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浅草岳、鬼ヶ面山


【日時】 2002年10月26日(土) 日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 晴

【山域】 浅草岳
【山名・よみ・標高・三角点・県名】 
浅草岳・あさくさだけ・1585.5m・一等三角点本点・新潟、福島
鬼ヶ面山・おにがつらやま・1465.1m・三等三角点・新潟、福島
【コース】 田子倉登山口より六十里峠登山口へ下山
【地形図 20万/5万/2.5万】 新潟、日光/小林、須原、守門岳、只見/田子倉湖、毛猛山、守門岳、只見
【ガイド】 アルペンガイド「上信越の山」(山と渓谷社)、山と高原地図「越後三山・卷機山・守門岳」(昭文社)

【時間記録】 4:30 新潟発=(北陸道、中之島見附IC、R.8、川崎北、R.351、栃尾、R.290、渋川、R.252)=6:55 田子倉登山口〜6:58 発―7:18 幽の倉沢 徒渉―7:40 大久保沢(最後の水場)―8:13 田子倉眺め―8:43 剣ヶ峰―8:49 鬼ヶ面山眺め―10:00 浅草岳〜10:10 発―10:23 前岳分岐―10:55 ムジナ沢カッチ―11:22 鬼ヶ面山北峰〜11:30 発―10:51 鬼ヶ面山―11:21 南岳〜12:37 発―12:59 吹峠分岐―13:29 六十里越峠〜13:33 発―13:57 六十里越峠登山口―15:20 田子倉登山口=(往路を戻る)=18:30 新潟着

