御前ヶ遊窟、井戸小屋山

御前ヶ遊窟、井戸小屋山


【日時】 2004年9月26日(日) 日帰り
【メンバー】 佐藤一正、岡本明
【天候】 曇り一時雨

【山域】 御神楽岳周辺
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
御前ヶ遊窟・ごぜんがゆうくつ・846m・なし・新潟県
井戸小屋山・いどこややま・902m・なし・新潟県
【コース】 登り:シジミ沢コース 下り:井戸小屋山から林道へ
【地形図 20万/5万/2.5万】 新潟/野沢/安座
【ガイド】 関越道の山88(白山書房)、井戸小屋山はなし
【温泉】 七福温泉 500円

【時間記録】 5:30 新潟発=(磐越自動車道、津川IC、上川、七名 経由)=6:35 御前ヶ遊窟登山口〜6:47 発―7:17 ソーケイ尾根分岐―8:17 シジミ沢〜8:28 発―9:56 御前ヶ遊窟〜10:10 発―10:29 尾根上分岐―10:33 御前ヶ遊窟の頭―10:38 尾根上分岐―11:02 井戸小屋山〜11:53 発―14:09 林道―14:26 ゲート―14:55 御前ヶ遊窟登山口=(往路を戻る)=17:00 新潟

 御前ヶ遊窟は、会越国境近くの井戸小屋山の東の岩峰直下にある洞窟である。上川村によって登山道が整備されているとはいっても、スラブ登りが続くため、滑落すれば死は免れない。シジミ沢のスラブ登りで山頂に至り、下山はソウケイ尾根をとるのが普通であるが、ソウケイ尾根とても鎖場が連続して気が抜けない。井戸小屋山は、御前ヶ遊窟を訪れた際に登頂することが一般的であるが、御前ヶ遊窟へのスラブ登りとソーケエ尾根の下りで、時間的にも体力的にも精一杯ということになってしまい、この山頂まではなかなか届かない。井戸小屋山へは、かつては、滝首から滝首沢を登り、尾根伝いに井戸小屋山へ登る道があったようであり、現在では、棒目貫から滝首をむすぶ車道の峠部から分かれる植林林道の終点近くから、鍬沢左岸尾根を辿って短時間で登ることができる。かすかな踏み跡を辿ることができれば、井戸小屋山から短時間で岩場の危険性無しに下山することができる。
 なお、御前ヶ遊窟は、余五将軍(平維茂)の夫人が隠れ住み、井戸小屋山には、ここの清水を婦人が使ったという伝説が残され、山名の由来になっている。
 10月下旬に、所属する渓彩ランタン会の会山行で御前ヶ遊窟が計画された。リーダーの佐藤さんが偵察に行くことになり、昨年登ったばかりの私もお手伝いにつきあうことになった。これには、今年の春に、タツミ沢左岸尾根から井戸小屋山へ登っており、御前ヶ遊窟からの安全な下山ルートとして、このルートを使ってはと提案したこともある。
 当初予定していた23日は朝方の雨によって中止にし、26日に延期した。今年は秋雨前線がなかなか消えてくれず、土曜日は朝のうち雨、土曜日は曇り空ながら、津川方面では一時雨が降るような天気予報であった。
 先回の御前ヶ遊窟の時も、朝方雨が降って、雨上がりの岩場が滑って苦労した覚えがある。スラブ登りでは沢靴を使い、補助ロープも持っていくことにした。
 棒目木を過ぎて、滝頭湿原に続く車道を進むと、大きくカーブするところに御前ヶ遊窟登山口の標識がたっている。車道脇のスペースに車を停めた。ここから始まる林道の奥まで車を進めることはできるものの、井戸小屋山からの下山は、この車道を下ってくるので、車を未舗装の林道に乗り入れる必要はない。
 林道終点の広場には、二台の車が停められていた。登山届けのノートを見ると、今日の日付けの記入は無かったので、キノコ採りか釣り人の車のようであった。
