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五ノ宮岳
袴腰岳、丸屋形岳
天狗岳、二ツ森
小岳


【日時】 2003年9月20日(土)〜23日(火) 前夜発3泊4日各日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 20日〜23日:晴

【山域】 八幡平周辺
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
五ノ宮岳・ごのみやだけ・1115.0m・二等三角点・秋田県
【コース】 鹿角市役所八幡平支所登山口
【地形図 20万/5万/2.5万】 弘前/田山/ 湯瀬
【ガイド】 分県登山ガイド「秋田県の山」(山と渓谷社)、秋田の山登り50(無明舎出版)、東北百名山(山と渓谷社)
【温泉】 湯瀬温泉・湯瀬ふれあいセンター(200円)

【山域】 津軽半島
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
袴腰岳・はかまごこしだけ・706・なし・青森県
丸屋形岳・まるやがただけ・718.0m・一等三角点補点・青森県
【コース】 東沢林道より
【地形図 20万/5万/2.5万】 青森/蟹田、竜飛崎/ 大川平、袰月
【ガイド】 新編東北百名山(山と渓谷社)
【温泉】 黄金崎不老不死温泉 600円

【山域】 白神山地
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
天狗岳・てんぐだけ・957.6・二等三角点・青森県
【コース】 天狗峠より
【地形図 20万/5万/2.5万】 弘前/河原平/ 白神岳
【ガイド】 分県登山ガイド「青森県の山」(山と渓谷社)、白神山地の山々(白山書房)、新編東北百名山(山と渓谷社)

【山域】 白神山地
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
二ツ森・ふたつもり・1086.2・三等三角点・青森県、秋田県
【コース】 青秋林道より
【地形図 20万/5万/2.5万】 弘前/中浜/ 二ツ森
【ガイド】 分県登山ガイド「秋田県の山」(山と渓谷社)、秋田の山登り50(無明舎出版)、白神山地の山々(白山書房)
【温泉】八森いさりび温泉・ハタハタ館 400円

【山域】 白神山地
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
小岳・こだけ・1042.3・三等三角点・秋田県
【コース】 素波里湖からの林道より
【地形図 20万/5万/2.5万】 弘前/中浜/ 冷水岳、羽後焼山
【ガイド】 分県登山ガイド「秋田県の山」(山と渓谷社)、秋田の山登り50(無明舎出版)、白神山地の山々(白山書房)、新編東北百名山(山と渓谷社)

【時間記録】
9月19日(金) 19:40 新潟発=(R.7、新発田、R.290、R.113、赤湯、R.13、山形蔵王IC、山形自動車道、東北自動車道 経由)
9月20日(土) =0:30 長者原SA  (車中泊)
5:30 長者原SA発=(東北自動車道、鹿角八幡平IC 経由)=8:10 一合目〜8:21 発―8:40 二合目―9:00 四合目―9:14 五合目(薬師神社)―10:34 五ノ宮岳〜10:56 発―11:42 五合目(薬師神社)―11:49 四合目―12:03 二合目―12:18 一合目=(鹿角八幡平IC、東北自動車道、青森IC、R.280、蟹田、今別 経由)=16:00 安兵衛沢の橋の上  (車中泊)
