0001

宝珠山から菱ヶ岳


【日時】 2000年3月12日(日) 日帰り
【メンバー】 三名グループ(岡本明、鈴木眞、吉田明弘)
【天候】 曇り

【山域】 五頭山塊
【山名・よみ・標高・三角点・県名】
宝珠山・ほうじゅさん・559m・なし・新潟県
大蛇ノ頭・だいじゃのかしら・799m・なし・新潟県
野須張峰・のすばりみね・902..8・三等三角点・新潟県
大日山・だいにちやま・924・なし・新潟県
菱ヶ岳・ひしがたけ・973.5m・二等三角点・新潟県
【地形図 20万/5万/2.5万】 新潟/津川/出湯
【ガイド】 LATERNE vol.3 p.210〜217、LATERNE vol.5 p.245〜250

【時間記録】 5:20 新潟発(R.49、水原、出湯、村杉、菱ヶ岳登山口 経由)=635 宝珠温泉赤松山登山口〜6:52 発―7:15 鉄塔〜7:20 発―7:36 赤松城山―7:48 赤松山―8:43 八咫柄山〜8:47 発―8:57 宝珠山〜9:13 発―9:47 641ピーク〜9:52 発―10:28 大蛇ノ頭〜10:34 発―11:10 野須張峰〜11:16 発―11:33 大日山〜11:37 発―12:22 菱ヶ岳〜13:12 発―14:41 菱見平―14:55 尾根下降点―15:10 菱ヶ岳登山口=(宝珠温泉、R.49 経由)=15:15 新潟着

 五頭山塊は、新潟平野に面し、加治川と阿賀野川の間に広がる山塊である。中央部の菱ヶ岳から五頭山を経て松平山の間と、南端の宝珠山は、幾通りもの登山道が整備されて、新潟周辺の登山者に最も親しまれている山域になっている。これに対し、宝珠山から菱ヶ岳と、松平山以北の区間に関しては、一般登山道は無く、冬季縦走として山岳会によって歩かれているくらいの秘められたる山域になっている。

