斑尾山、袴岳、沼の原湿原、毛無山、火打山、京ヶ岳

斑尾山、袴岳、沼の原湿原、毛無山
火打山
京ヶ岳


【日時】 2005年9月23日(金)〜25日(日) 前夜発2泊3日 各日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 23日:曇り 24日:曇り 25日:雨

【山域】 関田山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
斑尾山・まだらおやま・1381.3m・一等三角点補点・長野県
【コース】 万坂峠より往復
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/中野、飯山/飯山、替佐
【ガイド】 斑尾高原Trail Map

【山域】 関田山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
袴岳・はかまだけ・1135.3m・三等三角点・新潟県、長野県
【コース】 万坂峠より袴湿原、赤池周遊
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/飯山/飯山
【ガイド】 斑尾高原Trail Map

【山域】 関田山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
沼の原湿原・ぬまのはらしつげん・830m・なし・長野県
【コース】 沼の原湿原駐車場より
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/飯山/飯山
【ガイド】 斑尾高原Trail Map

【山域】 関田山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
毛無山(大平峰)・けなしやま(おおひらみね)・1022.4m・三等三角点・新潟県、長野県
【コース】 希望湖より
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/飯山/飯山
【ガイド】 斑尾高原Trail Map
【温泉】 まだらおの湯 500円

【山域】 妙高連峰
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
火打山・ひうちやま・2461.8m・三等三角点・新潟県
【コース】 笹ヶ峰より
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/妙高山/妙高山、湯川内
【ガイド】 アルペンガイド「妙高・浅間・志賀」(山と渓谷社)、分県登山ガイド「新潟県の山」(山と渓谷社)、新・新潟花の山旅(新潟日報事業社)、山と高原地図「妙高・戸隠」(昭文社)
【温泉】 杉野沢温泉苗名の湯 450円 貸しタオル付き

【山域】 中頸城
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
京ヶ岳・きょうがたけ・529m・なし・新潟県
【コース】 坊ヶ池より
【地形図 20万/5万/2.5万】 高田/高田東部/新井、柳島
【ガイド】 なし

【時間記録】
9月22日 21:30 新潟=(北陸自動車道、上信越自動車道、妙高高原IC、タングラムスキーサーカス 経由)
9月23日 =0:30 万坂峠  (車中泊)
6:17 万坂峠―6:50 ぐん平街道分岐―7:38 斑尾山〜7:45 発―8:18 ぐん平街道分岐―8:41 万坂峠〜8:51 発―9:05 袴湿原―9:15 袴岳登山口―9:57 袴岳〜10:11 発―10:31 柏ヶ峠分岐―10:53 林道―11:29 赤池〜11:36 発―11:58 袴岳登山口―12:08 袴湿原―12:15 万坂峠=12:31 沼の原湿原入口〜12:54 発=13:05希望湖登山口―13:35 毛無山〜13:40 発―14:00 希望湖登山口=(斑尾高原、荒瀬原、野尻湖、R.18、杉野沢 経由)=17:30 笹ヶ峰  (車中泊)
9月24日 6:17 笹ヶ峰登山口―6:31 遊歩道入口―6:59 黒沢―7:30 十二曲り上―8:12 富士見平―8:55 高谷池〜9:07 発―9:26 天狗の庭―10:02 ライチョウ平―10:37 火打山〜11:03 発―11:26 ライチョウ平―12:00 天狗の庭―12:16 高谷池分岐―12;38 茶臼山―13:02 黒沢ヒュッテ―13:48 富士見平〜13:53 発―14:24十二曲り上―14:46 黒沢―15:10 遊歩道入口―15:23 笹ヶ峰登山口=(R.18、板倉 経由)=19:30 玄藤寺池 (車中泊)
9月25日 5:30玄藤寺池=5:40 京ヶ岳城跡登山口〜6:10 発―6:17 京ヶ岳城跡―6:24 京ヶ岳城跡登山口=(三和村、柿崎IC、北陸自動車道 経由)=9:10 新潟

