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朝日岳、雪倉岳、白馬岳、小蓮華岳


【日時】 2000年8月3日(木)〜5日(土) 2泊3日
【メンバー】 単独行
【天候】 8月3日:晴れ後曇り 4日:晴れ後曇り 5日:

【山域】 北アルプス北部
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
朝日岳・あさひだけ・2418.3m・二等三角点・新潟、富山県
雪倉岳・ゆきくらだけ・2610.9m・三等三角点・新潟、富山県
白馬岳・しろうまだけ・2932.2m・一等三角点本点・長野、富山県
小蓮華山・これんげさん・2769m・なし・新潟、富山県
【地形図 20万/5万/2.5万】 富山/白馬岳、黒部/白馬岳、黒薙温泉
【ガイド】 アルペンガイド「立山・剣・白馬岳」(山と渓谷社)、白馬岳を歩く(山と渓谷社)、花の山旅白馬岳(山と渓谷社)、山と高原地図「白馬岳」(昭文社)
【温泉】 蓮華温泉ロッヂ 800円

【時間記録】
8月2日(水) 5:00 長岡発=(北陸自動車道、糸魚川IC、R.148、平岩 経由)=21:30 蓮華温泉  (車中泊)
8月3日(木) 4:55 蓮華温泉発―5:04 キャンプ場―5:09 鉱山道分岐―5:33 兵馬ノ平―6:08 瀬戸川鉄橋〜6:13 発―7:13 白高地沢〜7:18 発―7:45 水場―8:50 花園三角点〜9:00 発―9:52 五輪の森―11:58 千代の吹上〜12:20 発―13:03 朝日岳〜13:17 発―14:05 朝日平  (テント泊)
8月4日(金) 4:25 朝日平発―5:10 朝日岳〜5:25 発―6:12 水平道分岐―6:17 小桜ケ原―7:06 鞍部〜7:12 発―9:14 雪倉岳〜9:31 発―10:04 雪倉避難小屋―10:52 鉢の鞍部〜11:01 発―11:10 鉱山道分岐―12:08 三国境〜12:18 発―13:04 白馬岳〜13:08 発―13:30 村営頂上宿舎  (テント泊)
8月5日(土) 4:34 村営頂上宿舎―5:04 白馬岳〜5:35 発―6:08 三国境〜6:14 発―6:52 小蓮華山〜7:15 発―7:52 舟越ノ頭〜7:57 発―8:30 白馬大池〜8:45 発―9:41 天狗の庭〜9:47 発―10:47 蓮華温泉=(蓮華温泉入浴後往路を戻る)=15:20 新潟着

 雪倉岳と朝日岳とは、白馬岳の北側の三国境から始まる新潟・富山県境稜線上にある山である。三国境から雪倉岳を経て朝日岳に至る稜線はお花畑が連続し、喧噪の白馬岳から離れて静かな山を楽しむことができる。朝日岳は、日本海まで続く栂海新道の起点ではあるが、一般的には、蓮華温泉を起点とする山中二泊の環状縦走で両ピークを踏むことになる。

 今年の夏は、北アルプス方面の山を目標とし、花の美しい時期に、朝日岳から雪倉岳、白馬岳を歩いてみることにした。山中二泊のためには、営業小屋を利用することができたが、朝日小屋はともかく、白馬岳の小屋の混雑を敬遠して、テント泊で出かけることにした。
 二週続けての糸魚川通過になった。蓮華温泉から白馬岳は、登山を始めた10年前以来となる。昔と比べて道路は走りやすくなったようであるが、国道から分かれてからかなりの距離があった。蓮華温泉の駐車場は、両脇が埋まっている程度であった。隅に車を止めて、車の中で寝た。
 翌朝、薄暗い中起きて、歩き出す準備をした。ロッヂの前を通り過ぎ、林の中をしばらく行くと、キャンプ場の前に出た。緩やかに下っていくと、兵馬ノ平に出た。日が昇り、雪倉岳から朝日岳にかけての稜線が明るく輝いていた。湿原はコバギボウシが群生し、夜露に濡れて薄紫の花が朝日に浮かんでいた。遊歩道から分かれると、瀬戸川に向かっての大きな下りになった。ここまでの夜露に濡れた木道は滑って危なっかしく、普通の登山道に変わると、その方が歩きやすかった。