 浅草岳は、江戸時代より越後と会津を結ぶ交易路として利用された六十里越と八十里越に挟まれたかつては未開の山域にある。只見線の開通、只見ダムの完成と六十里越の車道化(R.252)によって、この地も登山客が入り易くなり、最近では、東京方面からの登山者も多くなっている。なだらかな山容の西面に対し、福島県側の浅草岳から鬼ヶ面山に続く稜線の東側は、大岩壁になって、対称的な姿を見せている。一般には、歩行時間の短いネズモチ平あるいは桜ゾネから登る者が大部分であるが、沼の平のブナ林と組み合わせることのできる入叶津に至るロングコース、急登の連続となるが鬼ヶ面山の岩壁の眺めが素晴らしい田子倉登山口からのコース、六十里越峠から岩壁の縁を辿りながら鬼ヶ面山を越して浅草岳に至るコースなど、それぞれ特徴のある健脚向きのコースを楽しむことができる。
 後輩の学位論文の投稿指導で、日曜出勤となり、参加申し込みをしておいた杁差岳の1泊2日の荷揚山行はキャンセルになった。急遽、土曜日にどこの山に出かけるか、考えなければならなくなった。気になる天気は、日曜日は、大荒れになるようであったが、土曜日は低気圧の通過で、曇り後雨というものであった。天気が崩れる前に山歩きを楽しむことができそうであった。
 山での紅葉の進み具合を考えると、やはり1000mくらいの標高の山を狙う必要がありそうに思えた。浅草岳に田子倉から登っていないことを思い出した。地図をみると、六十里越峠登山口から田子倉までは、歩けない距離ではなさそうであった。距離は現地で車のメーターをセットして測定することにして、天気が持ちそうならば、浅草岳から鬼ヶ面山へ回っても良いなと、おおざっぱな計画を立てた。
 いつものように、高速代の節約のため、中之島見附ICから栃尾を経由して、六十里越峠を目指した。六十里越峠付近は、道路工事が各所で行われており、片側通行のための信号待ちで手間取った。県境に近づくにつれて、ガスが広がり、山の眺めは閉ざされてしまった。
 田子倉登山口の無料休憩所の前の広場に車を停めた。車のメーターを確認すると、六十里越峠登山口からこの広場までは、7.3kmの距離があった。六十里越峠登山口からは、下り坂が続くので、1時間半ほどの歩きで済みそうであった。ガスも上がり始めて、紅葉に染まった山肌が姿を現した。
 只見線の線路を渡ると、奧にも広い駐車場があり、数台の車が停められていた。登山口からは、只見沢左岸沿いの歩きがしばらく続いた。ガスが上がって、青空の中に浅草岳の山頂が姿を現した。この様子なら浅草岳から鬼ヶ面山に回ることができそうであった。幽の倉沢を鉄パイプの手すりが片方についた木の橋で半分渡り、後の半分は飛び石伝いに渡ると、緩やかな登りが始まった。登山道周辺には、美しく色づいたブナ林が広がり、写真を撮りながらの歩きになった。ブナの大木の下に「大久保沢・最後の水場」と書かれた標識が立てられており、脇に小さな沢が流れていた。コップを取り出して、水を飲んでみた。ブナ林の中を流れる沢水は、特に美味しいように思われる。山頂まで4.0km、登山口までは1.3kmと書かれていた。浅草岳の山頂から鬼ヶ面山、六十里越峠を経由して一周するとなると、今日は充分すぎるくらいの歩きになりそうであった。距離の合計は20km程になるのであろうか。急がずに、しかし着実に歩き続ける必要がある。
 ここからは、いよいよ、急な登りが始まった。ブナ林は、最後の水場付近が、大木が揃ってひと際見事であったが、次第に細く変わっていき、灌木帯に変わっていった。急な尾根であったが、登山道は、トラバースを交えながら続いているので、登りのペースを保ちやすかった。
 ひと汗かいたところで、痩せ尾根に出て、周囲の展望が広がった。ここには、田子倉眺めという標識が立てられていた。浅草岳の山頂と鬼ヶ面山の岩壁が、紅葉に彩られながら目の前に大きく広がっていた。谷間の紅葉も美しい色合いを見せていた。汗を拭くのも忘れてカメラを構えた。振り返ると、田子倉ダムは、残念ながら、ガスの下であった。
 ここからは、微妙に姿を変えていく、鬼ヶ面山の岩壁を眺めながらの登りになった。重い一眼レフデジカメを首から下げたままの状態になったので、ゆっくりした登りになってしまった。尾根の途中にあるちょっとしたピークの剣ヶ峰まで登ると、浅草岳の山頂に至るまでの登山道を目で追うことができるようになった。紅葉の盛りの高度も過ぎたようで、尾根上に立つ木は、葉をすっかり落として、白い幹を光らせていた。鬼ヶ面山の岩壁の縁が、鬼の角のように、針状に突き出して見えるようになった。植生も変わってきて、尾根には、ヒメコマツも並ぶようになってきた。
 鬼ヶ面見晴らしを過ぎて、浅草岳への最後の登りが始まると、固定ロープも張られた急斜面の登りも現れるようになった。このコースを登りにとるぶんには、息が切れるだけのことであろうが、下りの場合には、慎重に歩く必要があろう。