9月21日(日) 5:26 安兵衛川の橋の坂上―5:46 通行止め地点―6:06 峠―6:57 平舘・今別コース分岐―7:05 袴腰岳〜7:18 発―7:28 平舘・今別コース分岐―7:49 平舘側登山口―7:55 丸屋形岳登山口―8:15 山頂まで500m標識(尾根上)―8:39 丸屋形岳〜8:44 発―8:58 山頂まで500m標識(尾根上)―9:15 丸屋形岳登山口―9:23 峠―9:43 通行止め地点―10:01 安兵衛川の橋の坂上=(今別、五所川原、R.101、陸奥岩崎、白神ライン 経由)=17:10 天狗峠  (車中泊)
9月22日(月) 6:18 天狗峠発―6:48 電力監視歩道分岐―7:04 崩壊地―7:21 緩衝地帯境界(山頂まで2.5km)―8:06 山頂下鞍部―8:34 天狗岳〜9:02 発―9:18 山頂下鞍部―10:03 緩衝地帯境界(山頂まで2.5km)―10:19 崩壊地―10:43 電力監視歩道分岐―11:08 天狗峠=(白神ライン、陸奥岩崎、R.101、八森、青秋林道 経由)=13:31 二ツ森登山口―14:03 二ツ森〜14:18 発―14:42 二ツ森登山口=(青秋林道、八森、R.101、沢目、富根、R.7、二ツ井、藤里、素波里湖 経由)=19:15 小岳登山口  (車中泊)
9月23日(火) 5:51 小岳登山口発―6:16 水場―6:31 登山標識(山頂0.8km、登山口1.6km)―6:46 樹林限界―6:57 小岳〜7:05 発―7:16 樹林限界―7:26 登山標識(山頂0.8km、登山口1.6km)―7:36 水場―7:54 小岳登山口=(素波里湖、藤里、二ツ井、R.7、能代、能代南IC、秋田自動車道、岩城IC、R.7 経由)=16:30 新潟

 五ノ宮岳は、鹿角市の東に位置する1000m級の山で、山頂には五ノ宮権現神社、中腹には薬師神社が置かれた信仰の山である。
 袴腰岳と丸屋形山は、津軽半島の北端近くの山で、二つの山は平舘と今別を結ぶ林道の通過している峠を挟んで向かい合っている。袴腰岳からは、周囲の展望が開け、北海道もすぐそこに眺めることができる。また、丸屋形山は、津軽半島の最高峰で、一等三角点が置かれている。
 天狗岳は、白神山地のコア部に接している山で、白神山地随一の展望を楽しむことのできる山である。白神ラインの通る天狗峠から稜線伝いに登ることができる。
 二ツ森は、自然保護のために工事が中断した青秋林道の終点から僅かな距離にある山である。手早く登れて、白神山地を眺めることができる山として、バスツアーの格好の目的地になっている。
 小岳は、白神山地の糟毛川源流部の山であるが、植林のために林道が奥地まで延びたことによって一般登山の範囲に入った山である。林道入口の素波里湖から20kmの未舗装林道を走破すれば、山頂までの登りは大した距離ではない。

 先週に引き続き、東北百名山巡りに出かけることにした。月曜日を休んで四連休としたので、週末の二日間では歩くことが難しい下北半島の袴腰岳と、白神山地の天狗岳と小岳を第一の目標とした。一日目には、新潟から下北半島の登山口までは到達できないため、五ノ宮岳を最初の山として加えた。ただ気がかりなのは、この週末も台風が発生しており、場合によっては、東北地方北部にも影響が出る恐れがあることであった。
 いつものように、山形道から東北自動車道に入ったところで、眠りに就いた。三連休の前の週よりは、行楽客は少なかった。朝になってひと走りし、鹿角八幡平ICで高速を下りた。鹿角市役所八幡平支所を目標に車を走らせていくと、登山口の目印の大きな鳥居が現れた。鳥居をくぐると、山に向かって上がっていく舗装道路が始まった。ひと登りして高速道をの下をくぐると、林道にゲートがあり、工事中につき通行止めとあった。ガイドブックによれば、三合目まで車で入れるとあったが、ここから歩き出すしかなかった。見ると一合目という標識が置かれていた。
 林道を歩いて登っていくと、林道の工事現場に到着した。この先は、歩行者も通行禁止ということで、林道の分岐部分から山道に進むように指示されていた。ここには二合目という標識が置かれていた。