 瀬戸川では、岩が両側から迫り出して狭くなった所に鉄橋が掛けられていた。この鉄橋が最低部となり、蓮華温泉からは、225mも下ってしまったことになる。気合いを入れて歩き出しても、今度は尾根の乗り越しで、再び白高地沢に向かっての下降になった。山の奥へと進む道で、なかなか標高をかせぐ登りは始まらなかった。白高地沢は、広い河原になって、ペンキマークを辿ると、それ程広くない流れにワーヤーと板でできた簡単な橋がかかっていた。まずは、ひと休みとしたが、水の流れは白く濁っており、飲む気にはならなかった。
 いよいよ、カモシカ坂と呼ばれる急な登りが始まった。テント二泊の荷物は重く、いつもよりゆっくりのペースになった。急坂の途中で、水場が現れ、冷たい水に元気を取り戻すことができた。五輪尾根の途中には、地図では二個所の水場が記載されていたが、上部では、何カ所も雪解け水が流れており、好きなだけ水を飲める道であった。水場の上部の、短いが足場の少ない岩場を登ると、樹林帯の中の急登が続くようになった。下山の登山者にも出合うようになったが、朝日平を出発しても、それぞれの足によってかなりの時間差が出ているようであった。
 樹林帯を抜けて五輪高原の一画に到着すると、草原が広がって、木道の歩きになった。谷の向こうに蓮華温泉を望むことができたが、距離は遠ざかっているものの、高さはたいして変わらなかった。草原にはニッコウキスゲの花が広がっていた。緩やかに登っていくと、登山道の中央に三等三角点が置かれている花園三角点に到着した。この付近の草原には、カライトソウ、トキソウ、タテヤマリンドウ、アカバナシモツケソウ、アズマギクの花が咲いていた。花を眺めながらひと休みした。木道の上を緩やかに登っていくと、山の斜面にハクサンコザクラの群落が広がっていた。尾根の上に出ると、タカネマツムシソウやシロウマアサツキの花も現れた。この先しばらくは五輪ノ森と呼ばれる樹林帯の中のトラバース気味の登りになった。稜線が迫ってきてからも左方向に進む登りが続いた。残雪の登りも現れて、コースを慎重に見定める必要があった。雪渓の周辺には、シナノキンバイやミヤマキンバイ、ハクサンイチゲ、ベニバナイチゴのお花畑が広がり、写真を取りながらの歩きになった。白高地周辺は、岩と残雪、雪解けの流れが美しい庭園のような風景を形づくっていた。雪渓を長くトラバースするようになると、千代の吹上に到着した。
 千代の吹上の東斜面には、ハクサンシャジン、ヨツバシオガマ、タテヤマウツボグサ、アカバナシモツケソウ、シロウマアサツキ、カライトソウ、タカネマツムシソウからなる草原状のお花畑が広がっていた。西側斜面は砂礫の斜面となって、花は少なかった。北に向かう登山道入口には、ミネウスユキソウに飾られて、「吹上げのコル 栂海新道を経て親不知日本海へ さわがに山岳会」と彫り込まれた金属プレートがかかげられていた。いつかこの道に進んで見たいものと思った、先の様子をうかがった。
 朝日岳への山頂に向かっての最後の登りは、花に誘われて、しばしば足が止まってしまうことになった。クルマユリ、ハクサンシャジン、タテヤマウツボグサ、ミヤマダイコンソウ、クルマユリ、チングルマ、シロウマアサツキ、ハクサンフウロ、タカネシオガマ、タカネツメクサ、イワツメクサ、ミヤマムラサキ、イワオウギの群落が草地や砂礫地の中に咲いていた。
 朝日岳の頂上には、立派な山頂標識が立てられていた。ガイドブックには、周囲の展望が開けているように書かれているが、残念ながら、ガスがかかって視界は閉ざされていた。誰もいない山頂の木道に腰を下ろしてひと休みした。北アルプスとしては珍しいような静かな山頂であった。
 朝日平へは、標高差260mの下りになる。途中で雨がぱらつき、木陰で様子見になった。水谷のコルまで下り、左手から水平道を合わせ、稜線の一段下に続く木道を緩やかに登っていくと朝日小屋に到着した。
