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本谷山


【日時】 2002年10月5日(土) 前夜発日帰り
【メンバー】 単独行
【天候】 晴

【山域】 越後三山周辺
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
本谷山・ほんたにやま・1860m・なし・新潟県、群馬県
【コース】 三国川ダムより
【地形図 20万/5万/2.5万】 日光/八海山/兎岳
【ガイド】 新潟の低山藪山(白山書房)
【温泉】 畦地温泉こいし 400円

【時間記録】
10月4日(金) 20:00 新潟発=(関越道、六日町IC、三国川ダム 経由)=22:30 十字峡  (テント泊)
5日(土) 5:08 十字峡発―5:42 丹後山登山口―6:07 本谷山登山口―6:57 痩せ尾根展望地〜7:05 発―7:43 建物〜7:49 発―8:01 三十倉〜8:08 発―8:16 鞍部―9:25 小穂口の頭〜9:30 発―10:09 本谷山〜10:42 発―11:14 小穂口の頭〜11:19 発―12:13 鞍部―12:21 三十倉〜12:28 発―12:36 建物―13:06 痩せ尾根展望地〜13:10 発―13:42 本谷山登山口〜13:48 発―14:15 丹後山登山口―14:47 十字峡=(往路を戻る)=17:30 新潟着

 本谷山は、越後三山の中ノ岳の南に位置する丹後山から巻機山に至る県境稜線上にある山である。この区間の県境縦走路に登山道はないが、中ノ岳や丹後山の登山口でもある十字峡から中尾ツルネを経て小穂口の頭までは登山道が開かれており、残り僅かなヤブコギで本谷山に達することができる。
 10月に入り、山の紅葉の便りが各地から届いている。大分前のことになるが、1992年10月5日に中ノ岳から丹後山まで日帰りで歩き、紅葉の山を堪能したことがある。笹原の緑と、草原の黄、灌木の赤の入り交じった紅葉の山は得も言われぬ美しさであり、強い印象として残った。丁度同じ時期ということで、まだ登っておらず気になっていた本谷山に出かけることにした。
 三国川ダムは、今年の4月27日に桑ノ木山経由でネコブ山に登って以来の再訪になった。金曜の夜遅くに十字峡の登山センターに到着してみると、駐車場には多くの車がすでに停められていた。ここではゆっくり寝ることはできそうになかったため、十字峡トンネルを越した先の発電所脇の公園の駐車場に車を停めた。ここには誰もおらず、テントを張ってのんびりと寝ることができた。発電所の水音が大きかったが、すぐに気にならなくなった。朝になったところで、林道のゲート前の駐車場に車を移動させた。
 出発の準備をしていると、空が稲光で時々光った。雨は降ってこないようなので、ヘッドランプで歩きだした。日の出が遅くなっており、前夜泊にしては遅い出発になってしまった。10分ほど歩くと、林道歩きでもあり、ヘッドランプはいらなくなった。
 インターネットで本谷山の記録を探して読んでみると、水が足りなくなって苦労したとあった。喉の渇き対策として、3リットルの水に、ペットボトルのお茶、ジュース1パック。行動食としてカットパイン。ビールも1缶持って、水物が多く、日帰り装備にしては重たい荷物になった。
 十字峡のゲートからは、長い林道歩きが続いた。三国川は、深い渓谷を作り、底まで見える透明な水は、淀みでは青く染まってみえた。栃の木橋で左岸から右岸に移ると、その少し先で丹後山の登山口に到着した。登山届けのポストがあったので、届けを書いた。右岸沿いの歩きが続き、内膳沢に掛かる橋を渡ると、ようやく本谷山の登山口の内膳落合に到着した。十字峡のゲートからは、1時間の歩きを要した。標識によれば、十字峡4.3km、本谷山(中尾山)6.0kmとあった。標高差を考えずとも、水平距離だけでも往復20kmを越して、なかなかの健脚コースのようであった。十字峡からは1400mの標高差となるので、これも大変であるが、十字峡から中ノ岳に登り丹後山を回って下山の日帰り山行を行っているので、歩けないはずはなかった。
 尾根沿いの登山道に進むと、すぐにロープの掛かる急斜面が現れた。2万5千分の1地図を見る限り、中尾ツルネは、一定の勾配が続く登りやすい尾根のように見えたのだが、急登の連続で、時々四つんばいになるようなさらなる急斜面が現れるといった繰り返しであった。尾根の途中、二ヶ所の鎖場も現れた。登山道周辺にはブナ林が広がり、展望の無い中の黙々とした登りが続いた。
 1時間近く登って標高960mに達すると、キタゴヨウマツが並ぶ痩せ尾根に出て展望が広がった。行方には三十倉が三角形の山頂を見せ、右手の谷向こうには桑ノ木山からネコブ山に至る稜線が広がっていた。背後には中ノ岳と八海山の山頂が並んで姿を見せていた。最初の目標の三十倉まではまだ大分ありそうであった。
 痩せ尾根を過ぎると、尾根も広がり、ブナ林の中に落ち葉のクッションが心地よい登山道が続いていた。どれ程の登山者がいるのか判らないが、しっかりした道が維持されているのは、不思議であるが、感謝しなければならない。傾斜が緩んでようやく三十倉かと思うと、灰色の二階建ての建物が現れた。鍵がかかっており、用途や所有者は書かれていなかった。雨量観測用の施設なのであろうか。小屋の前の広場から見ると、前方に三角形のピークが見えて、三十倉はもう少し先であることが判った。