 山道に進むと、杉林の広がる山の斜面のつづら折りの登りが始まった。急斜面が続くため、汗がしたたり落ちるようになった。かなり歩いて、もう三合目に到着しても良い頃だと思ったが、さらに登りが続いた。ようやく切り通し状になった林道跡に飛び出したが、見ると四合目とあった。結局、三合目の林道終点より上に出てしまったようである。二合分を一合分と思いこんでいたため、余計に気疲れをしてしまったようである。
 その後は、少し傾斜も緩くなって、五合目の薬師堂に到着した。このすぐ手前には、薬師お神泉(お飼清水)があったが、水は涸れていた。薬師堂の脇の広場からは、八幡平や鹿角盆地の眺めが広がっていた。八幡平の所々で上がっている白い煙は、温泉か地熱発電のものであろうか。
 六合目追分けを過ぎると、七合目は、尾根の張り出し部といった感じで、空の岱(平)と書かれていた。五ノ宮岳まではまだ距離があるようであったが、ここからはブナ林に囲まれた稜線歩きになった。
 左の谷越しには皮投岳を眺めることができた。五ノ宮岳から峰続きの皮投岳へは、最近刈り払いが行われているようであるが、間にかなりの高低差があるため、縦走はともかく往復は難しそうであった。
 八合目のさかさ杉を過ぎたが、九合目がなかなか現れないまま、山頂は目の前に迫ってきた。山頂手前の鞍部に九合目ご神池とあり、左下を見ると小さな池があった。このポイントに九合目を持ってきたため、八合目との間が大きくなった感じであった。そこからひと登りすると、五ノ宮岳の山頂に到着した。鳥居が二つ並んだ奥にお堂があり、その脇の一段高くなった所に三角点が置かれていた。台風の影響で、関東地方から西は雨模様のようであったが、北に向かったおかげで青空が広がっていた。八幡平や鹿角盆地の眺めも、高度感が増していて楽しむことができた。展望盤が置かれており、見ると岩木山や白神岳の名前も書かれていたが、雲がかかって遠望は利かなかった。このピークは、8月の夏休み山行の時に、焼山と合わせて一日で登ってしまおうかと思っていたのだが、疲れも出てきていたのと、台風接近で午後からは天気の崩れが予想されたために、諦めたものである。心残りの山が片づいた気がした。
 この日は、下北半島の突端近くまで移動する必要があるため、そうそうゆっくりしているわけにもいかず、下山に移った。下山の途中、二人連れとすれ違ったが、駐車場に戻ってみると、同じ新潟ナンバーの車が置かれていた。新潟には同じような物好きがいるようである。新潟から五ノ宮岳を登りにくるのは、同じく東北百名山巡りでもしているのであろうか。日本百名山巡りのついでの山としては、八幡平なら直行すべき時間であるし、岩手山なら姫神山あたりが登山口が近い。岩木山なら、一日目に登山口まで入れない時間調整の山として手頃かもしれない。
 下山口近くには、湯瀬温泉があり、そこの公衆浴場の湯瀬ふれあいセンターで安い値段で汗を流すことができた。この日の仕事としては、津軽半島の突端近くまで移動するという仕事が残されていた。途中で天気予報を聞くと、台風は、日本の南岸にそれて、影響は無くなったようであった。青森で高速を下りて、酒や食料を買い込み、津軽半島の北上を続けた。
 袴腰岳の登山口へは悪路の林道を長い距離走る必要があるようであった。東側の平舘と西側の今別のどちらからアプローチするか迷った。平舘の方が道順では近いのだが、一番新しいガイドブックの新版東北百名山では、今別からのアクセスが説明されていたので、これに従うことにした。
 今別の道の駅に到着してみると、並んで津軽二股と津軽今別という名前の異なる駅が並んでいた。それぞれ津軽線と津軽海峡線の駅なのだが、駅舎は一つで駅の名前が違っている理由が判らない。
 駅の裏手に回り込むと、袴腰岳への東沢林道の入口があった。林道は、7km先で土砂崩れがあり、通行止めと書かれていた。登山口の手前か先か判らないのが問題であったが、距離を考えれば、登山口近くまでは入ることはできそうであった。