 テント場は広く、水道やトイレの施設も整っていた。テントも10張り程で、ゆったりと過ごすことができた。夕食も終えて、ビール片手に夕暮れを待っていると、ガスが上がって、朝日岳の山頂や白馬岳から旭岳の稜線が姿を現した。ブロッケン現象も現れ、小屋の前の広場に出ていた登山者は、手を振って影を動かして遊んでいた。
 テント場の朝は早く、3時頃から朝食の用意を始める者がいたので、一緒に起き出してしまい、薄暗いうちにテントを撤収して歩き出すことができた。水平道を歩くか迷ったが、昨日見られなかった朝日岳山頂からの眺めを楽しむために、山頂を越していくことにした。朝一番とあって、朝日岳山頂への登り返しもそう辛くはなかった。朝日岳の頂上には、大勢の登山者が登ってきていた。快晴の朝になり、周囲の展望が広がっていた。雪倉岳が大きく、その背後に白馬岳が遠くに見えた。これからの歩きが少々思いやられた。剣岳がピラミッド型の山頂を見せ、その右手に毛勝三山が広がっていた。
 眺めを楽しんだ後、雪倉岳への縦走路に進んだ。お花畑の広がる草付きを下っていくと、樹林帯の中の急な下りになった。水平道との分岐に飛び出すと、その先僅かで小桜ヶ原に到着した。赤男山の麓に広がった静かな湿原であった。名前の通りにハクサンコザクラ、ミズバショウやリュウキンカといった湿性の植物を見ることができた。赤男山から崩れてくるガレ場を通り過ぎると、雪倉岳との鞍部に出て、雪倉岳への急な登りが始まった。下から見えていた岩場が雪倉岳の山頂かと思ったが、その高さまで上がると、左にトラバースするようにさらに登りが続いた。振り返ると、朝日岳が大きく聳えていた。尾根に乗ってひと登りして、今度こそと思ったら、雪渓の広がる斜面の向こうに本当の山頂が頭をのぞかせていた。小桜ヶ原からでは、570mの標高差の登りで、すっかり体力を消耗してしまった。途中でコアクサを始め、次から次に現れるお花畑に足を止めては息を整えた。
 雪倉岳の頂上は、かなりの人数の登山者が休んでいた。このコースは、白馬方面からの登山者の方が多いようである。縦走路のプロフィールを見ると、白馬岳からは下りがほとんどで、この区間に関しては楽なようである。人混みを避けて、山頂から少し先のハイマツの脇に腰を下ろして休んでいると、登山道を雷鳥が横切った。ガスが出て、白馬岳方面の展望は閉ざされていた。
 雪倉岳からの下りのお花畑も見事であった。チシマギキョウや、ウサギギク、ミヤマダイコンソウ、タカネバラ、クルマユリ、ハクサンフウロ、ハクサンイチゲ。花屋で作る花束のように、色の取り合わせが異なるお花畑が次から次へと現れた。
 雪倉避難小屋を過ぎると、鉢ヶ岳下のトラバース道になった。急な雪渓のトラバースもあり、慎重に歩く必要があった。用心のために六本爪アイゼンは持ってきていたが、ストック一本で充分で、使う必要はなかった。時期によっては、アイゼンが必要かもしれない。鉢の鞍部に出ると、旭岳が青空に向かって鋭い山頂を突き上げていた。天気は目まぐるしく変わっていた。
 三国境への登りは、砂礫を一歩ずつ踏みしめながらの辛いものになった。ザックは肩に食い込み、足は重くなった。三国境から小蓮華山に向かう稜線を歩く登山者も見分けることができるようになってからも、なかなか距離は近づいてこなかった。
 三国境の分岐に登り着いて、ザックを下ろして、汗を拭いながら縦走路を振り返った。ここから見た目よりも、歩きでのある縦走路であった。後は、白馬岳の山頂を越して村営頂上小屋脇のテン場まで歩けば良い。西側斜面の砂礫地には、コマクサがびっしりと咲いていた。