 軽く下って急な登りを少し頑張ると、三角点の置かれた三十倉に到着した。太陽も昇って、ネコブ山が、紅葉に染まって、どっしりした姿を見せていた。尾根の登っていく先に、本谷山をようやく目で捕らえることができるようになった。
 三十倉からは、一旦標高差50mの下りになった。鞍部から振り返ると、紅葉に染まった三十倉が美しい姿を見せていた。鞍部からの登り返し部に、足場の少ない岩場が現れた。ここは、下る時には少し注意が必要である。色づいた灌木のトンネルを抜けていく登りが続いた。灌木の背が次第に低くなってくると、笹原に覆われた尾根の登りになり、展望が一気に開けた。本谷山の山頂も目の前に迫ってきたが、逆光のために色がくすんでいるのが残念であった。ネコブ山が紅葉に染まった山頂を見せていた。背後に聳える中ノ岳の後ろからは越後駒ヶ岳が山頂をのぞかせるようになった。時々写真のために足を停めながらの、気持ちの良い尾根歩きになった。眼下には、三十倉手前の建物をはっきりと目で捕らえることができた。笹原の中に付けられた登山道は、最近刈り払いが行われたようで、葉に覆われて、滑りやすくなっていた。
 傾斜が緩むと、県境縦走路上の小穂口の頭に到着した。東斜面には草地が広がっていた。荷物を下ろして、まずは眺めを楽しみながら一休みした。幾重もの山並みが広がり、山の同定のためにしばらく考える必要があった。平ヶ岳が判ると、その後ろに見えるのが燧ヶ岳、右手に至仏山と笠ヶ岳、さらに右手には上州武尊岳と、次々に山の名前が浮かんできた。下津川山方面の県境縦走路は、笹に覆われていたが、膝上の深さで、歩くのはそう難しくはなさそうであった。
 本谷山方面には、踏み跡が続いていた。ここまでの刈り払いで、しっかりした道が整備されているのではという期待もあったのだが、それは甘かったようである。小穂口の頭への僅かな登りの後は、痩せ尾根の下りになった。尾根の頂稜部はハイマツやシャクナゲで覆われているため、群馬県側に身を乗り出すようにしながら足を運ぶ必要があった。鞍部まで下りると、笹原の中の登りになった。膝上から腰までの笹に覆われて踏み跡は見えない状態であったが、笹原にうっすらと凹みが見えて、踏み跡が続いていることが判った。尾根通しといっても、踏み跡は微妙にコースを変え、足の抵抗感が増すことで、コースアウトしたことを知ることができた。
 右手に小さな池が現れた。登山地図に水場マークが書かれているのは、この池のことであろうか。この池を利用するなら、浄水器を用意して煮沸する必要がありそうであった。秋に登るなら、この池の利用も考えるべきであろう。
 池を過ぎると、笹原を右手にトラバースし、右手から上ってきた尾根に乗って、東斜面に広がる草原と灌木帯の縁を辿る登りになった。
 本谷山の山頂は、所々にナナカマドの木が点在する笹原になっていた。最高点に上がると、笹原が2m四方程に刈り払われていた。この山には三角点はないので、ここを山頂として腰を下ろした。気になるのは、そお遠くない距離にある越後沢山であった。時計と地図を眺めて、今日のところは諦めるしかなかった。残雪を使えない完全なヤブコギでは、あと2時間はかかるであろうか。越後沢山に登れば、丹後山に抜けたくなるに決まっている。1泊2日の行程として、一日で丹後山の避難小屋に辿り着ければ良いが、それが無理なら途中で幕営としても、翌日には確実に下山できる。またいつものヤブコギグループを誘ってみようか。
 誘惑を打ち切るため、ビールを開けた。ロングコースのため、ビールを持ってくるかどうか迷ったが、この青空と紅葉の山に抱かれては、飲まないわけにはいかない。山の神への御神酒と、自分自身の頑張りと体力に感謝を込めて、乾杯。稜線の紅葉は盛りであった。これだけの展望の山を独り占めとは、贅沢の極まりである。今日は、お気の毒なことに、日本百名山は大混雑であろう。登りに体力を使ったため、一本のビールでも充分に酔うことができた。
 今日の本谷山は、来るべき丹後山縦走のための偵察と心に決めて、山頂を後にした。光線の具合で、紅葉の鮮やかさも増して、写真撮影で度々足を停めながらの下りになった。南の下津川山も気にかかる。こちらは少し遠いが、小穂口の頭からの往復は、半日でなんとかなりそうであった。
 小穂口の頭に登り返し、ひと休みの後、中尾ツルネの下りにとりかかった。しばらく紅葉に染まった尾根の眺めを楽しみながらの下りを続けた後は、展望もなくなり、下りに専念することになった。最後は、足も辛くなってきて、林道歩きはさすがに足が重くなった。
 同じ山塊の稜線続きにある越後駒ヶ岳、中ノ岳、丹後山、本谷山は、その知名度を大きく異にしている。越後駒ヶ岳や中ノ岳は、なるほど名山に相応しい姿を持っているが、これらの山を愛するなら、その周りにある本谷山のようなB級の山にも登ってみて欲しい。A級の山に比べれば山の姿、風格で一歩を譲るとしても、独自の魅力を持っている。なによりも、山を独占できることは嬉しい。


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