 一車線幅の悪路が始まった。途中の林道分岐には、袴腰岳を示す標識が置かれていた。時速10km程度のノロノロ運転が続いた。和徳川を渡り、安兵衛川の左岸沿いの道になると、山の斜面から落ちてきた土砂崩れ跡の岩屑の上を通過するような所も多くなってきた。タイヤのパンクが心配になってきてが、落石を考えると、安全に駐車できる場所が無かった。安兵衛川を渡った先で坂を登ると、林道の分岐にでて、駐車スペースもあったので、車はここまでにした。この前まで乗っていた12年経過の車なら、行けるところまで頑張れたのだが、新車となると無理ができない。ガイドブックには、今別駅よりタクシー45分とあるが、タクシーはこの悪路の林道に入ってくれるのだろうか。現在位置も判り、地図を見ると峠までは、1時間ほどの歩きのようであった。
 翌日も晴天を約束するかのように、夕焼けで空が真っ赤に染まった。暗くなると、翌朝までは悪路を下山することはできなくなり、閉じこめられたような感じに襲われた。その前にビールを飲んで酔っており、車の運転はできなくなっていたのだが。
 翌朝歩き出してみると、その先の林道は、比較的路面が安定していた。といっても、悪路の林道を心配しながら車を走らせるよりは、潔く歩き出してしまった方が気持ちが良い。地図に書かれている林道は、少し先で終わっているが、さらに山奥に向かって続いていた。安兵衛川に沿って登って行くと、20分の歩きで、通行止め地点に到着した。林道の半分ほどが、下をえぐられて落ちていた。その先からは大きくカーブしながら高度を上げていく道になった。ここの区間は、新しく作られた林道のようであったが、舗装部の継ぎ目が、50センチ程開いて、車の通過ができなくなっていた。通行止め地点からは、峠まで20分の距離であった。
 峠に到着してみると、袴腰岳という標識が置かれ、笹原の中に登山道が始まっていた。この道に入ると、登山道を笹が被るようになった。足元に道型は確かめられるので、そのうちブナ林の中に入れば道もはっきりするだろうと期待して先に進んだ。800m、500mという標識も現れて、登山道をはずしていないことは判ったが、ガイドブックにある初心者クラスとはいえないコースであった。この道を引き返す時には、GPSを持っていないとなると、赤布を短い間隔で付ける必要がありそうであった。
 山頂も大分近づいてきた所で、笹原にぶつかった。足元の道型も完全に無くなってしまった。あるいは見失ってしまったのかもしれないが。身の丈を越す笹原であったが、頭を出してうかがうと、笹原の表面に僅かな窪みが続いているのが、登山道の名残のようであった。思いもよらないヤブコギが始まった。ひと登りすると、ガレ場に出てひと息つくことができた。振り返ると、丸屋形山が、ドーム状の山頂を目の前に持ち上げていた。後で丸屋形山に登ると、この笹原やガレ場をはっきり眺めることが出来た。ここからは、トラバース気味に右手の尾根に向かうコースになった。
 尾根に上がると、はっきりした登山道に飛び出した。振り返ると、登ってきたコースは、完全な笹藪で、道があるようには見えなかった。ここには、平舘、今別と矢印で示された標識が置かれていた。平舘村スキー場からの縦走コースもここで合わさっているはずであったが、それらしいものは見あたらず、一本道の登山道になっていた。ガイドブックに書かれているように、ここから林道の峠へ下りるのは、笹の急斜面をトラバースする必要もあり、始めての登山者には、まず無理であろう。
 登山道は有り難く、足を運んでいると、すぐに山頂に飛び出した。袴腰岳は、南北の二峰に分かれ、登り着いた南峰にも袴腰岳山頂と書かれた木の標識が置かれていたが、先の北峰に進んだ。痩せ尾根を進んでいくと、北峰に到着した。北峰の先にも道が開かれており、進んでみると展望台に出た。
 青い海が袴腰岳の周囲を取り巻いていた。山頂からは、津軽海峡越しの北海道、平舘海峡越しの下北半島突端の山並みがすぐそこに見えた。北海道を眺めていると、はるばると来たなという想いがした。
