指示のためのロープが張ってあるが、ガスがかかっていると、歩くのに危険が伴うようになる。
 ミヤマキンバイやコイワカガミの花は多かったが、ヒナウスユキソウとミヤマシオガマのお花畑が現れ、おもわず見とれてしまった。昨年の7月8日にもこのコースを歩いているのだが、中二週間で花の種類は大きく違っていた。
 中間目標の佛生池小屋に到着してみると、小屋はまだ締まっていた。小屋の周囲はお花畑になっていた。特にミヤマキンバイが登山道まで花を広げていた。
 行者返しと呼ばれる急坂が現れるが、距離は短い。その上で幅広の稜線上に出ると、月山の山頂も目の前に迫ってきている。木道が敷かれており、その周囲にはヒナウスユキソウの群落が見られる。
 山頂が近づいてくると、草付きにヒナザクラの白い花が目立ってきた。日が昇って花が開いてきたようである。
 まずは一等三角点にお参りしてから、山頂神社に向かった。月山の登拝祭は7月1日とのことである。山頂の神社の社務所は締まっていた。いつもは登山者や信者で大賑わいの山頂も、10名ほどが見られるだけであった。
 今回の目的は、月山のシンボルとなっているミヤマクロユリを見ることであった。登拝祭の7月1日を中心に咲くというので、昨年の7月8日の時にも咲いていたのかもしれないが見落としていた。ミヤマクリユリは、中部高山帯、飯豊山地、月山、北海道と飛び飛びに分布している。山頂の草原にあるというので、山頂を越して進んだのだが、まず目に飛び込んできたのはハクサンイチゲの大群落であった。先週の飯豊大石山で、ハクサンイチゲの大群落を見たが、ここはそれ以上といっても良いかもしれない。盛りの花であった。
 立ち入り禁止のロープが張られている草原を覗き込みながら歩いた。蕾を見つけて、まだ早かったかと思ったが、目が慣れてくると、花を見つることができるようになった。写真で見るように、花がまとまった状態ではなかったが、他の登山者に気兼ねなく登山道にしゃがみこんで写真を撮っていられるのは良かった。
 今回の月山は、花の名山というブランド名に相応しいことを改めて認識した。今回見た花の中から、代表的な花を挙げるとすれば、ミヤマクロユリ、ハクサンイチゲ、ヒナザクラ、ヒナウスユキソウであろうか。「花の百名山」で、田中澄江はどのような花を選んでいたのか興味を持って、読み返した。
 面白いことにウズラバハクサンチドリであった。本には、次のように書かれている。「溶岩流の波が幾重にも重なっておしよせたような、急坂の岩石地帯を幾つか越えてゆるやかな草地に入ると、栗駒山で見たヒナザクラの集落がつづき、ハクサンチドリの葉に、暗紫色の斑点のあるのが目だって来た。はじめて見る種類である。写生して、鳥海山に同行してくれた植物通の畠山善弥さんに聞くと、ウズラバハクサンチドリであった。
 ハクサンチドリはずい分方々で見たけれど、この斑点のあるのははじめて見た。」
 下山は予定通りに、花の写真を撮りながら歩き、コースタイムを大幅に超過することになった。ウズラバハクサンチドは、佛生池小屋付近でけっこう咲いていた。
 ピークハントは、一回登ればそれで終わるが、花を求めての山歩きは終わりが無い。昨年と二週違いで登った今回の登山で、余計にその思いは強くなった。月山を再度訪れるのもそう遠くはないであろう。

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