 斑尾山は、妙高山、戸隠山、飯縄山、黒姫山とともに、北信五岳の一つに数えられる山である。これらの内では最も標高は低いものの、野尻湖から見る斑尾山は、独立峰としての美しい姿を見せている。現在、斑尾高原一帯には、多くのトレッキングコースが整備され、信越トレイルの一部となっている。
 袴岳は、北信五岳の一つに挙げられる斑尾山の北側に万坂峠をはさんで向かい合う山である。千曲川左岸の新潟・長野の県境に沿って広がる関田山塊の西のはずれの山である。信越トレイルの一部として、万坂峠から赤池に至る登山道が整備されている。ドーム状の山頂は、妙高方面から良く目に付くが、登山者の話題になることは少ない。

 沼の原湿原は、斑尾高原の袴岳の東に位置する湿原である。季節毎に様々な花が咲き、遊歩道が整備されている。

 毛無山は、袴岳の北東に隣り合う、新潟・長野の県境に位置する関田山塊の山である。希望湖から登山道が整備されており、信越トレイルの一部となっている。

 火打山は、妙高連峰の最高峰であり、まろやかな円錐状の頂上を持つ女性的な山である。かつては死火山と考えられていたが、複式火山の妙高山と、活火山で現在登山禁止中の焼山の中間にあって、この山だけは火山ではないことが明らかになっている。火打山は、高山植物も豊富であり、高谷池ヒュッテや黒沢池ヒュッテといった小屋も整備され、笹ヶ峰から比較的容易に登ることができることから、人気の高い山になっている。