 下りは、良く手入れされた登山道を下ることにした。足早に下っていくとブナ林の中に入った。途中で分岐があり、この道を登ってきた時は、左の道に進むことになる。一方の道は、平舘村スキー場からの縦走路に出る道なのだろうか。問題の無い登山道で、平舘側の登山口に下り立つことができた。この登山道には、袴腰岳登山道と書かれた大きな標識が立てられていた。今では、この登山道を往復するのが一般的なようである。
 林道を峠に向かって戻った。袴腰岳登山口から峠までの区間を歩いた感じでは、未舗装というだけで、車の走行には全く問題の無い道であった。林道のカーブ地点に丸屋形岳登山道の標識があり、再度の登山の開始になった。ブナ林の広がる台地の中を進んでいくと、尾根の上に出て、ここには、山頂まで500mという標識が置かれていた。急な登りを続け、250m標識を過ぎてひと頑張りすると丸屋形山の山頂に到着した。
 山頂は、小広場になり、中央に一等三角点が置かれていた。木立が切り開かれており、登ってきたばかりの袴腰岳の山頂を眺めることができた。山頂の少し手前からは南の展望が広がり、遠く岩木山も望むことができた。
 丸屋形岳を下り、峠に戻ると、車が一台止まっていた。普通乗用車であり、平舘からの林道は上がって来られるようであった。
 車に戻り、悪路の林道を戻るのに、登山よりも疲れた。翌日の天狗岳のためには、移動距離が大きく、車の運転に専念する必要があった。岩木山を回り込んだ後は、日本海沿いの快適なドライブが続いた。
 以前白神岳を登った後で、不老不死温泉を訪れたが、露天風呂が清掃中で入れなかったのが残念だった。今回は道順であったので、寄っていくことにした。国道から分かれて海に向かって下っていくと、立派なホテルの駐車場に出た。以前とは、雰囲気が違っていた。以前の古びた旧館は日帰り温泉施設として新しくなっており、観光客で賑わっていた。内風呂で体を洗ってから海岸部にある露天風呂に入った。以前と違って、ブロック壁で男女に分かれた目隠しができていた。露天風呂は、満員状態であった。湯は鉄分を含んで赤く、タオルが染まってしまった。海を見ながらの入浴は気持ちが良かったが、昔の鄙びた風情が懐かしかった。これも白神山地の世界遺産登録で観光客が増えたこととも関係があるのであろう。同じく世界遺産の屋久島にも平内海中温泉があるのも、面白い一致である。
 さっぱりしてから、天狗岳の登山口の天狗峠のある白神ラインに向かった。入口付近は快適な車道が続いたが、笹内川から離れる所から未舗装に変わった。幅が狭い所もあり、日曜日のためか対向車も多く、すれ違いに注意が必要であった。一ツ森峠からは、一旦追良瀬川に向かって大きく下り、再び登り返してようやく天狗峠に到着した。峠の駐車スペースに車を停めた。夕暮れが近づき、向白神岳が残照の中に、シルエットになって浮かんでいた。暗くなってからも、未舗装の林道にもかかわらず、時折通過する車がいた。
 天狗岳の登山道は、 環境庁の巡視路として整備されたもので、以前は「巡視に関わる職員以外の通行はご遠慮ください」という看板が立てられていたというが、ただ、天狗岳まで5.15kmと書かれた標柱があるだけであった。この標識は以後、500mごとに現れることになった。無駄な看板といえば、「空き缶等散乱防止重点地区」という大きな看板が、入口を含めて三カ所にあったが、天狗岳というようなマイナーなピークを目指す登山者には、ゴミは捨ててはいけないということは徹底しているはずで、このような看板自体がゴミそのものである。
 尾根沿いの小さなアップダウンの道が続いた。登山道は、笹が倒れ込んでいるところもあったが、歩くのには問題のない状態であった。登山道が右手に方向を変えると、少し先で三角点が登山道上に頭を出していた。これは848.9m三角点で、赤石川の堰堤に向かって電力監視歩道が手前で分岐しているはずであった。帰りに見ると、笹藪の中に、粗い切り開きが続いていた。右手には、向白神へ続く稜線が平行に走っているが、木立に遮られて展望は開けなかった。代わりに左手の展望が時折開け、幾重にも重なる山並みが広がっていた。