 登山道は、ここのところの雨で、ぬかるんだ状態になっていた。滑りやすい山道を下っていくと、鍬ノ沢の徒渉点に出る。ナメになっており、前回は簡単に渡れたのだが、水の深さは、どこを見ても靴の高さを越していた。二歩程の幅であったので、えいっと渡ってしまったが、靴の中に水が入ってしまった。スパッツをつけていればまだしも、無謀な試みであった。いずれにせよ、シジミ沢に到着したら沢靴に履き替えるつもりだったので、靴を濡らしたことは気にはならなかった。その後で、枝沢を越える時、足を滑らせて水中に足を漬けてしまい、登山靴は歩くたびに中に入った水でガボガボいう状態になってしまった。
 地元の取り付けた御前ヶ遊窟案内図では、途中から沢を行くように書かれているが、実際にはシジミ沢まで右岸通しの道が続く。ソウケイ尾根との分岐を過ぎてからも、足場の悪いへつりや、高巻きのアップダウンも多く、気を抜けない歩きが続いた。
 山道の途中では、御前ヶ遊窟上部の岩峰が姿を現すが、ガスによって隠されていた。どこを歩いているか現在地は判らなくなったが、最後には、山道は自然に沢に下り立ち、そこがシジミ沢出合いであった。上流部に高さ4m程の滝があって行き止まりになるので、間違う心配はない。対岸にの岩に矢印が書き込んであり、シジミ沢の入口を示している。
 沢靴を履き、スワミベルトを付けて、スラブ登りの準備をした。シジミ沢の徒渉も二歩ほどの幅であったが、膝下の水に漬かる必要があった。思ったよりも前日の雨の影響が残っていた。
 シジミ沢の登り始めは、大きな岩の乗り越しが続く。岩に彫り込まれた浅い窪みを足場とし、ロープの助けを借りてへつりながら登ることになる。潅木が頭上にかぶさり、岩には苔が生えて、陰気な沢である。
 ひと登りすると谷が開けて、一直線に高みに向かうスラブの末端に出る。ここからスラブ登りの開始になる。雨の後ということで、スラブにはちょろちょろ水が流れていた。足下が滑りそうで恐かった。固定ロープに頼ろうすると、スラブの脇を登る必要が出てきて、岩の表面に苔が付いているため、余計に気を使う必要があった。
 スラブを少し辿った後に、右手の薮の中に続く踏み跡に逃げた。この薮道も、ロープが固定されていうものの、木の枝に頼りながらの急な登りが続くため、気が抜けなかった。中盤で一旦スラブに下りて、長い岩場の登りを行う必要があった。振り返ると、足元にスラブが落ち込んでおり、高度感は充分であった。ガスがかかって、岩峰の眺めも霞んでいるのは残念であった。
 ペンキマークに注意して、岩場を行くか薮に逃げるか、慎重に見極める必要があった。固定ロープの末端が、先行者の利用によって上に引き上げられていて、見つけづらくなっていることもあった。岩場の登りに緊張してか、喉が乾いた。テラスに出てひと休みしたところで、スラブを流れ落ちる水を汲んで、ひと息ついた。
 頭上に聳える岩峰が間近に迫るようになると、薮の中の登りが続くようになった。岩峰の基部に出ると、トラバース気味の登りになる。ソウケイ尾根との分岐を過ぎると、その先で二つ並んだ洞窟が現れる。奥の洞窟が御前ヶ遊窟で、内部に石積みや石仏が置かれている。洞窟の中は薄暗く、霧が流れていた。
 ひと休みの後、御前ヶ遊窟最高点へと進んだ。御前ヶ遊窟から踏み跡を辿ると、スラブの縁に出る。ひと登りした後、スラブのトラバースを行う必要があるが、足を滑らせれば、下まで一気に滑落ということになる。安全のためにロープで確保してから横断した。