 京ヶ岳は、坊ヶ池湖畔公園脇の山で、山城跡になっている。

 9月の三連休第二段であるが、天気予報はぱっとしない。かろうじて、二日目が曇り時々晴で、後は雨の可能性もありそうであった。今年は残暑が続き、紅葉を楽しむには、高い山を目指す必要があった。草紅葉なら盛りになっているはずなので、火打山をメインに、上越方面に出かけることにした。
初日は雨の中でも歩けそうな、斑尾高原トレッキングコースを歩くことにした。このトレッキングコースに含まれる袴岳や毛無山には、2004年3月18日に雪を利用して登っているが、この時は登山道ができているとは知らなかった。登山道がある山なら、それを利用して登らなければ、登ったことにはならない。
 インターネットで斑尾高原のトレッキングコースを調べると、いくつものコースが設けられていることが判ったものの、はっきりした地図がのっておらず、コースは判然としなかった。有料のガイドマップがあるようだが、すぐには手に入らない。現地に行ってみればなんとかなるだろうと、出かけた。
 斑尾高原へは早朝発でも到着できる距離にあるが、前夜発とした。斑尾山、袴岳、毛無山の三山を回るには時間がかかりそうであったことと、高速道ETCの深夜割引をきかせるためである。ETCのおかげで、山行きの計画にも新たな要素が入ってきている。
 妙高高原ICを下りてからタングラムスキー場をめざした。以前にも走っているので、かっては判っている。タングラムスキー場のホテルや駐車場には、リゾート地らしく夜中でも明かりがともっていたが、その先の万坂峠まで進むと、暗闇につつまれていた。峠の空き地に車を停めて寝た。
 万坂峠の斑尾山方面には、信越トレイルの標識が置かれている。これから歩くコースは、万坂・山頂コースと呼ばれるが、斑尾高原Trail Mapを持っていないと、斑尾山を中心として何本も開かれている登山道は把握しきれない。スキー場の管理道のような草の生えた林道が山に向かって始まっており、入口には鎖が掛けられていた。歩き始めてすぐにタングラムスキー場方面からのスキーコースが上がってきて、後はスキー初心者用の迂回コースの歩きになる。
 予期していなかった晴天の朝となった。足元のホテルの彼方には、黒姫山と妙高山を眺めることができた。このような天気ならば、火打山をまず目指すべきかと思ったが、よく見れば、火打山は雲に覆われていた。結局、この晴れ間は、斑尾山を往復する間ももたずに、下山時には雲が出て妙高山の山頂は隠されていた。
 尾根に乗ると、左手から斑尾高原スキー場のコースが合わさってきた。県境尾根は、両スキー場の共通コースになっており、下山時には、うっかり斑尾高原スキー場方面へ下りてしまわないように注意が必要である。
 短く刈り込まれた草に覆われたゲレンデは、山歩きとはちょっと違った気分ではあるが、歩いていても気持ちが良かった。ただ、見た目にごまかされているためか、傾斜がきついようで、汗が噴き出てきた。
 左からぐん平街道コースを合わせると、急坂になった。幸い、ゲレンデ内にジグザグに踏み跡が付けられていた。リフト終点を過ぎると、傾斜も緩やかになり、ブナ林に囲まれた尾根歩きになった。展望が開け、斑尾山の山頂が目に入ってきて、右手には黒姫山や妙高山、野尻湖の眺めが広がった。
 登り着いた1350mピークまでは、新潟・長野の県境線が通過しているが、この先は逸れて、斑尾山の山頂は長野県に入っている。この付近の県境線の引き方は不思議である。山を下った斑尾高原のホテル街は、道路を挟んで新潟県と長野県に分かれている。
 最後に緩やかな登りを終えると、斑尾山の山頂に到着した。木立に囲まれた静かな山頂である。一等三角点が置かれているが、標石の隅が欠けているのは残念である。山頂を越したすぐ先の広場の片隅に、伝説の十三体薬師様の祠がある。本来、薬師様は十二体と決まっているそうなのでが、この中には十三体が収められており、取り出して戻そうとすると並べきれず、一つを外に出してほおっておくと、いつの間に、中に収まっているという。
 早朝でもあり、誰もいない静かな山頂を後に、来た道を戻った。