 「ノズの赤タクレ」と呼ばれるノズの沢源頭部の崩壊地は、トラロープも張られており、問題なく通過できた。山頂まで2.5km地点で、世界遺産地帯の緩衝地帯に入った。天狗岳の山頂も、迫ってきたようであるが、木立に遮られて、全景を眺めるまではいかなかった。ブナ林の広がる谷を左から巻いていくと、天狗岳への登りが始まった。
 急登が終わって山頂かと思ったが、これは肩すかしで、灌木帯を抜けたもう少し先であった。天狗岳の山頂は、ガレ場状の小広場で、白神岳から向白神岳に続くコア部の眺めが広がっていた。白神岳に登ってしまうと、盟主というべき山の眺めが欠けてしまうため、この天狗岳が白神山地で一般に登ることのできる山の中では、一番の展望台といえるかもしれない。天狗岳への登山道沿いには、そう目立ったブナ林は広がっていなかったが、核心部の谷間の山の斜面は、ブナの巨木からなる小さなコブがカリフラワー状に盛り上がっているのが見えた。三角点は、右手の藪の中の切り開きにあった。
 白神山地の眺めを独り占めしながら、ビールを開けた。
 帰りもアップダウンがあるため、同じくらいの時間がかかった。下山途中では、他に四名の登山者にすれ違った。
 白神ラインは、平日ということで交通量は少な目であったが、途中の何ヶ所かで道路工事を行っていた。時間も早いことから、続けて近くにある二ツ森に登ることにした。この山へのアプローチの青秋林道は、自然保護の高まりで、秋田県側より道路が切り開かれていったものが、青森県との境界に達したところで中止になったといういきさつがある。林道というには立派な舗装道路が続いた。しかし、道幅が狭い所もあり、大型の観光バスとすれ違ったのには驚かされた。バスは、学校登山のもののようであったが、白神山地の観光や、ハイキング客を乗せたバスが入り込むようで、休日には混雑しそうであった。杉の植林地を抜けて、延々と山奥に続く道が続いた。
 林道終点は、広い駐車スペースが設けられ、トイレも作られていた。車で稜線上まで上がったため、二ツ森の山頂までは、コースタイムで40分ほどの距離である。歩き始めると、左手に展望台への道が分かれたが、これは観光客向けのもののようである。一旦少し下った後、山頂への登りが始まった。登山道の全長にわたって、輪切り丸太や横木を埋め込んで整備してあり、過剰整備の自然度の低い登山道であった。
 二ツ森の山頂は、ガレ場の広場に出て、灌木帯を少し先に進んだ所であった。石の祠が置かれ、三角点が頭を出していた。自然保護地区に入り込まないようにするためか、笹藪に沿って、ロープが張られていた。二ツ森は、名前の通りに南北二つのピークからなるが、南峰への道はないようであった。展望自体は、戻った所のガレ場の広場や下りにかかったところの笹原の方が良かった。白神岳の眺めを楽しむことができる山頂であった。男鹿半島の真山であろうか、日本海の上に浮かぶ山が気になった。
 午後も大分回っているにもかかわらず、登ってくる登山者が結構いた。二ツ森は、林道終点から簡単に登ることのできるついでの山になっているようであった。駐車場で着替えをしている間にも、数台の車が到着し、登山道入口のなんでもないようなブナを見て、これが世界遺産のブナかという声が聞こえてきた。
 林道を下る途中の夕暮れが迫った日本海の眺めは美しかった。林道入口近くのハタハタ館で温泉に入って汗を流し、続いて小岳の登山口に向かって移動した。二ツ森に寄り道をしたため、藤里を通過して素波里湖の先の林道に入った時は、すでに日が暮れていた。暗くなった中での未舗装の林道の運転は気が疲れた。途中で、何本もの林道が枝分かれしたが、分岐には小岳を示す標識が立てられていた。途中からナビは、空白地帯で現在地を示すようになった。路面は悪路とまでは行かなかったが、雨でも降ると、かなりぬかりそうであった。暗い中で視野も狭まり、20kmのスピードを出すのがやっとで、結局20kmの林道を走り終えるのに、1時間15分ほどかかってしまった。普通であったら、素波里湖で夜を過ごして、翌朝明るくなってから林道に進むというのが普通であろうが、新潟までの帰りを考えると、前日に登山口まで入っておきたかった。途中で駒ヶ岳の登山口へ通じる林道を右に分けたが、その分岐までもかなりの距離があった。