 スラブの向こう側は薮尾根で、踏み跡もしっかりしており、井戸小屋山経由で下山するというなら、危険地帯は終わりということになる。すぐにT字路に出て、右は御前ヶ遊窟最高点、左は井戸小屋山ということになる。ザックを置いて御前ヶ遊窟最高点を往復してくることにした。尾根を辿ると岩峰の基部に出て、最後は木の枝を掴みながら登ると、岩峰の上に立つことができる。周囲は切り落ちているので、不用意に移動することは危険である。残念ながら展望は完全に閉ざされていた。
 T字路に戻り、井戸小屋山をめざした。御前ヶ遊窟と井戸小屋山の間は、私もだが、川内山塊や会越国境付近の山に精通している佐藤さんも、歩いていないという。尾根沿いにはっきりした道が続いていた。細尾根になる所もあったが、潅木の薮のせいで、危険という感じはなかった。井戸小屋山への登りにかかる所で岩場の登りが現れたが、足場がしっかりしていたので、ここまでの登りに比べれば問題はなかった。
 薮尾根を登っていくと、井戸小屋山の山頂に到着した。この山頂は、狭い切り開きになって、頭の丸い主三角点が置かれている。木立に囲まれて残念ながら展望はないが、御前ヶ遊窟から回ってくれば、良い休憩場所になるであろう。
 5月8日に、偵察と思って歩いているうちに到着してしまった山頂である。この時に、御前ヶ遊窟からの下山路として良いコースだなと思ったのだが、予想以上に早い再訪になった。次の訪問は、会越国境の鍋倉山を目指す時になろうか。岩場も終わって、安心してビールを飲むことができた。
 タツミ沢左岸尾根への下りは、はじめ踏み跡がしっかりしているが、鞍部付近で不明瞭になる。晴れていれば前方の844mピークの高まりを目指せばよいのだが、雨が降り出して視界が閉ざされてしまい、GPS頼りの歩きになった。
 尾根の踏み跡は、鞍部の先で再びはっきりしてくる。鉈を振るって、会山行本番のために、薮を払いながら歩いた。そのため、今回の下りの時間は、普通に歩いた時よりも多くなった。高度を下げると笹が現れるようになり、踏み跡が判りづらくなった。
 最後には、尾根から分かれて、杉の植林地に下りる必要があるのだが、この屈曲点付近はブナ林の広尾根で判り難い。今回も思っていたポイントを行き過ぎてから、GPSで進む方向を確認することになり、植林地をトラバースして尾根を乗り換えた。結果的には、この方が、傾斜が緩くて良かったようである。佐藤さんの話では、積雪期に登った時には、尾根の合流部は傾斜がきついため、トラバースして尾根を乗り換えたということであった。
 後は、杉の植林地の境界部に続く踏み跡を辿って下降を続けた。前回は、雪解け直後ということで、踏み跡もはっきりしていたのだが、今回は夏草が茂って判りにくくなっていた。
 井戸小屋山の下りの途中で気がついたのだが、鉈を振いながら歩いた者がいたようで、新しく切られた枝が所々で落ちていた。井戸小屋を目指した登山者なのであろうか。
 林道に下り立って、後は車道歩きになった。峠部の林道入口には鎖が掛けられて、車は進入できなくなっていた。峠部から御前ヶ遊窟までは、さらに30分の車道歩きになったが、車が複数あれば、この歩きは省略できる。今回は、車一台のために歩くしかなかたが、下り一方の道のため、そうきつくはなかった。
 御前ヶ遊窟からの下山は、ソーケエ尾根を下るのが一般的である。険しい尾根に登山道を切り開いた功績という面からも、ソーケエ尾根を無視することはできないが、鎖場が続くきついコースである。今回の井戸小屋山経由での下山は、新しいコース設定であるが、安全に下山するという点から、利用価値が高いと思われる。少なくとも、山頂で宴会をしたいというグループは、私の所属している山の会もだが、このコースを採用する必要がある。

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