 万坂峠に戻り、車の中で軽く腹ごしらえをして、袴岳を目指した。道路の反対側に、信越とレックの標柱があり袴湿原へと書かれている。案内図もあるが、信越とレックの全体図を示したもので、肝心の、この付近の詳細が判らない。トレッキングの一日分、この付近ならば斑尾山から袴岳を経て赤池になるはずだが、を掲示してもらいたいものである。下山後にビジターセンターの山の家でマップを購入するまで、コースを把握しきれなかった。
 から松林の広がる県境尾根を登っていくと、傾斜が緩み、県境線から北に逸れると袴湿原に到着した。小さな湿原であるが、木道が井桁状の巡らされて、湿原を散策できるようになっていた。羊歯が色づいて、秋の訪れを感じさせてくれた。
 小ピークに挟まれた窪地を緩やかに下っていくと、袴岳の登山標識がようやく現れた。水平に続いていく道は赤池に通じる袴湿原トレイルで、帰りはこの道を戻ってくる予定である。
袴岳へは、南西に向かう尾根を進み、再び県境尾根に乗ることになる。1040mピークを過ぎると一旦下りになり、その先で、1090mピークへの登りになる。この付近からブナ林が広がるようになり、森林浴といった気分になれる。特に、1090mピークを越して袴岳本体への登りにかかる付近のブナ林は素晴らしい。
 袴岳は、ドーム状の山頂を持つので、傾斜が緩んでからも少し進んだところで、山頂到着となる。山頂付近は、広く刈り払われて、展望地になっていたが、ガスがかかって展望は閉ざされていた。スノーシュー歩きで登った先回は、妙高山の眺めを楽しんだので、今回は三角点を見ることができたということで満足しよう。
 袴岳の山頂からは、北に向かう道に進んだ。下っていくにつれて尾根も細くなってきた。980m地点で、登山道は尾根から右手に外れて、折り返すように続いていた。直進方向にも草がかぶった踏み跡があり、これは柏ヶ峠へ続く道のようであった。一旦、柏ヶ峠に出てから地図にある破線道を行くと思っていただけに意外であった。袴岳の山頂下をトラバースしていく道が続いた。GPSで記録を取っているので、後からどこを歩いたか確認できるが、そうでなかったら、まず地図には落とせないであろう道である。
 地図には記載されていない未舗装の林道に飛び出し、右手の赤池方面に進んだ。展望台を過ぎた所で、赤池への標識があったので、林道を離れて、遊歩道に進んだが、これは遊森トレイルと呼ばれる遊歩道で、かえって遠回りになってしまった。実際には、林道をそのまま進めばよかった。
 赤池には、大きな休憩小屋が設けられており、広い駐車場には、ハイクならぬ俳句の会の一行が乗った観光バスも入ってきていた。ここまで人とあうのもまれな登山道を巡ってきただけに、大勢の人間に会うのは意外であった。赤池の湖面にはガスが流れ、幻想的な風景が広がっていた。
 赤池からは、そのまま車道歩きで万坂峠に戻ることもできるのだが、もうひと頑張りして、袴湿原への道を辿ることにした。赤池からは、標高差100m程の登りが必要になる。赤池から袴湿原へは、普通の靴の観光客には歩けない道である。もう一汗を流すと、袴岳への登山口に到着し、後は袴湿原を経て万坂峠に戻った。
 今回は、万坂峠から歩き出したが、赤池から歩き出した方が、万坂峠から袴湿原の間の往復が無くなるだけ短くなるし、駐車場も完備しているので良いかもしれない。
 続いて万坂峠から毛無山に向かう途中、沼の原湿原によっていくことにした。峠から斑尾高原に向かって下り初めてすぐの分岐で、上樽方面への道に進む。赤池の脇を通り過ぎ、上樽へのつづら折りの下り道が始まる手前で、右手に車道が分かれる。前回は、ここから雪に覆われた車道歩きで毛無山を目指したのだが、今回は車で走れて楽ができる。谷に向かって下っていくと、沼の原湿原入口の駐車場に到着する。カメラとGPSだけを持って湿原に向かった。谷奥に向かって広がる湿原で、両脇や中央に遊歩道が張り巡らされている。湿原の中央を一周したが、シラヒゲソウやハナニガナも見ることができ、シーズンオフとはいえ、花の多い湿原の一端に触れることができた。機会があったなら、花の盛りにこの湿原に寄ってみたいものである。