 白馬岳の山頂は、あいかわらず混み合っていた。目の前の旭岳から先の遠望は利かなかったため、明日の朝を期待することになった。町中のように多くの登山者とすれ違うようになった。村営頂上小屋でテン場の受け付けをした。テン場は、小屋の背後の丸山との間の窪地で、すでに多くのテントで埋まっていた。程良いスペースを見つけることができたが、最終的には、テン場からあふれて、ヘリポートの広場にも案内されていた。水場は、登山道脇まで汲みにいかなければならず、トイレもきれいではなく、小屋の経営に比べて、テン場の整備に力は入っていないようであった。
 大雪渓からは、登山者の列が続いていた。小屋は相当な混みようになりそうであった。ビールの自動販売機もあったが、雪で冷やしたビールとリンゴを小屋のお姉さんが、「ご苦労様です。冷たいビールはいかがですか!!」と声を上げて売り込んでいた。食堂をのぞくと、生ビールのビラ。誘惑にかられて、カツ丼もたのんで、喉の乾きと腹を満たすことになった。カツも揚げたてで味も良かった。金を出せば、食事に不自由しないというのも、山の中ではおかしな気もするのだが。喘ぎながら登ってくる登山者を見下ろしながら飲むビールの味は、優越感にも似た格別な味がした。
 テン場の周りの斜面を見ると、ミヤマダイコンソウを始めとする一面のお花畑が広がっていた。その中に、ウルップソウをようやく見ることができた。夕暮れ近く、雷が鳴って黒雲が近づいたが、雨は降ってこなかった。再び買ったビールで酔いが回って、そのまま眠ってしまった。勝手気ままなテント泊単独行である。
 目覚ましの鳴る音で目を覚ました。寝ぼけて止めようとしたが、時計のアラームはセットしていなかった。隣のテントの目覚ましであった。外はまだ暗い3時過ぎであった。今日は下山するだけで、白馬岳の山頂で風景を楽しむためにも、明るくなってから歩き出せば良かった。ゆっくりと朝食をとり、コーヒーも飲んでから出発の準備をした。
 またまた、薄暗い中の出発となり、白馬岳への登りの途中で、太陽が姿を現した。白馬岳の山頂からは、素晴らしい展望が広がっていた。これが三度目の白馬岳であるが、ようやく周囲を展望することができた。主稜線は杓子岳から白馬鑓ヶ岳に続き、その右手には槍ヶ岳から穂高岳が遠く、しかしはっきりと。その右脇には立山と剣岳。その右手の毛勝三山との間には、白山が遠くに浮かんでいた。向きを変えて北を望むと、小蓮華山の向こうには、焼山、火打山、妙高山の連なり。先週、金山から見た姿とは異なり、焼山からは噴煙が立ち上っていた。その右手には、乙妻山から高妻山が合わさって台形の山頂を見せていた。充分に眺めを楽しんでから、下山に移った。
 三国境に戻り、昨日歩いた、朝日岳までの稜線を目で追った。小ピークを越していくと、新潟県最高峰の小蓮華岳への登りになった。振り返ると、険しい岩壁を落ち込ませた白馬岳から杓子岳への稜線を一望することができた。女性的な白馬岳と言われるが、小蓮華岳からの眺めは、男性的な姿を見せていた。
 船越ノ頭を越すと、雷鳥坂の下りになり、白馬大池がみるみるうちに近づいてきた。池の周りには、チングルマの大群生が広がっていた。小屋の前から蓮華温泉への下り口にかけては、一面のハクサンコザクラ。今回の花の山旅の中でも、ハクサンコザクラの密度は、ここが一番であった。池の眺めを楽しみながら一服した。
 さて、蓮華温泉への最後の下り。先回は、蓮華温泉から白馬岳への日帰りだったために、バテバテで下った思い出がある。岩が転がって、少し歩きにくい所もある。団体は、栂池方面に下ってしまうのか、登山者はそう多くはない、静かな道であった。天狗の庭に出て、ひと休み。雪倉岳や朝日岳の山頂は雲で隠されていた。蓮華温泉の赤い屋根が見えてからも、もうひと頑張りする必要があった。露天風呂への道を分けると、ようやくロッヂ前に到着した。
 車に戻り、温泉の用意をしてロッヂに向かった。雨が降りだし、今回も露天風呂はおあずけになった。いつか、露天風呂を目的に出かけてくる必要がありそうであった。

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