 菱ヶ岳から松平山の間は残雪期に歩いたことがあり、宝珠山にも阿賀野川側の登山口から登っており、五頭山塊縦走を果たすために、宝珠山から菱ヶ岳の間をつなぎたいと思っていた。昨年の9月23日に、赤松登山口から宝珠山に登り、このコースはほどほどの痩せ尾根が続いて雪も少なそうで、積雪期に登るならこのコースが良さそうだと考えていた。3月に入って、雪も締まってきて、次第に行動距離も延びてきた。この日曜日は、鈴木さんと吉田さんに声をかけて、高知山へと思っていたのだが、土曜日の偵察では、林道が雪で埋まっており、林道歩きが大変そうであった。他の案を考えることにして、宝珠山から野須張峰あたりを目指すことにして、電話で打ち合わせを行った。ここのところ寒さがぶり返し、平野部でも雪が積もっており、冬山ではないにしろ、残雪歩きというには早い季節であった。菱ヶ岳まで行けるかどうかは判らなかったが、縦走のための下調べと思って出かけることにした。
 村杉温泉に六時半集合ということにした。近づく五頭山塊は雲で覆われ、途中から小雨もパラつく天候であった。天気予報は曇りで、天気の回復を期待できるのが救いであった。村杉温泉にはすでに鈴木さんが到着しており、ほどなく吉田さんも到着した。まずは、スキー場駐車場に移動して、吉田さんの車を一台デポした。この天気では、縦走は無理かもしれないが、一応は下山口の足の確保をしておくことにした。二台の車で、宝珠温泉赤松山登山口に移動した。村杉温泉付近の山には雪が積もっていたが、赤松山登山口付近の山腹から雪は消えていた。
 落ち葉の積もった丸太で整備された遊歩道を登っていき、登山道に入って鉄塔に出た頃から、コース上に雪が現れてくるようになった。足早な歩きを続け、赤松城山から赤松山を過ぎる頃には、雪の上には刻まれたトレースに従って歩くようになった。坪足では、時折雪を踏み抜くようになったが、ワカンを付けるほどではなくそのままで歩き続けた。周囲の雑木林も次第に背が低くなって、高度も上がってきたことを知ることはできたが、谷を挟んで見えてくるはずの宝珠山の山頂は雲で隠されていた。急な登りを終えると、痩せ尾根に出て、丸山小富士に到着したことを知った。雪稜となっていたが、その通過は問題なかった。もうひと頑張りして、八咫柄山(やたがらやま)に到着した所でひと休みした。
 八咫柄山では、右手から阿賀野川からの登山道が合流しているが、その方向には歩いたような気配はなく、雑木林を雪が包んでいた。八咫柄山から宝珠山にかけての、下りから上りは、一面の雪の斜面になっていた。宝珠山の山頂直下の急斜面では、固定ロープは雪の下になっており、潅木の枝を掴んで慎重に登る必要があった。
 宝珠山の山頂は、宝珠仙人地蔵が雪の中から頭をのぞかせ、山頂の露岩もあらかた雪に埋もれていた。鐘は雪の上に出ていたので、無事を祈ってひと鳴らしした。ここまでは、トレースに助けられて、坪足で登って来ることができて助かった。所用時間も、夏道の一般的コースタイム並みの2時間で済ませることができた。
 宝珠山の山頂には、すでに二回立っているが、高みに向かって延びていく稜線を眺めては、いつか歩いてみたいものだと思わずにはいられなかった。いよいよ未知の山域へ足を踏み出すことになる。しかし、稜線の先を眺めると、ガスが立ちこめて、雪原はそのまま霧に溶け込んでいた。幸運なことに、宝珠山の先にもトレースが続いていた。ワカンを履いて、雪山縦走の準備をした。
 宝珠山から下っていくと、コースは一旦右に方向を変えてから上りに転じた。霧の中では、直進して、違う尾根に入りかねないところである。トレースのおかげで、無駄なく歩き続けることができた。幅広の尾根は一面の雪原となり、スキーで滑ったら面白そうな斜面であった。霧で視界が利かないため、帰路確保のために、赤布を付けながら歩いた。古いテープも残されており、そこそこに歩く者もいるようであった。宝珠山の次の目標は、641mピークであった。641mピーク付近は台地状で、コースもクランク状に曲がって、下りには要注意な所である。
 続いて、大蛇ノ頭(799m)への長い上りが続いた。右側の南斜面には雪庇が張り出すようになった。それ程雪に潜るわけではないが、ワカンを履いた足を前に出していくのも次第に辛くなってきた。登りながらも、どこまで行けるかを考えなければならなかった。大蛇ノ頭までなら引き返し、野須張峰まで行けるなら、そのまま菱ヶ岳まで抜けた方が良いのかもしれない。次第に重くなってくる腕と足であったが、希望は、空が明るくなってきたことである。
 大蛇ノ頭の雪原に腰を下ろして、息を整えていると、野須張峰(902..8m)とそこに続く稜線がガスの切れ間から見えた。野須張峰で、稜線は向きを変えているので、目で方向を確かめることができたのは幸運であった。ここまで辿ってきた先行者のトレースも高度を上げるに連れて、風に吹き消されるようになっていた。問題は、野須張峰までどれ程の時間がかかるかということであった。さらに大日山を越して菱ヶ岳まではどれ位の時間は。全ては、野須張峰に到着した時に考えることにして、先に進んだ。
 風の通り道なのか、高度が上がったためなのか、クラスト状の雪になって、雪原を快調に歩けるようになってきた。潅木の枝に霧氷が縁取りをしていた。南の三川方面の、黒山や笠菅山、荒倉山、白髭山等のお馴染みの低山の峰々が、元気づけるかのように姿を現してきた。大蛇ノ頭から野須張峰へは、思ったよりも短い時間で到達することができた。これなら行ける。菱ヶ岳までの縦走の覚悟を決めた。
 巨大化した雪庇に驚きながら、真っ白な雪原を辿っていくと、大日山(924m)に到着した。縦走の記念に、記念写真を撮った。菱ヶ岳が最後のピークであるが、この大日山には、次にいつ来ることができるかは判らない。振り返れば、野須張峰が円錐型の山頂を見せていた。
 大日山から菱ヶ岳の間は、80m下ってから130mの登りが待ちかまえて、最後の難関になっている。大日山からは、急斜面もあり、ストックで充分に確保しながら慎重に下った。鞍部から、僅かな区間であるが、急斜面の登りが現れた。稜線の左右も切れ落ちており、林の中に迂回もできなかった。ストックを雪面に思いきり差し込んで、ワカンでステップを切りながら、慎重に登った。一段登った所で傾斜も緩んでひと息つくことができた。菱ヶ岳の山頂も姿を現して、稜線が高みに向かって続いていた。登りのゴールはようやく近づいてきたが、皆疲れてきて、トップも短い区間で交代するようになっていた。
 登りの傾斜も次第に緩んできて、菱ヶ岳の山頂に到着した。山頂には二名の登山者が休んでいた。いつもは、山頂に他の登山者がいると少しガッカリするものであるが、この時ばかりは、下山の心配が無くなって内心ホットした。縦走を祝ってビールで乾杯。風は冷たくとも、乾いた喉には旨いビールであった。振り返れば、越してきた大日山や野須張峰を眺めることができた。縦走路の先には、五頭山にかけての稜線が長く続いていた。ようやく、五頭山塊の三分の二を歩くことができた。五頭山塊北部が残っているが、どのような作戦でいこうか。楽しみは尽きない。
 菱ヶ岳の山頂から東に僅かに進んだ所に、981m最高点がある。吉田さんが寄っていくというので、足を延ばすことにした。雪庇が大きく張り出して、上には立てない状態であったので、基部まで行ってから戻った。
 菱ヶ岳からの下りは、急斜面の痩せ尾根で始まり、慎重に歩く必要があった。以前にこの尾根は登っているのだが、長く感じられる下りが続いた。途中から、坪足の踏み抜き跡が現れるようになったが、ワカンを付けたままの歩きを続けた。トレースの付いた道を歩くのは、コースを心配する必要が無く、やはり楽でよい。下るに連れて、右手前方の谷越しに見えていた五頭山スキー場が次第に近づいてきた。
 菱ヶ岳登山口の駐車場は、団体が入り込んでいたのか、車で埋まっていた。今歩いてきたばかりの長々と続く五頭山塊を車窓から眺めながら、宝珠山登山口に戻り、宝珠温泉で体を温めた。
 幸運に恵まれた山行であった。天候が回復したことはいうまでもなく、雪の状態が丁度良かった。これ以上柔らかかったら、体力を消耗して歩ききれなかったであろう。雪がこれ以上硬く締まっていたならば、急斜面の通過が困難になったことであろう。今回も、一人では歩けない難しい山を、仲間に恵まれて歩くことができた。
山行目次に戻る
ホームページに戻る