 ここから希望湖トレイルが始まっているが、一旦丘に登るため、引き返しも考えるとおっくうである。車を希望湖へと走らせた。希望湖は、「のぞみこ」と呼び、地図には沼池と書かれているので、ややこしい。山中の池としては、いかにも観光用の名前で軽い簡易がする。希望湖は、ルアー釣りで有名らしく、湖畔の道路には県外からの車が並んでいた。この中には、登山者はいないようであった。釣り客にとっての希望湖ほどは、ここから登る毛無山は登山者に知られていない。
 池の北端にボート乗り場へと続く道があり、車両進入禁止の鎖を越えるとすぐに山に向かう道が始まっている。先回は、地形だけを見てコースを決めたため、南西尾根を辿り、希望湖までは来なかった。登り始めると、次第に西に方向を変えて、やがて県境線沿いの登りが続くようになった。この山は、中段では杉林が広がり、その点では袴岳の方が魅力的である。
 傾斜が緩んでから台地を進むと、毛無山の山頂に到着した。山頂標識の前には三角点が頭を出していた。この山頂広場は、木立に囲まれて展望はないが、踏み跡を辿って東斜面の縁に出ると、眼下に大平の集落を見下ろすことができた。飯山の市街地の向こうに高社山を望むことができたが、志賀の山は雲に覆われていた。
 これでこの日の山は終わりであったが、下山後に、マップを手に入れるために、ビジターセンターの山の家を訪れる必要があった。本当は、登山開始前にマップを手に入れたかったのだが、後回しになった。山の家がどこにあるのか判らなかったが、希望湖から斑尾高原のメインストリートに進むと、その角にあってすぐに判った。斑尾高原Trail Map 200円、信越Trail Map 500円の二つのマップを手に入れた。
 まだらおの湯で汗を流し、食事もとった後、野尻湖経由で笹ヶ峰に向かった。
 夜は、笹ヶ峰近くの静かな空き地で夜を過ごした。有名山の登山口は、夜遅く到着する車もいて、落ち着かない。朝になってから車を移動させると、登山口前の駐車場はほぼ満員で、大駐車場にもかなりの車が並んでいた。さすがは日本百名山だけのことはある。
 ガスがかかっていたため、出発していく登山者を見送ってから、のんびりとした出発になった。登山口のゲートをくぐってからは、木道歩きが続く。グループが前を歩いており、追い抜いても引き離すのが難しい速度であった。後ろから、鈴をうるさく鳴らした単独行が追いついてきた。間に挟まれたので、脇にどいて足を止め、少し後からついていくことにした。人のペースで歩くのは煩わしい。木道は、まっすぐに山に向かっているので、傾斜が緩いように見えるのだが、足にかかる負担からすると、結構急坂のようである。
 登山道周辺には美しいブナ林が広がっているのだが、紅葉にはまだ早いし、薄暗いため、風景を楽しむことはできなかった。黒沢にかかる橋に到着すると、前を行ったグループをはじめ数グループが休んでいた。この先は、登山者もまばらになり、自分のペースで歩き続けることができるようになった。
 十二曲りは、名前からするとかなりの難所のように思ってしまうが、つづら折りの登りを続けていくうちに、意外に楽に尾根上に到着する。むしろこの先の尾根の方が、長い登りが続いて苦労するかも知れない。傾斜が緩み、オオシラビソの林を行くと、やがて富士見平の分岐に到着する。右に行けば、黒沢ヒュッテであるが、この道から帰ってくることになる。
 登りの途中、時々青空が見え隠れしていたが、黒沢岳の眺めが広がった。カメラを取り出して、数枚撮るうちにも、再びガスがかかってしまった。黒沢岳のトラバースからは、火打山や北アルプスの眺めが広がるのだが、眺めは閉ざされていた。
 高谷池ヒュッテに到着すると、登山者は出発した後で、静けさに包まれていた。高谷池にもガスがかかり、池の中程までしか見えなかった。小屋の前のベンチに腰を下ろし、軽く腹ごしらえをした。池の北側に回り込むと、緩やかな登りになり、尾根の乗り越し部には草原が広がる。ここでは、黄色に色づいたイワイチョウや、名残のオオヤマリンドウの花を眺めることができた。
 その先で、火打山へのコース上での一番の景勝地である、天狗の庭となる。ここからの火打山の眺めは素晴らしいのだが、あいにくとガスに閉ざされていた。登山を始めた1991年の9月24日に、くしくも同じ日であるが、台風一過の晴天に恵まれて、ここからの眺めを堪能したことを思い出した。ビギナーズラックというべきか、この時に運を使い果たしてしまったのか、その後、この山で晴天には恵まれていない。それでも、ガスの流れる中に浮かぶ小さな池の眺めは美しかった。湿原の草は黄色に染まり始めていた。足を止めては、カメラを構える歩きになった。