 小岳山頂という標識が現れたので、その前の草むらの広場に車を止めた。朝になってみると、すぐ先に白神山地自然巡視管理棟とトイレの設けられた駐車場があった。
 翌朝は、朝食もそこそこにして早い出発をした。尾根をひと登りすると、沢に出て、隣の尾根に乗り換えて登りが続いた。歩き始めてすぐにNo.19の標識が現れたが、この数字はなかなか減らずに、山頂までかなりあるなと思いながら足を速めることになった。ブナ林の中の登りを続けていくと、傾斜が緩んで台地に出て、ここには小さな沢が流れていた。なかなか減らない標識の数字にいささか焦りも出てきたが、山頂0.8km、登山口1.6kmと書かれた登山標識が現れて、三分の二は歩いてきた事を知って、唖然とした。結局、このプレートは山頂を目の前にして、数十メートルおきに置かれることになり、ルートに沿っているという印にしか役立たないものであった。この山頂標識のある場所には、刈り払い道が合わさっていた。登山口の看板に書かれている、小岳林道をさらに進んだ所から登ってきた登山道のように思えたが、登山標識は無かった。
 緩やかな尾根を辿っていくと、急斜面の階段登りが始まった。二連の階段で、一気に高度を上げると、樹林限界を超した。笹原の上に三角形をした小岳の山頂が姿を現した。笹原に点在する灌木は、所々紅葉に色づいていた。この山のハイマツは、本州で最低標高の群落といわれている。登山道の左右の笹原にロープが張られているのが気になった。始めは、滑落防止のためかと思ったが、どうもこれは登山道を外れないようにという印のようであった。どうも白神山地は、訳の判らぬ自然保護が行われている。
 左手に新しい石の祠を見ると、刈り払われた小広場になった小岳の山頂に到着した。白神山地や岩木山が朝日の中に明るく輝いていた。ビールを飲んで休む時間ではないので、風景を一通り眺め終えると、下山に移った。
 登山道は良く整備されていたので、下りは早かった。登山口に戻ると、一組が出発していくところであった。林道を下っていく途中でも、登山者の者と思われる車数台とすれ違った。休日にもかかわらず工事をしており、素波里湖近くになってダンプカーとすれ違ったが、幸い路肩のスペースのあるところで良かった。
 今回の山行では、天狗岳、二ツ森、小岳に登り、それに、以前に登った白神岳、藤里駒ヶ岳、田代岳が白神山地の山に加わる。結構な数登ったことにはなるのだが、世界遺産の白神山地とはこんなものかという気持ちが消えないでいる。それは、杉の植林地によって開かれた長い林道を辿り、登山口に着けば、山頂まではひと登りで、ブナ林をゆっくり楽しむ登山コースにはなっていない。山へのアプローチに、長々とブナの原生林を辿り、その後にようやく山への登りが始まるというのが、望ましい登山コースではないだろうか。現状では、林道があまりに高い所まで通じているため、歩き始めれば、ブナ林の広がる谷間をすぐに離れてしまうことになる。飯豊や朝日連峰の登山口周辺のブナ林に親しんでいる者にとって、これが白神山地かと驚嘆するブナ林にはまだお目に掛かっていない。コア部分に分け入らなければ、白神山地の真価は味わえないのであろう。
 登山を終えて、新潟までのドライブが、この日一番の仕事になった。幸い、秋田周辺の日本海沿いには高速道が新しく延びており、そのおかげで思ったよりも早い時間に新潟に戻ることができた。
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