 ようやく傾斜が緩むと、山頂下に広がる草原に飛び出した。右に曲がると、入叶津への登山道に出て、左折するとすぐ先で浅草岳の山頂に到着した。浅草岳の山頂には、5名ほどが休んでいたただけなので、人気のこの山としては空いているほうであった。紅葉の盛りとしてはちょっと意外であった。風が冷たいため、登ってきても山頂を早々と下ってしまっているのだろうか。
 山頂下の草原では、木道の工事を行っており、発電機の音が聞こえていた。鬼ヶ面山に向かって、岩壁の縁が長く続いていた。田子倉ダムの湖面もようやく姿を現した。尾瀬や会津方面の山は黒雲で覆われていたが、新潟方面は青空が広がり、守門岳が大きなすそ野を広げた姿を見せていた。風当たりの弱いところに腰を下ろして、まずは腹ごしらえをした。天気も持ちそうなので、鬼ヶ面山を回って下山することにした。
 山頂下の草原には、木道整備のために、何人もの作業員が入っており、前岳の分岐にはプレハブ小屋が建てられていた。何人もの登山者にすれ違ったが、それでも少な目であった。
 鬼ヶ面山への登山道に入ると、再び登山者に会うのはまれになった。前岳からの下りは、急斜面の上に、木の根が出て歩き難かった。前方に見下ろす、岩壁と、その縁ぎりぎりに続く登山道の眺めが見物であった。鬼ヶ面山を逆方向で歩いた時は、登りに夢中で気が付かなかったせいもあるが、このようなすごみのある岩壁の姿を見ることはできなかった。
 鬼ヶ面山の北峰に向かっては、疲れてきた足には辛い登りになった。登山道は、北峰の直下を巻いている。先回に続いて、北峰の最高点を踏んでいくことにした。灌木の中に踏み跡が続いているが、尾根が痩せているところもあるので、枝にはじき飛ばされないように注意が必要である。最高点で、踏み跡は灌木に阻まれて終わりになる。山頂標識もないが、往復5分強なので、体力に余裕のある人は立ち寄ろう。振り返ると、浅草岳の山頂は、遙か高みに聳えるようになっていた。
 北峰から僅かに下り、岩壁の縁を辿っていくと、三角点の置かれた鬼ヶ面山に到着した。山頂は狭く、あいにくと5名グループが賑やかにしゃべりながら座り込んでいた。丁度昼になっていたが、もう少し先に進んでから休むことにした。鬼ヶ面山を越すと、登山道は、崖の縁から離れるようになっていく。六十里越峠から鬼ヶ面山を往復する登山者が多いようだが、それでは鬼ヶ面山の魅力を充分味わったことにはならないであろう。北峰からムジナ沢カッチの間あたりが、スリルのある岩壁の縁巡りの核心部である。
 眼下にマイクロウェーブ基地を見下ろす前岳に到着したところで、腰を下ろしてひと休みした。この先は、危険な所はない。安心してビールを飲むことができた。時折濃い雲が流れて、日が陰るものの、天気はもっていてくれた。
 前岳から下っていくと、周囲には、矮小化したブナ林が広がるようになった。下りの足を速めていくと、広く刈り払われた道に飛び出した。傍らに立つ標識には吹峠を経て大白川へと書かれている。以前は車道であったものが、送電線の巡視路として整備されているようであるが、この吹峠がどこなのかはよく分からない。
 広い巡視路をススキの原を横目でみながら歩いていくと、マイクロウェーブの基地に出て、その先からは、ブナ林の中の急な下りになった。六十里越峠に出たところで、考え込んだ。田子倉へは福島県側に下りた方が近いが、今でも歩けるのかどうか。トンネル出口付近では道路工事中で、通過できるのかどうか。引き返すのもどうかと思い、安全策をとって新潟県側に下ることにした。
 六十里越峠登山口に下りたって、ここからは、第三ステージともいえる国道歩きの始まりとなった。朝、車で走る時に、様子見をしておいたのが役に立った。六十里越トンネルは、路肩の歩道が無いために、車とのすれ違いが怖かった。途中、ダム湖の向こうに頭をもたげた前毛猛山の眺めを楽しむことができた。二番目の白沢トンネルは、歩道は設けられているものの、照明がないため、ヘッドラプをあらかじめ取り出しておく必要がある。疲れはそれほどでは無かったものの、谷を巻きながら遙か彼方まで続く車道の歩きに、いいかげんうんざりしてきたところで、田子倉登山口に到着した。1時間半の車道歩きで、これが限界といったところであった。
 歩いている途中と、車で新潟に戻る途中、上りと下りの各ひと組の登山者が歩いているのに出会って、六十里越峠と田子倉登山口の間を歩く登山者は、他にもいるのだと、感心した。
 浅草岳は、一般には、新潟県側の桜ズネあるいはネズモチ平から登られることが多いが、なだらかな登りが続き、女性的な山という印象が持たれている。しかし、福島県側の只見尾根から鬼ヶ面山の岩壁を見ながら登れば、男性的な山という印象を持つに違いない。コースを変えることで、これほど印象の変わる山も少ないかもしれない。

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