 天狗の庭を過ぎてひと登りすると尾根の上に出て、火打山の山頂に向かっての最後の登りが始まる。まだ標高差300mの登りが残されているので、気を引き締める必要がある。登山道周辺の灌木の紅葉を楽しみながらの歩きになった。振り返ると、ガスの間から、天狗の庭の眺めが広がっていた。
 途中のガレ場は、木道が敷かれて、以前よりも整備されていた。登山者による踏み荒らしを防止するためという目的は判るが、過剰な整備は、山の野性味を薄らげてしまうような感じがする。
 到着した火打山の山頂は、ガスに覆われて、展望は閉ざされていた。薄日がさして、ガスが消える可能性もあったので、ビール片手に腰を下ろした。山頂には数人が休んでいるのみで、前夜からの泊り客はすでに下山し、笹ヶ峰からの登山者は、これから到着といったところであった。焼山や天狗の庭の眺めが開けたものの一瞬で、結局諦めて山を下ることになった。
 下山の途中では、幾組みもの登山者とすれ違ったが、一様に草臥れた表情を見せていた。火打山の標高は2461.8mあるので、登山口の笹ヶ峰の標高が1300mで高いといっても、楽には登らせてくれない。
 ガスのかかる天狗の庭の眺めを再度楽しんだ後に、高谷池ヒュッテ手前の分岐から黒沢ヒュッテへの道に進んだ。濃いガスに包まれ、足にも疲れが出て来たため、長く感じられるた。登山道の刈り払いが最近行われたようで、道は幅広になっていたが、刈り払われた笹の葉で足下が隠されており、歩き難くなっていた。
 茶臼山を緩やかに下っていくと、ガスの中から黒沢ヒュッテが現れた。小屋の前のベンチには、大勢の登山者が休んでいた。黒沢ヒュッテの脇には、新しい建物が建設中であった。高谷池ヒュッテも、昔からある三角屋根の建物の後ろに、新しい建物が並んでおり、宿泊客の収容能力は多くなっているようである。
 茶臼山と妙高山の外輪山に間に広がる黒沢湿原は、かなり面積があるが、ガスのために奥が見えなくなっていた。先程から暗くなっていたが、ついに雨が降り出して、傘を取り出すことになった。湿原の南端から黒沢岳の山腹をトラバース気味に登っていくと、富士見平の分岐に到着し、後は来た道を下ることになる。この区間では、登山者にも多くすれ違った。登山口まであと僅かの遊歩道分岐付近まで下りた3時に、初老の登山者とすれ違ったのには驚かされた。現在の日没は、5時頃であるが、それまでに高谷池ヒュッテまで登れるのだろうか。登山道も雨は止んだとはいえ、濡れて歩き難くなっている。
 車に戻って着替えをしているうちに、本降りの雨が始まった。三日目の山を考える必要があったが、まずは杉の沢の温泉を目指すことにした。
 山を下っても、雨は本降りであった。翌日に高い山は無理ということで、低山歩きをしながら、家に近づいていくことにした。新井の道の駅にある牛丼屋に寄った後、板倉の京ヶ岳を目指した。途中、ガスが濃くなって、車を走らせるのが難しくなった。途中の玄藤寺池に駐車場があったため、そこに車を停めて夜を過ごした。
 朝になって車を動かして京ヶ岳の登山口の坊ヶ池に到着してみると、一帯は、天体観測施設の「星のふるさと館」や宿泊施設、テニスコートなどが設けられた、リクリエーションエリアになっていた。池の東岸から、京ヶ岳への遊歩道が始まっていた。
京ヶ岳の山頂へは、短いく刈り込まれた草に覆われた遊歩道が続いていた。土塁や横掘、縦掘の後が良く残されている山城の跡であった。この山城の城主などは判らないというが、この一帯には、多くの山城が分布しているのが面白い。
 山頂へはひと登りで到着した。京ヶ岳は529mの標高を持つが、坊ヶ池自体の標高が高く、50m程の標高差を登るだけである。山頂は、杉林に囲まれ、あずまやも置かれていた。坊ヶ池の展望が開けているのだろうが、ガスがかかって湖面も見えなかった。
 雨も本降りのため、これ以上の山歩きの気持ちも失せて、高速の通勤割り引きが効く朝の内に、家に戻ることにした。

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